第十二話 「ミササギ流」
『瑠璃薔薇』
リューセンが魔法による品種改良で生み出した新種の青薔薇。
名前の通り、ラピスラズリを意識した色合いとなっている。
単に外見だけでも非常に美しく価値のある物だが、その真価はアイテムとして所持した際に発揮される。
その真なる能力は『所持しているだけでステータスの幸運値を上昇させる』という物。(モンハンの護符みたいな感じ)
装備品枠を圧迫せず、アイテムボックスに入れているだけでステータスを上昇させるアイテムは非常に珍しく、その上幸運値を上げる装備その物が貴重な物なのでこの薔薇はゲーム全体で見ても超弩級の貴重品。
その真価をダンジョーが知る事になるのはまだ先の話。
「マ゛カ゛ロ゛~~~~~ン゛ン゛ン゛ッ!!!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛~~~肋゛骨゛カ゛ア゛ア゛ア゛~~~ッッッ!!!???」
お互いに濁点の多い叫びを上げ続けるファニーとマカロン。
片や涙と鼻水で魔性のイケメンを台無しにしながら、片やミシミシと骨の軋む音を響かせながら。
ファニーは力加減と言うものを知らないし、マカロンはもうそろそろ喀血でもしそうである(なお、ゲームである為流血などのスプラッタなものは十八歳以上のプレイヤーが流血表現を解禁していない限り、通常はゲーム特有のキラキラエフェクトとなっている)。
故に、多少強引にでもリューセンは二人を引き剥がす事にした。
「ほら、二人共。君らが仲が良いのは良く判ったから、とりあえず落ち着いて私の話を聞いてくれ」
そう言って二人の肩に手をかけ一旦離れさせようとするリューセン。
しかし、ファニーはそれに抵抗しいやいやと首を振りながらさらに強くマカロンを抱き締める。
「嫌だ! もう私たちの事は放っておいてくれ!! 私達は二人、どこか遠く静かな場所で一緒に暮らすんだ!! 白い壁の綺麗で小さな家で誰に邪魔される事無く仲睦まじくゆったりとした人生を送るんだァァァ~~~ッッッ!!!」
「それもう違うジャンルのゲームじゃないかな?」
「ふざ、けんっ! リュー先生ッ、助け!!」
「あーはいはい、ちょっと待っててね」
溺れた様にあっぷあっぷと息継ぎしながら途切れ途切れに助けを求めるマカロン。
一方でリューセンはファニーの言動に「『地底人』やり過ぎてほのぼのとしたゲームをやりたくなってるのかな?」と首を傾げながらも、元々謝罪をする相手であったマカロンの助けに応え手早くファニーから救出する事にした。
その方法と言うのが―――
ギュッ
「かぺっ!」
ドサッ
「はーい。ちょーっと大人しくしていたまえ、ファニー君」
「ブッハァッ! はぁはぁ、助かった……」
ファニーから解放されてその場に尻餅を付きつつ、呼吸を整えるマカロン。
尻餅付いたまま見上げたそこには、左手でアイアンクローを掛けたまま片腕だけの腕力でファニーを釣り上げて立つリューセンの姿があった。
:いやこっわ!
:結構衝撃的な映像だぞこれ
:身長188cmの成人男性(ガトリングとパイルバンカー装備付き地底人)を片腕で持ち上げる身長195cm成人男性(自称考古学者魔法使い)
:二人共ガタイ良いから無駄に迫力あるなw
:学者で魔法使いとかフィジカル弱そうな職業なんだけどなぁ
:なお、リュー先生のメインジョブは『魔導聖騎士』
:つよい(小並感)
:てかFMC廃人にジョブとか意味あんの?
