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不知火血風抄  作者: 高倉麻耶
九章
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九 其の拾壱

「円蔵様は、錦様の母君に身分を明かされぬまま、別れを告げられた。そのあと錦様は肥前国でお生まれになった。錦様の幼い時分に母君は病で亡くなられ、錦様は長い間、円蔵様のことを知らずに育ったのだとか」

「それがどうして紫鬼円蔵の息子だとわかった?」

「円蔵様が母君に遺された、形見の品があったので御座る。それは今も、錦様が肌身離さずお持ちの筈」


 ああ、と不知火は納得した。そういえば錦はときどき、般若の面を彫りつけた、象牙の根付を眺めていることがあった。亡き母を偲んでいたのだろうか。


「あの根付か?」


 栗田は肯いた。


「あれは、円蔵様が手づから彫られたもの。それを忘れようはずもない」


 桜木は栗田の話を聞きながら、見も知らぬ紫鬼円蔵という男に同情した。「忍の一族を束ねる」という使命のため、惚れた女も諦めざるを得なかったのだろう。以前の桜木なら、悲恋に感じ入るなどということは、まず有り得ない。彼は横目に不知火を見た。しかし、彼女は食い入るように栗田をみつめ、話に集中していた。


「では、それはよいとしよう。錦が貴殿らの頭となったのは、いつごろなのだ?」

「それはまだ近年のこと」

「いつだ」

「申し上げられぬ」


 栗田がきっぱりと言い切ったので、不知火は押問答を避けた。


「ならばよい。では、錦が貴殿らのもとに現れたのは、いつだ」

「二十五年ほど前に御座る」

「そうか」


 気まずい空気が流れた。栗田と不知火の間に、ぴりぴりと張り詰めた空気がある。桜木は二人の顔をかわるがわる見比べ、どうしたものかと途方に暮れた。そのとき、


「最後にもうひとつ」


と、不知火が再び口を開いた。

 栗田は至って冷静に、不知火の質問を受けた。彼には「忍」というよりも、むしろ武士(もののふ)の風格がある。不知火は彼の目を、正面から見据えながら訊いた。殺気はないが、間近に見る彼女の眼差しは、他の人間にはない迫力に満ちている。


「土生村を訪れたことは?」

「拙者が?」

「そうだ。それと、錦もだ」


 栗田は腕を組み、記憶を探る目で首を傾げた。


「拙者は土生村の場所を知らぬ。匡房殿とお会いしたことはあるが」

「錦は」

「存じ上げぬ。相すまぬが、錦様に直接尋ねられたほうがよろしかろう」


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