表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不知火血風抄  作者: 高倉麻耶
七章
53/131

七 其の肆

 一通り読んで、柿村は手紙を元のように折りたたみ、丁寧に包んで封をした。そしてそれを懐にしまいこむと、腕組みをしてうーんと唸った。


(白石の奴、なんとも周到な男だな)


 柿村は内心、舌を巻いていた。もし彼がこの手紙を残してくれなかったら、そして、二通の手紙を作るという仕掛けをしておいてくれなかったら、自分はこのあと何の手がかりもなく、調査に四苦八苦していたことだろう。


 なぜ白石がそこまでしておいてくれたのかと言えば、答えはひとつである。もし任務の途中に死んでしまった場合、残される妻子の行く末を考えてのことであろう。


 この件は、もしかしたら首斬鬼の正体を明かすだけにとどまらず、何かもっと大きな事件と結びついているのかもしれない、と柿村は考えた。一刻も早く白石を探し出し、事の次第を聞いて奉行に伝えねばならない。


「よおーくわかったぜ、白石よ」


 柿村はひとり呟いて立ち上がった。


「お前さんの覚悟は無駄にしねぇ」


 彼はおもむろに押し入れを開けると、大きな長持を取り出した。長持に入っているのは、変装用の炭と笠、くたびれた蓑である。すばやく町人に化けた柿村は、少しの炭を手にとって、顔を汚し、手にぶっと唾を吹き付けて、もみこすった。


 御用伺いの格好で奉行所に着いた柿村は、門のところで顔見知りの同心が出てくるのをつかまえ、


「おれだ」


と囁いた。


「なんだ、どうしたんだ」

「すまぬが頼みがある。急いで、御奉行様に文をお渡しして欲しい。おれは調べることがあってな、すぐに行かねばならぬ。お目通りを待っている暇はないのだ」


 それだけ言うと、柿村は懐から白石の手紙を取り出して、同心の懐にねじ込んだ。


「頼むぞ、じゃあな」

「わかった」


 同心は身を翻して奉行所へ戻ろうとしたが、


「あっ」


と声を上げて柿村の腕をとり、引きとめた。


「うん?」


 柿村が怪訝な顔で振り向くと、同心は真剣な面持ちで声をひそめながら言った。


「お主が行った土生村の調査だがな、中止になったぞ」

「なんだと」


 柿村は血相を変えた。


「なぜだ? 何があった」

「十人の与力が向かって、そのまま全員逃げ帰ってきた。山道で襲われたらしい」

「首斬りか?」

「そうだ。小面をつけた小柄な男たちだったと聞いた。当分、調査に向かう者はおるまい。お主もあぶないぞ、気をつけろよ」

「……よう教えてくれた。感謝する」


 同心は肯いて、くるりと踵を返し奉行所へ舞い戻った。それを見送った柿村は、笠を深く被りなおして顎紐をきつく絞め、ひとり俯いて街道を歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