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やり返した癖に

ジーナはハイネの右手を左横から抜くと唇が落ちてきてまた触れ、空虚さをここにはなにも無いということをジーナは確認するも、さっきよりハイネが離れるのが数秒遅かった気がし、離れると尋ねてきた。


「聞きそびれましたが西だとこれはどんな意味がおありで?」


「夫婦が行うものだがそれ以外だと子供が大人の真似をしてのお遊びで」


 そう言うとハイネは皮肉げに微笑み自らの唇を人差し指で拭った。


「それです、これは遊びですよ遊びで。ソグでもそうです。そういったものですが……そちらの大人は夫婦以外の違う人とはしないのですか?」


「しないが」

「したじゃないですか」


 ハイネは拭ったその人差し指をジーナの唇に押し当ててまた笑う。


「そういえば私も間接的にヘイム様の唇に触れましたね。私あの人とは今までこういうのは一度も無かったんですよね。それなのにあなたは、しかも私とも」


「それは二人が」

「やり返した癖に」


 指はジーナの口の前に一本立ちとなり言葉を封じさせた。


「いいんですか西の男がそんなことをしても。

相手が東の女だとしてもあなたは西の男であり、こういった場合はあなたの地元では如何なさるのですか?」


 一本立ちの指が横に倒れた。なんだこの混乱しそうな会話は。


「……事故だとする。あるいは結んだりもしくは片方追放して」


「ヘイム様は駄目です」


「分かった。ハイネさんならいい、そういうことにしよう」


 指は立たず横になったまま、つまりその言葉を受け入れたということか。


「ふーん別にそう扱いたいならそうして構いませんよ。そうですよ私はそういう最低な女ですし」


「最低だなんて。そうじゃなくて……さっき言っていた一つの触れ合いとして」


「そういうのいいですから。そう、いいんですってば。ヘイム様は昔はそういう風に男を弄んで遊んでいたとか、今もジーナさんを使ってルーゲン師を苦しめているとかを、これをお節介にもわざわざあなたに話したり、身を以て教えたりとか、人として最低でなかったらなんです? あなたは倫理観というが薄いのでは? 最低ですねぇ」


「いや、それは一つの忠義の発露じゃないのか?ハイネさん以外にこんなことを出来る人はいないと私は思う」


 そう言うと横を向いていたハイネの顔がこちらを向くがそこにあったのか奇妙な感情の表現だった。


 歓喜にも嘆きにも見え、怒りにも慈しみにも見え、愛にも見え憎しみにも見え、全ての両方が矛盾なくその顔に同居し、ハイネとして統一していた。


「ええそうですね。善悪を問わずに超越すれば、私以外にはこんなことはできませんよ。だから私はあなたに聞きます。ジーナさん、あなたはルーゲン師とヘイム様の将来に異論なんてありませんよね?」


「私にあるはずも、ない」


 ハイネの茜色の瞳が問い掛けられジーナは元よりある言葉をわだかまりなく言うことができた。


「では協力できますよね?あの二人のことを」


「できるが協力とは具体的になんだ? 護衛を辞めることか」


 そう言うとハイネが突然慌ててジーナの手を取りにきた。あまりのことにジーナが固まるとハイネはぎこちない笑顔でゆっくりと喋る。

この人は挙動不審だなとジーナは思った。


「そこまでする必要はありませんよ。ただそういう意識のもとで考え動いて欲しい、それだけです。話す時も手を繋ぐ時も、ときたまルーゲン師のことを思ってください。そうすれば自然に離れます。心と体が、です。けど私は悪いことを要請しているわけではありません。あなたもそれを望んでおられる、そうですよね?」


 手が強く握られハイネは距離を息がかかるほどまた詰めてきた。


「そうだ。私はそれを望んでいる」


 ハイネが微笑み頷くと同時にジーナも頷くと互いの額がぶつかった。痛みばかりが、私の間にあるなとジーナは思った。

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