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ルーゲンの訊問

 いつになく男に対して多弁なノイスに責められるが、当の本人がそのことで重犯罪者となったものの言なためにジーナはむやみに否定はし辛かった。


「私はそういうことはないしハイネさんだってそんな気はないだろう」


「ではひとつお聞きいたしますが、ハイネ氏とジーナ隊長との間で行われていることを彼女は他の男友達となさっていると思われますか?」


 ノイスの言葉でスイッチが入ったかのようにジーナはハイネとの記憶を出会いのところから、昨日のところまで各場面がランダムに順不同に入れ代わり立ち代わり思い出した。


 ここまでのことを他の男と、知らない男と、行っているとしたら……可能性を考えるまでもなく、そんなことは有り得ないからジーナは言葉を変える、有ってはならないから、そして有らないでくれ、と祈る声をジーナはすぐに撥ね退け、ここで笑う。


 分からないが、笑い、それから力強く首を縦に振った。あの調子じゃあるだろうな、と言うために。


「しているわけがないだろう。なにを言っているんだ」


 口からは心からの声が漏れ出たことにジーナはすぐに閉じるもノイスの顔は驚きに満ち、それから視線を落した。目も合わせられないということか?


「男友達はたくさんおりましてもジーナ隊長は一人しかいない」


「そっそれは当然だろうに」


「ですからどうかご自信をお持ちください。傷っ面と卑下なさいますが、岩に傷がついているように傍から見ればあってもなくても変わりはありません。むしろジーナ隊長の場合は印象づけられるのでプラスなのではないかと」


 これは私が自信がないためにああいうことを言い訳がましく言っていると思われている?違う違うのだと語りかけようとすると察したかのようにノイスは立ち上がる。


「けれども俺は安心しましたよ。隊長が普通にそういう心を持っていることをです。あと俺と全然好みが違うのも凄く安心しましたし」


 お前の好みと合致する男なんかそういて堪るか。むしろ同類の恐れを抱かれていたのかとジーナは衝撃を受ける。


「それと人には到底言えない特殊な趣味を持っているとかでないとか。俺も人のことはあまり言えないし非難する権利も口もありませんが、やはり身近な他人は常識人であってほしいと勝手ながら思っていましてね」


 それはそれで都合のよい誤解であるなと安心しているとジーナはノイスの言葉をもう一度思い返す。臭いは一人、と。もう一つは、まずい。確かめないと。


「待てノイス。あの、女の臭いがするといったが。一つだけなのか?」


 勢いよくノイスは振り返りジーナをまじまじと見て、もう一度嗅いでくる。なんだろうかその反応は。


「もう一人、いるということですね」


「いや身に覚えがないのだが」


「だったらその質問は何です」


「無いけれど念のために」


「無いのに念を押す人はどこにもいません。つまり隊長は……」


 そういうことかとジーナは自ら掘った穴に足を踏み入れるが、落ちていないようにふるまうことにした。


「いいや違うよノイス。お前は私からもう一人の女の存在を嗅ぎ取ってはいないじゃないか。それともその鼻の力ははったりとかであったのか?」


「何をおっしゃられる。男でも女でも俺より嗅覚のある人間に会ったことはありませんよ」


「ではそういうことだ。ノイスが嗅ぎ取れないので二人目なんかいない。はい終了」


「ですからこちらも困惑気味で。だいたい二人目がいないのなら自分から確認するなんてことを聞くなんて」


「世の中そういうこともある。あっ私は忙しいから話はここまででもう結論だ。ではあとで」


 引き留める声を無視してジーナは駈足ではなく恐るべき速度の早歩きで以って兵舎を出た。その脚の運びと同様に心はひどく乱れ取りとめようがなかった。ハイネのことヘイムのこと、自分のこと。


 こんなことは一切考えたくはないのに、自然に頭の中であちこち飛び交ってはその度に胸が痛くなって、頭も重くなって、声も聞こえて……闇が来て、と。


 少しでも考えたくないためにジーナは例の部屋に急いで向かった。全然関係のない話を聞くために、ある意味で救いを求めるために、階段を一段飛ばしで昇り無理に心を弾ませながらいつもの扉を叩くと返事がし開くと、準備をしていた長髪で細身の僧が顔をあげた。


「随分とお早いですね」


「ルーゲン師のご講義をどうしても聞きたくて」


 その言葉に嘘は無く意外な顔をするルーゲンはジーナの様子を見て満足気どある。


「嘘でも嬉しい言葉だ。でもあなたはどうやら真実を言っているようですね。ありがとうジーナ君。はじめる前に座って少しお話でもしましょう。君も病み上がりだ、そう慌てずにゆっくりといこう」


 ジーナは席に座りルーゲンも続いた。いつものように用意されていた茶を注ぎ手に取るといつもよりも熱く、それがいつもと違うことの明確な証でもあるようであった。


 はじまる前の特別な時においてジーナは喉に慣れない熱さを感じているとルーゲンが茶菓子を用意し眼の前に差し出してきて、「どうぞ」という言葉と共に全く同じ響きと高さの声で、聴いてきた。


「龍身様が昨夜お伺いしたようだね」

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