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不知火血風抄  作者: 高倉麻耶
七章
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七 其の参

 奉行に見せる前に中を検分するのは、今回に限っては自分の仕事である。今の柿村は、奉行から案件を直接任されているのだ。仲間たちを出し抜いて、自分ひとりで先に秘密を知るようなものである。気が咎めつつも、否応なしに動悸が早まる。


 他の同心や与力のいる部屋で封書を開けると、まわりがうるさいので、柿村はひとまず自宅へ戻った。誰かに尾けられていないかどうかを十分に用心しつつ、わざと回り道しながら帰ったため、予定よりやや遅くなった。だが、そのぐらいの警戒心は必要だろう。


 部屋に戻ってほっとした柿村は、とりあえず座卓の上を片付け、埃を払った。そして小刀を取り出し、白石の封書を注意深く切り開いた。ようやく目にした手紙の内容は、柿村にしてみればまったく予想外のことであった。


『このたび、私が土生村の件についてお調べした内容について、お伝え申し上げる。貴殿が誰であるか私には予想もつかないが、おそらく同じ組の中の誰かであろうと思う。そうであってほしい。なぜなら、この文を最後まで読んだ上で、これを御奉行様にお渡し願いたいのである。もし貴殿が同心でないなら、どうかこの手紙を奉行所へご提出されたし。

 土生村は総人数が百名足らずの小さな農村ではあるが、山間の土地を切り拓いて、陸の孤島ともいえるような場所に住みながら、厳しい生活を耐え抜き、毎年正しく洩らさず年貢を納めてきた。こころがけのよい者たちの集落であった。

 この村には、もともと土生という武家があって、必要なことはすべて土生家の者に任せれば事が済んでいた。だが、先年、その土生家の当主である土生知輔明貞が乱心し、村人を斬り殺して屋敷に火をつけるという事件が起こった。』


「なにぃ?」


 思わず声が出た。これでは、明貞こそ首斬りの犯人であると言っているようなものだ。


――まさか。そんな。


 柿村の脳裏に、「首斬鬼」として描かれた人物の風貌が浮かんだ。まだ若く、面は白く、浪人ふうであり、一見すれば手弱女のようにも見える細身の男。

 だが、白石の手紙には続きがある。空想はあとにして、まずは全文を読んで頭に入れておかなければならない。


『このことは、土生村から逃げてきた生き残りの村娘によって、証言を得た。これを報告したところ、私は、密かに土生明貞の行方を探すよう申し付かったのである。

 御奉行様は、この件については後日あらためて他の同心に調べさせると仰せられた。しかし、ここまで調べる苦労はひとかたならぬものであり、難しいことであった。何より、これを証言した生き残りの娘が、先日、何者かに攫われて行方不明となったのである。誰かが我々の動きを見張っている。私の命とて保証はない。

 そのため、我が妻にこの手紙を託すことにする。後任の同心がいれば、必ず拙宅を訪れるはずだからである。そこで物盗りと偽装を警戒して、ひとつの仕掛けをしておく。即ち、手紙は二通あり、一通目の手紙には大したことを書いていない。二通目即ちこの手紙は、最初の手紙を渡した相手とは別人に渡すこととする。その際、妻が同心を見分けられるように、ちょっとした手心を加えておく。その内容は秘密だ。

 とにかく、私は身を隠す必要があり、さらに調べたいことがある。運がよければお会いできるだろう。もし貴殿が私の行方をお探しであるなら、鬼門に向かわれよ。以上

                                         白石彦次郎』


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