本当に(メキシコで)あった怖い話
メキシコの寮にいた時のこと。
もう20年ぐらい前のことになるけど、まだ結構覚えている。
たまに思い出しては、こうして何度も書き直しているからなんだろうな。
思い出が自分の中でブラッシュアップされて加筆訂正されていくのは不健全かもしれないけど、記憶の大多数をこうして残せるのならば良しとするべきか。
で、住んでいたのはナウカルパン市というところで、早い話がダウンタウンなわけです。結構ごみごみしていて、食べ物や衣料品のお店や市場はあるけど、いわゆる娯楽施設なんてものがほとんどなかった。今じゃどうかわからないけど、あの頃は寮の近くには小さなゲームセンターとインターネットカフェがあるだけ。
しかも、このゲームセンターもスーパーのゲームコーナーに毛が生えたような感じで小さいしそんなに面白そうなものもなかった。
インターネットカフェの方はと言えば、こっちはもっと凄かった。
ウルトラマンエースの女ヤプールの回で、ベロクロンを倒し奥歯に仕込まれたカプセルに気が付いた北斗隊員がQ歯科医院を訪れ、そこにいた女ヤプールを射殺したあとに歯医者さんだった部屋の中が殺風景な廃ビルの一室にスーーーーッと戻っていくシーンあるじゃん。
……それみんな知ってる前提かよ。
あのインターネットカフェは、あんな感じの黒っぽい茶色い壁と床の柔道場ぐらいの部屋の壁際に沿ってテーブルがあってそこにパソコンと椅子がだいたい等間隔で並んでいた。
それで1時間2ペソだったか何ペソだったか…とにかくべらぼうに安かった。
というか、他になにか利益になりそうな、たとえばドリンクバーとかソフトクリーム食べ放題とか女の子がライブチャットで脱いでて偶然出くわしちゃうとか個室であんなことやこんなことしてる「ムラムラってくる素人のサイトを作りました」のロケもない。というか個室がない。
本当に「パソコンが並んでてインターネットが出来る!」というだけの場所だった。
当時まだ寮のパソコンはダイヤルアップ接続で使えば使うほどべらぼうにお金がかかったので、みんなよくここに来てネットをしていた。
2005年の、しかも日本じゃなくメキシコの話なので、まあそんなもんだった、ぐらいに思って頂ければ。
外に娯楽のない寮生活。自然と楽しみは内側に向く。
といっても私が居た時の寮は本当に陰湿なことや体罰も暴力も一切なく、厳しいけど優しい先輩ばかりだった。私が未だに松山勘十郎さんを尊敬しているのも、そういう部分が大きい。
そんなある夜、突然練習生全員に集合がかかった。
寮の2階から4階までは吹き抜けになっていて、2階のリビングから
集合!
と声を出せばよほどのことがない限り聞こえる。わーっとリビングまで集まってみると、先輩たちが何やら熱く話し合っていた。
一体何事なんだろう……。
と思っていると、階段からおっかなびっくり降りてきて(何かまずいことになったのかな)と様子をうかがおうとした私に寮長の鈴木さんが開口一番
「おお、佐野。幽霊いると思うか?」
へ?
なんだかわからないが私はガキの時分から見たこともあるぐらいだし
「はい。いると思います」
と答えると
「ほれ見ろ! やっぱりいるんだよ」
大喜びの鈴木さん。
どうやら先輩方、あまりにやることもなく「幽霊はいるかいないか」という議論を熱くかわしていたらしい。ほとんど二十歳を過ぎて、一番若くても17歳から18歳ぐらいだったと思うけど……。
私はさっきの一言で「いる派」陣営に組み込まれ、このイリミネーションマッチに参戦することになった。しかし、この手の議論はそのうち水掛け論になり自然にトーンダウンしていくもの。
お互いに決め手に欠けてしまい、夜も更けて、そろそろどこかでキリをつけたくなってきた頃。
先輩方の中でも大人しく物静かで、いつも冷静な長谷川さんがぼそっと言った。
「オレ、幽霊みたことあるよ」
「ど、どどどどこでですか!?」
まさかの長谷川さん参戦に驚き、また目撃証言まで飛び出したとあってさらに驚く一同を尻目に長谷川さんは再びひとこと。
「ここ」
「えっ?」
「だから、ここ」
え、ここ?
寮…?
ええええーーーーっ!?
もういるとかいないとかはカンケーない。こうなったら聴くしかないってんで全員が長谷川さんのほうを向いてお話を聞く体制。
以下そのお話。
ある夜さあ、出かけてて帰ってきたら夜中でさ。
んでブザー鳴らしてカギ開けてもらおうと思って、ドアの前に立ったらなーんか視線を感じてさ。
ふっと見たら明り取り用の丸い窓あるじゃん、階段の上の。
そっから鬼のような顔した女がオレのほう向いてグーーーって睨んでるんだよ。
うわー! って思ってさ、そのまま近所のネカフェ(※注 さっきのとこ)で時間潰して朝帰ってきたんだよね
え、それってつまり、長谷川さんが見た幽霊は、建物の中に居たってこと……?
淡々と語り終えた長谷川さんは、気が付くとふっといなくなっていた。
みんな、なんとなーく静かになってしまい、その場はそれでお開きになった。
いや、だって、まさか建物の中にいたとは思わないし……なんだったら、今も……ねえ?




