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第十八話 「メタリアルクラフト」

ネザー怖いネザー怖いネザー怖い。

スケルトンとガストが延々と遠距離から撃って来るし、下手すりゃマグマに落ちて全ロスする。

鉄砲砦か何か?

 ―――およそ二千年前、旧世界『アンティキテラ』は衰退の一途を辿っていた。



 魔法技術の発展により超高度文明を築き上げたアンティキテラは、最盛期には星系外宇宙への有人探査船すら建造可能なほどの技術を有していた。

 だが、それもあくまで一時的な事で、外宇宙探査船の建造や派遣を皮切りにアンティキテラ世界の人類は徐々に衰退する事となってしまう。

 その原因となったのが文明発展に最も貢献した人類が持つ最大の力の減衰、人類全体規模での魔法力の低下だった。


 アンティキテラにおいて魔法と言う力は元来人間という種が備えていたものでは無い。

 神話に語られるほどの遥かな昔、惑星がフォトンベルト内を通過していた時期に世界全体に降り注いだ莫大な天体エネルギーを受けた事で、人類を含む惑星上の生物たちが突然変異を起こして身に着けた異能力こそが、魔法の正体なのだ。

 神話に登場する神々の正体とは、神々と呼べるほどの強力な力を身に着けた原初の魔法使いたちなのである。


 その起源からして生物が進化の過程で身に着けたのではなく、天体と言う一個の生物とは比べ物にならないほどの莫大なエネルギーの影響によって発現した魔法と言う力は、惑星がフォトンベルトを抜けて数千年が経った当時、世界全体から枯渇しかけていた。

 リアルで例えるなら、機械文明を支える電気エネルギーその物が世界全体から消滅しかけていたのである。


 エネルギーの枯渇という単純かつ不可避の原因でアンティキテラ世界から消滅しかけていた魔法。

 だが、それに待ったをかけた者が居た。

 それこそが、原初の時代から生きる万能の魔法使いであり、大賢者と称えられる人類史上最高の術師『ジェリー・スピークス』である。


 原初から生きるが故に衰えてはいても強大な魔法力を維持し、自身の魔法特性によって不老となり膨大な知識を溜め込んでいたジェリーはその知識と経験により世界全体で起こっていた魔法力の衰退の原因を完全に理解していた。

 そしてその解決方法にもある程度の目途は付けていたのだ。

 問題となっているのはエネルギーの枯渇と言う単純であり、それ故に解決の難しい問題であった。

 だが単純な問題であるが故に、解決方法もまた単純な物であった。


 要するに魔法力の源となる天体のエネルギー、それに代わる新たなエネルギーを用意すれば良いのである。



「――天体由来のエネルギーの代わりとなる新たな魔法のエネルギー源、それを用意するのに当たって師匠が注目したのが『錬金術』だった」

「錬金術?」

「ああ、正確には錬金術の基本技術の一つである『触媒化』にこそ、師匠は解決策を見出したんだがな……」



 『触媒化』とは錬金術の基本技能の一つであり、その内容とは『物質から魔力を引き出す事で術の発動を補助する』という物である。

 例を挙げるなら、これまた錬金術の基本技能『調合』を成功させるために素材から必要な属性の魔力を引き出す事などがある。

 ジェリーはこの技能を利用して何とか世界に起こっている魔法力の枯渇問題を解決出来ないかと研究を続け……遂には、魔法の真理へと辿り着いたのだ。



「なぁファランクス、そもそも魔法っていうおかしな力だと思わないか?」

「はぁ? どういう意味だよ」

「だってよ、火や風はまだしも水や土の魔法なんかは絶対におかしいだろ? 魔力を消費するだけでどこからともなく実体の質量を伴った液体や鉱物が現れるんだぜ? しかも消費したエネルギーから考えたらありえないほどの大質量がだ。おかしいじゃねぇかよ? 余りにも物理法則に反してる」

「え、いや……えぇ??」



 グレイスから飛び出した『物理法則』という余りにもファンタジー世界と相反するフレーズにファランクスが困惑する。

 プレイヤー相手ならそこは気にしたら負けだろとでも返せただろうが、ゲーム内の住人であるグレイスの口から語られたこと自体が大きな衝撃となってファランクスを襲っていた。