:(名前が格好いい以上の意味は)ないです
:これだからFMC廃人は(誉め言葉)
衝撃的な光景にコメント欄も賑わう中、リューセンはファニーが大人しくなったのを確認すると何事も無かったかのようにHPが減って顔色の悪くなっているマカロンに話しかけた。
「やぁマカロン君、大分HPが減ってそうだけど大丈夫かい? 必要なら回復するけど?」
「あー、はい。じゃあとりあえずお願いします」
「うむ」
パチンッ、とリューセンが指を鳴らすとマカロンの全身を白い光が包み込む。
その光は一秒と経たず霧散し、後には血色を取り戻したマカロンが残った。
「これで良いかな?」
「はい、全快になりました。ありがとうございますリュー先生」
「礼には及ばないよ。というかそもそも、私は君に謝らなくちゃいけないからね」
そう言うとリューセンはアイテムボックスから三枚の紙を取り出し、それをマカロンへと手渡した。
「先ほどは私が投げた爆弾が直撃してしまって済まなかったね。お詫びと言っては何だが、これは私が今すぐ用意出来る魔法、スキル、アーツのスクロールの一覧だ。それぞれから好きな物を五つまで選んでくれ、謝罪を受け入れてくれるならそれらを慰謝料として引き渡そう」
「っ! マジっすか!?」
リューセンの提案に驚愕するマカロン。
それもそのはず、コメント欄でも言及があったがリューセンは『FMC廃人』、即ち前作トワイライト・メモランダムからシリーズ世界観の根幹に根付いているシステム『FMC』、『フリー・マジック・クリエイション』の達人なのだ。
『フリー・マジック・クリエイション』とはその名の通り『自由に、魔法を、創造する』システムの事だ。
正式名称は『スピークス式新魔法理論』、シリーズファンから『DIE賢者』の愛称で呼ばれる男『大賢者 ジェリー・スピークス』が前作トワイライト・メモランダムの時代に生み出した新たな魔法大系である。
このシステムにより、前作ではプレイヤーメイドの様々な魔法がそれこそ星の数ほどと言って良いほどに生み出された。
その自由度の高さから、FMCはプレイヤーから『ゲーム内でプレイヤーがMODを製作出来るシステム』と評されるほどである。
それに魅せられた数多のプレイヤーがFMC廃人となり、元々のゲームには存在しなかった数々の魔法を生み出したのは想像に難く無い。
そうして前作で培った技術を持ったまま今作へと移ったプレイヤーは多く、その一人がリューセンなのである。
FMC廃人が製作したスキル、魔法、アーツはゲーム内に元から存在するものに比べて強力だったり、便利だったりするものが多い。
それは何もゲームに最初から用意されていたものの性能が悪いからでは無く、実際にそれらを使用するプレイヤーが改善点を見つけ出したり、既存の物では対応出来ない状況を経験した事でそれらの状況に対するものを作り出したりしているからである。
そうして最前線でより強力なもの、より便利なものを追求し続けたFMC廃人が作る魔法はいわゆる『人権』と呼ばれるほど強力かつ利便性の高いものが多く、それらの需要は留まる事を知らない。
そして、その『人権』と呼ばれるものを製作したプレイヤーの一人がリューセンだ。
リューセンが製作した代表的な人権スキルの一つ『バトルスイッチ』はその汎用性、利便性の高さから高レベルプレイヤーの殆どが採用している程需要がある。
当然、バトルスイッチを取得出来るスキルスクロールは非常に高値で取引されており、それ以外にもリューセンの製作するスクロールはプレイヤーからの人気が高く高額で取引されるものがとても多い。
具体的に言うと、バトルスイッチを始めとする人権スクロール数本で各大陸の首都の一等地に豪邸が建てられるほどの金額だ。
そんな高額な物を魔法、スキル、アーツの三種類の中からそれぞれ五本ずつ、計十五本をタダで貰えるのだ。
正直マカロンとしては、爆弾を投げつけられ叩き落された事など気にならないほどの棚ぼただった。
「え、マジでいいんすかリュー先生!? ホントに貰っちゃいますよ!?」
「ああ、賠償の品だから気にせず受け取ってくれ。この場で決めずに後からゆっくり決めてくれて良いよ」
「イィヤッホオッ!!」
まるで大当たりの宝くじか高額の小切手でも手にしたかのように飛び跳ねて大喜びするマカロン。
だが、それに待ったをかける者たちが居た。
「ちょ~っと待ったぁ!!」
「その賠償、払い過ぎだメー!!」
「ん? ダンジョーちゃんにスト?」
ズザザーッ、と無駄にスライドしながらリューセンとマカロンの間に割り込んだのはダンジョーとスト天であった。
何故か両者共に、眼鏡を掛けて首にネクタイを巻いている。
二人はやたら眼鏡をクイクイッとさせながらマカロンへの賠償の内容が不当だと主張した。
「確かにリュー先生は今回加害者だけど、あくまで意図しない事故な上に投げた爆弾は非殺傷性の物なんだよ? キルした訳でも無いのにスクロール十五本は払い過ぎだよ!!」
「その通りだメ―! それにリューセン、お前からしたら端金みたいなもんかもしれないけど、他人から見たら超高額だって事の意味をもっとよく考えるべきだメー! これが前例になって、ちょっとしたことで高額の賠償を請求するアタリ屋みたいな悪質プレイヤーが発生する可能性も考慮するべきだメー!!」
クイクイクイクイッと眼鏡をつつきつつそう主張するダンジョーとスト天。
一見正論っぽくも聞こえるが、聞いて居るリューセン本人は苦笑している。
コメント欄での反応も……
:草
:いや草
:言ってることは正しいけどさあw
:単にゲス栗が大金ゲットするのを阻止したいだけだよなw
:それなw
そう、リューセンもコメント欄の住人も理解していた。
ダンジョーもスト天も、マカロンが大金(超高額で売れるアイテム)を手に入れるのが気に入らないのだという事を。
呆れてこそいないが、ゲーム内の資産の事で何もそこまで食って掛からなくてもとリューセンは苦笑いだ。
一方でダンジョーとスト天は激怒していた、嫉妬していた、憤慨していた、絶対に阻止せねばならぬと誓っていた。
普段から飄々と小物ムーブやゲスムーブ(ファニー限定)をしているマカロンの矢鱈潤沢な資産を、これ以上増やしてはならぬと。
ダンジョーとスト天には経済が判らぬ、日々自分作りたいものを作りそれを打っては生計を立てて居た。
それはマカロンと手同じであり、単一のアイテムを作る二人と違い建築勢であるマカロンは自身の作品を売って資金を得るのは難しい筈であった。
だが実際はどうだ?
