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なんでこの宝石を買ったの?

 風が吹き止っていた雲が流れだし通り過ぎたことによって陽射しが再び場に戻り辺り一面に光を降り注いだ。


 女はその光の中にいた。足が止まったのは光の眩しさかそれとも男の声か、あるいはその両方か。


 女の停止は長くそれは浄化に必要な時間であるかのように男は無言でそれを見つめるしかなく、待っていた。


 そのうちに女はゆっくりと静かに振り返り椅子へと座る。その表情は不愛想なままであったが、陽によってか火照っていた。


「……っでなにか言ったようだが、なんだ? よう聞こえなかったからもう一度言え」


「あっはい。ちょっとしたものをお渡ししたいと思いましたがもし時間が無いのなら」


「つまらぬことを言うな。そんなことは気にせずに、すぐにはいどうぞ言ってと渡せば済むであろうに」


 そうですかと男は左懐に手を入れ箱を取り出した。女は実に興味なさげにその動きに目を送っているように男には見えた。


 まぁそれもそうかと男は箱を机の上に置き女の方へ差し出した。まだ女の態度に変化はない。


「これはなんだ?」


「先ほど入りました宝石店で購入したものです」

「ああそうか。それでこれはなんだ? 誰のだ?」


「それはあなたのですよ」


「あなたとは誰だ、のぉジン?」


 その問い掛けがまるで儀式における呪文のようだと感じつつも男には意味がすぐに分かり中腰となり箱を更に女の右手の前に押し、答える。


「これはナギのために買ったものです。どうか開けて欲しい」


 正解であったように女から呪いが解けたようにその無愛想な表情が崩れだし苦笑いめいた笑い声と共にその箱をとった。


「フフッ散々苦労しそうだがナギは果報者であるな、さて」


 箱を開くまでの間に女は思考は回転させ女はさらに思い考える。しかし切り出し難かったのは中身のことでもしや本当に赤光ではないのでは?


 妾が思ったよりも金が無く、それで主と値段のことで交渉をしていたとか? その割には良い買い物をしたとか抱擁したりとか終わりの雰囲気は良かったが、あれはなんだろう?


 あれは持ち金を打ち明け可能な限りのものを買ったという心意気の評価であったとしたら、どうだ?。 そうだな、この男はどう考えても貧しい男だ。まぁ富なんかは妾からしたらどうでもいい二の次であるが、この箱の中には見たこともないものが入っているかもしれん。


 うぅむそうだ。この男にとって高い宝石は値段としては妾の宝石箱に入れぬものかもしれぬ。その可能性は極めて大だ。ああこの事に気がついてよかった。結論としてはこうなる。赤光は買えなかったために買える値段の石を探して来てもらい、それでも足りずに値下げの交渉をし、主はその商才や妻であるナギへの思いから感激した、それならば全ての説明がつく。


 もしくは紹介状の書き主との縁の力によるか。男のこの緊張感のなさも大したものを用意できなかった自責からと見れば、説明がつく。フフッと女は笑い箱を手にした。ジンよ、そなたは良き気遣いの出来るナギという女を妻に出来てよかったな、と。


 大丈夫だぞ。どのようなものがここの入っていようがこの女はそのがっかりを顔には決して出さぬからな。今回ばかりはこの頭に入っている豊富な宝石の知識と鍛えた目が仇となるが、なんとかしてみせるから安心せよ。


 無知に徹する。そうすれば河原の石にだって感激する間抜けな小娘と同様に、いや今の妾なら畑で採れた土だらけの石でも嬉しいという表情を作れる。


 ナギはこの中の石を宝石箱の良いところに置く。確実にな。まったくお前には過ぎた女だぞナギというのは。


 いよいよ開け始めるも男は女の顔がとてつもなく期待している顔であるように見えるので少し怖くなってきた、あれで本当に大丈夫だったのかと。女が蓋を開き陽射しに反射する白い光を見た時、作っていた笑顔が消え目を三度瞬かせてから、箱を閉じた。


 いかん、願望が強すぎて幻を見たのかもしれないと女は思った。


 卑しいにもほどがあるだろうに。見間違えたということで再度笑顔を作り箱を開くと、そこにはやはり白光が燦々と輝きを放っておりまたもや箱を閉じ、机の上に置き手で額を抑えながら俯いた。


 男はある意味で予想外過ぎる動きに動揺し声を掛けようとすると、女が先に聞いてきた。


「これは、なんだ?」


 男は答えた。


「先ほど入りました宝石店で購入したもので」


「そういうことではない。これはなんだと聞いているわけだ……」



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