 だが、そんなファランクスの反応など気にせずグレイスは話を続ける。



「魔法って力は物理法則に真正面から喧嘩を売ってる力だ。だが実現している以上そこには必ずそれを実現させている道理がある。それを師匠は解き明かし、今の古式魔法となるスピークス式新魔法理論を完成させたんだよ」



 そう語るグレイスの顔にはこの場に居ない己の師、ジェリー・スピークスへの確かな尊敬の念があった。

 ガラの悪く傍若無人な姿しか見せてこなかった相手が、誰かに対して強い尊敬の念を抱いているというのは、目の前で見せられたファランクスにとって中々に衝撃的な事だった。

 だからだろう、盗人で誘拐犯な目の前の少女に対して、ファランクスは遠慮がちにおずおずと話の続きを促した。

 それはグレイスの追憶を遮る事への申し訳なさと、盗みや人攫いをするような相手に遠慮はいらないという反骨心がぶつかり合った結果の中途半端な態度であった。



「……で、触媒化だの道理だの色々言ってるけど、つまり魔法ってのは何なんだよ。結局お前の師匠は何をどうしたって言うんだ?」

「つまりは、だ……魔法って力の正体は天体エネルギーを燃料にして発動する『現実改変能力(メタリアルクラフト)』であり、師匠の作り出したスピークス式新魔法は触媒化で既存の物質を魔力って言う新たなエネルギーに変換し、そのエネルギーを燃料に発動する『新しい魔法(メタリアルクラフト)』だったんだよ」

「現実改変、能力ぅ?」



 ファランクスが素っ頓狂な声を上げる。

 当然だろう、物理法則に続いて今度はファンタジーRPGよりも現代異能力バトルモノにでも出て来そうな単語が出て来たのだから。



 アンティキテラ世界における魔法の正体とは、フォトンベルトより齎された天体エネルギーを燃料として発動する現実改変能力だ。

 ざっくばらんに言ってしまえば、『無い』ものを『有る』ものに変えてしまう力である。


 原初から最盛期にまでのアンティキテラにおいて、魔法とはエネルギーを消費し存在しない『現象』、あるいは『結果』を作り出す力として機能した。

 神話に置ける天地創造や生命の創造も、現実改変によってそれまで存在しなかった土地や領域、生物を生み出すという実際に起こった出来事が後の世にまで伝わっただけの史実でしかない。

 一見万能に思えるこの能力だが、勿論欠点や限界はある。

 それは、能力の限度があくまでそれを使う者の想像の域を超えないという事だ。


 例えばの話、原初の神々が世界に満ちる天体エネルギーを永遠の物にしようと思っていたのなら後の世の魔法力の枯渇は起こらなかっただろう。

 だが、人類が知恵と知識を育み、魔法の正体とそれを行うために必要なエネルギーの存在を認識した時には全てが手遅れとなっていた。

 失ってから初めて気付くなどと言うのは良くある話ではあるが、往々にして人間は当たり前のものには注意を払わないものだ。

 魔法が使えるのが当たり前、長らくそんな世界で生きて来たアンティキテラの人類は世界全体での魔法力の減衰という事態に直面して初めて、自分たちの使う力が決して永遠の物では無い事を認識した。


 気付いた時にはもう遅く、ジェリーを含め地上には世界を変革するほどの魔法使いもそれを実現するだけのエネルギーも残されてはいなかった。

 それでも何とかしようと、衰退する世界と人類を何とか救おうとして生み出されたのが『スピークス式新魔法』、『魔法力の低下した人類でも行使出来る極小規模の現実改変により、既存の如何なるものとも異なる新たなエネルギーを生み出し、それを燃料にして行使される新たな形の魔法大系』である。


 例を挙げるなら、リューセンが指を鳴らして発動した転移魔法が良いだろう。

 あれは指を鳴らした際に発生する摩擦による熱エネルギーと、音の振動による運動エネルギーを触媒化により魔力エネルギーへと変換、あるいは改変し空間転移魔法を発動させたものだ。

 『有るもの』を『無いもの』へ、『|既存の物質やエネルギー《実在するエネルギー》』を『魔力エネルギー(非実在のエネルギー)』へと変換して利用する事こそが『スピークス式新魔法理論』の根幹である。



