第十六話 「いつか殴る」
久し振りにマインクラフトをプレイ中。
ブランチマイニング中に洞窟だの地下渓谷だのにぶつかって途端に情報量が多くなる感覚を味わってます。
「♪~♪~~♪」
大王都の通りを丸太を担いだ鎧姿の青年が鼻歌混じりに機嫌良さそうに歩いている。
その正体はプレイヤーファランクス……の姿に化けた白布泥棒の少女である。
少女は現在進行形で窃盗と誘拐を行っているにも拘らず、後ろ暗い所を一切感じさせない堂々とした足取りで人々で賑わう通りを進んでいた。
「~♪ っとそうだ」
と、そこで少女は何か思い出したように呟くと、白布に包まれ丸太をさせられているファランクスの拘束を顔の部分だけ緩めた。
「――っぷは!」
「よぉ元気そうだな! そういや訊きたい事があったのを忘れててな、大王都を出るまでお喋りしようぜ?」
「ふざけんなっ!」
傍若無人な少女の物言いにファランクスはキレて怒鳴る。
だが、少女は気にした様子も無くマイペースに話し続けた。
「まぁそうカッカすんなって、どうせお前ぇの実力じゃ逃げられないんだからよ。それと、デケェ声出しても無駄だぜ? お前ぇの声は他の連中には聞こえてねぇからな」
「っ!」
少女の物言いに再び怒鳴ろうとするがすんでのところで言葉を飲み込むファランクス。
実際、先ほどから周囲の人間は丸太に見えるファランクスにちらりと視線を向けるが、それ以上は興味を示さず歩き去って行く。
少女が姿を変えているのと同様、何かしらの手段で自分の声が周囲に聞えない様にしているのだろうとファランクスは状況を見て判断した。
感情的に騒いでも意味が無いと理解したファランクスは、ハァと一度息を吐くとせめて後々の為に情報を集めようと思い自分の姿に化けている少女に若干荒んだ目を向けた。
「……で、何が訊きたいって言うんだよ? 言っとくけど、俺はこの世界に来たばかりだから知らない事の方が多いぞ?」
「世の中の事何でもかんでも知ってる奴なんざ早々居ねぇよ。ま、元から期待なんざしてねぇから答えられる事だけ答えてくれりゃあ良いさ。で、最初の質問だがお前さん名前は?」
「……ファランクスだ」
「お、そうか。オレ様は『グレイス』だ」
『グレイス』、そう名乗った少女に担がれながらファランクスはぽつぽつと会話を続けた。
やれ今の大王都の様子はどうだだの、冒険者ギルドの様子はどうだっただの、教会は人々からどんなふうに見られているかだの。
詳しく答えられないものも多かったが、大王都内や冒険者ギルドの印象などファランクスにも答えられる事はあったのでそれを中心に答えて行った。
「なるほどな。冒険者ギルドは相変わらず見てぇだが、大王都は昔と違って随分と治安が良くなったみてぇだな」
「昔とって、いつの話だよ」
「んー、千年くれぇか?」
「はぁ!?」
「ま、驚くよな。判る判る」
ボヤくように吐いた言葉にぶっ飛んだ年数で返されて驚くファランクス。
その反応にグレイスはカラカラと笑って返した。
「ま、話すと長くなるから詳しくは言わねぇが、千年ぐらい石になってたから今の世情って奴には疎いんだよ。この千年、聞こえてくるのは教会連中の愚痴くらいだったからな」
「えぇ……千年間石になってたって、何やらかしたらそうなるんだよ」
「別に呪いだの罰だので石になってた訳じゃねぇよ、てめぇでてめぇに石化の魔法を掛けてたんだよ」
「それってどういう……「――そこのプレイヤー、少し訊ねる」っ!」
と、そこへ横から話しかけて来る者が現れる。
見るとそこには特徴的な紋章を刻まれた鎧甲冑を纏った騎士、教会騎士たちの集団が佇んでいた。
ファランクス自身は教会騎士を見た事が無かったが、鎧に刻まれた紋章が大聖堂にもあった事から彼らの立場を何となく察し、警戒の視線を向ける。
一方でグレイスの方は一切竦む事も無く、おチャラけた様子で騎士の質問に答えた。
「はいはーい、何すか? オレ、急いでるんすけど?」
「っ、口の利き方を……まぁ良い、所詮は教養の無い冒険者か。訊くが貴様、古風な白い修道服を身に纏った少女を見なかったか? 隠し立てすると為にならないぞ」
「いやぁー……見て無いと思うっすけど? つーか、色んな格好の連中が歩いてるから見たとしても覚えてねぇっすよ」
「っ、役立たずめ! ……ところで貴様、その丸太は何だ?」
「あ、これっすか!? 良い丸太でしょ!! もうビンビンのギンギンのカッチカチでオレっちのお気に入りなんすよ!! どうですこの色つやと太さ、御立派でしょ!!?」
「お、おうそうか……もう用は済んだから行って良いぞ」
「ウイーっす」
「ハァ、プレイヤーと言う奴はあんなのばかりなのか? 狂っているな……全員、次に行くぞ!」
「「「ハッ」」」
話をした教会騎士が他の騎士たちに号令をかけて走り去って行く。
その姿に振り返る事も無く、グレイスは大王都の外へ続く藻へと向かって歩みを再開した。
「……おい、何だよさっきのキャラ付け! その姿のせいで俺がヤバい奴だと思われたじゃないか!!」
「一々気にすんなよファランクス、禿げるぜ?」
「禿げんわ!!」
ファランクスからの抗議を笑って流すグレイス。
女の子だろうがいつかこいつを必ずぶん殴ってやるとファランクスは内心で決意を固めた。
「あいつらだって急いでんだから、頭の緩い話の通じない感じに振舞った方が良かったんだよ。面倒な奴は無視したいのが世のだろ?」
「代わりに俺が要らん汚名を背負わされた気がするんだが?」
「必要経費って奴だよ、払うのはオレ様じゃ無くオメェだがな!」
「ぶん殴るぞてめぇ!!」
「はっはっは! まぁ後でな!」
怒声を浴びせられてもそう平然と笑って返すグレイスは、そのまま大王都の北門へと向けて歩み続けた。
『グレイス』
魔法で千年間自らの意思で石像と化していたらしい。
その正体はいずれ明かされるが、石となり身動き一つ出来ない状態で千年間狂う事無く意思を保ち続けた辺り人間の精神では無い。