「天体エネルギーの代わりと、それを運用する技術さえ確立しちまえば後は簡単な話だった。古式魔法の触媒化はそれこそ何でも、『存在しないもの』からでも魔力を引き出すことが出来たからな。協力を呼びかけ世界中を天体エネルギーの代わりに魔力エネルギーで満たしちまえば世界を救えるはずだったんだよ……ま、そうはならなかったから今のこの世界在るんだがな」

「は? ど、どうしてだよ? 世界を救う方法を見付けて、別にそれを広めず隠して独占しようとかしてた訳じゃないんだろ!?」

「それについては、オレ様より詳しそうなのが居るからそっちに教えて貰えよ。なぁ、白装束(・・・)?」

『―――気付いて居たか』

「え?」



 聞き覚えのある声が路地裏に響きグレイスの見つめる方向へ首を向けると、溶けるように風景が歪みそこから見覚えのある人物を中心に幾人ものプレイヤーが姿を現した。

 リューセン、ダンジョー、スト天、マカロン、ファニー、エレインの六名である。



「リューセン! ……え、何で矢ぁ刺さってんの?」

「ヤガモダヨ!」(裏声)

「「「「「「ぶっふ!」」」」」」



 全身のあちこち、何なら頭にも矢が刺さっているリューセンがやたら高くコミカルな裏声で返したのに反応し、言ったリューセン本人とグレイス以外のその場に居た全員が思わず吹き出す。

 一気に空気が弛緩したの感じたファランクスは、続けてその場で唯一見覚えの無い人物について言及した。



「ど、どっから声出してんだよお前! ……ってか、初めて見るけどその黒焦げの花嫁さんは一体?」

「どもどもー! 初めまして新人さん! 程よく焦げて香ばしい花嫁、『レオンハルト・炒り豆・エレイン』でっす!!」

「ビスタチオだよね、エレくん?」

「初対面に名前でボケんなメー」

「黒焦げだから炒り豆、って安直だよなぁ?」

「弓なんて使ってるからボケもスベるんだ、そういうとこだぞクソアーチャー」

「ひっどーい! 君らボクに当たり強くない!? 後そこ聞こえてるぞクソガンナー!!」



 ファランクスの視点では名前も知らない、リューセンの知り合いらしきプレイヤーがわちゃわちゃしている訳だが、リューセン離れた様子で苦笑を浮かべると一歩目へと踏み出した。



「……自己紹介は後にして、まずはファラン君を返して貰おうか」

「うおっと!?」



 パチンッ、とリューセンが指を鳴らすと拘束されたファランクスが白布ごとリューセンの下へ転移する。

 転移して来たファランクスから白布を回収して再び被ったリューセンは、右手を指鉄砲の形にしてグレイスへと向けた。



「さて、逃げずに待ち構えていたのなら、何か話があるのだろう。なぁ、『初代聖女グレイス(・・・・・・・・)』?」

「リューセンだったか? 話があるのは事実だがよぉ、聖女と呼ぶなよ。オレ様はただのグレイスだ」



 背を預けていた壁から離れリューセンを睨みながら踏み出すグレイス。

 偶然にもお互いにぱっと見は聖職者に見える白装束という共通点を持つ二人が、お互いを強く見据えながら向かい合っていた。

『魔力』


既存物質などを錬金術の技能『触媒化』により変換することで生成する本来この世には存在しないエネルギー。

この魔力の生成方法を元に、魔力の運用方法を纏めたのが『スピークス式新魔法理論』、または『古式魔法(メタリアルクラフト)』と呼ばれる魔法大系。

古式魔法以前の旧式魔法はフォトンベルトから齎された天体エネルギーによる直接的な現実改変能力であった為、旧式魔法はどちらかと言うと異能に近い物。

具体例を挙げると『旧式魔法は使う者全てが全属性を使える』が、『旧式魔法は個々人の適性のある属性しか使えない』。


旧世界の神話時代の人類は誰もが強力な現実改変能力を持っていたが、新世界の今を生きる現代人に残った現実改変能力は『プラシーボ効果』のような思い込みによる肉体への影響程度の微かな残り香でしかない。

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