マカロンはダンジョーとスト天よりも、それどころかプレイヤー内でも十指に入るほどの潤沢な資金力を持っている。
ファニー以外にはゲスムーブをしないため本人に自覚は無いだろうが、日々の日常会話から無自覚にその資金力故のマウントを取って来るマカロンにダンジョーとスト天は日々内心歯ぎしりしていた。
その上リアルのマカロンは、不労所得持ちの勝ち組と来ている。
到底許せるものでは無かった。
故にこそ、ダンジョーとスト天は無駄にパッションを滾らせて叫ぶのだ。
「過剰な賠償を是正せよー! マカさんの資金をこれ以上増やすなー!! 寧ろダンジョーちゃんも何か欲しいです!!」
途中から本音と欲望が駄々洩れとなるダンジョー。
その言葉に少しだけ悩むそぶりを見せたリューセンだったが、結局はまぁ良いかと了承した。
「いや、ダンジョーちゃんには瑠璃薔薇あげたし……まぁけど、確かに花束一つとスクロール十五本じゃ流石に見劣りするか。了解、また後で豪華さ重視のプレゼントを用意しておくよ」
「やたっ! ならばヨシッ!!」
ズビシッ、と某宇●猫のようなポーズで喜びを露わにするダンジョー。
現金だなぁとは見て居てリューセンも思ったが、改めて考えるとチャンネル登録者十万人達成のお祝いが花束一つじゃ地味過ぎたかなとも思い、これで良かったと結論付ける。
これを見ていたスト天が期待の混じった眼差しを向けながらリューセンに叫ぶ。
ただマカロンが高額アイテムを貰うだけなら許せなかったが、自分もついでに高額アイテムをタダで貰えるのなら話は別である。
類は友を呼ぶと言うが、ダンジョーもスト天も現金な所はよく似ていた。
「賠償と言う形にするから問題が起きるんだメー! あくまで個人的に親しいプレイヤーへのプレゼントぐらいにしていた方が、知らない奴が俺も俺もと湧かなくて済むんだメー!! それともューセン! お前は賠償目的のアタリ屋ムーブ害悪プレイヤーに絡まれることになっても良いのかメー!?」
「別に良いよ? そう言ったのが出て来るなら全員殺すから」
「アッハイ」
一瞬で空気が冷え込んだ。
何でも無い様にそう言ったリューセンに対し、スト天は冷や水どころか過冷却水ぶっかけられたかのような寒気を感じていた。
:ヒエッ
:こっわ!
:いや怖えええ!
:世間話でもするかのような鏖殺宣言、俺で無きゃ聞き逃しちゃうね
:リュー先生こういうとこ怖いよね、優しいけどPKなんかに躊躇いが無い
:そりゃ(旧作対人勢トップ陣の一人なんだから)そう(いう躊躇いなんて持ってる訳が無い)よ
そう、考古学者を自称するFMC廃人であるリューセンのもう一つの肩書が『旧作対人勢』だった。
MMOでは無い物のオンライン要素を持つ旧作では対人戦が大いに賑わっており、リューセンもまたFMCによるオリジナル魔法の開発などの傍ら対人戦に明け暮れた歴戦の猛者である。
その為実のところ、優しく大らかな普段の言動からは信じられないほどリューセンは好戦的な一面を持っており、突っかかって来るプレイヤーが増えるのは大歓迎であると素で考えている程のバトルジャンキーであった。
その事を思い出したスト天は、恐る恐ると言った様子でリューセンに話しかける。
「あー、リューセンならそう言うよなぁ……」
「勿論! 『ミササギ流抜刀術』は戦国最強、来るもの拒まず去る者は追いかけて首を刎ね晒すとも」
「こいつマジ蛮族スギィ! あ、メー」
とは言えそこは付き合いの長いスト天、直ぐに調子を取り戻し軽口を叩く。
またリューセンが流派名を出した為、コメント欄には他の対人トップ流派のプレイヤーが発生していた。
:リュー先生自信満々やね
:実際強いからね、ミササギ流
:これだからミササギの鴉は
:戦国最強を名乗るが、所詮は井の中の蛙
:我々ネクロポリスの前ではただの案山子ですな
:はっ、それ俺らカタコンベ前で言えんの?
:モグラ共が何を言うか、我らダフマこそ至高!
:旧作対人勢大量発生してて草
:チッスチッス、流派アーツ再現失敗して結局リュー先生に依頼してスクロール作って貰ったみなさーん! どんな気持ちー?
:もち感謝してる!
:メインはネクロ槍だけど、やっぱカタコンベのガンスリンガー楽しいんだよなー
:カタフマ構築の空中戦無双楽しくてやめられんわw
:ミサネクの一剣一槍近接無双気持ちー!!
:仲良しちゃんぽんじゃんwww
:そりゃ旧作対人勢のトップって全流派極めた上で好みの物をメインにしてるだけだからね?
:前提として全流派を修めた上でそれらを状況に応じて使い分けるのがトップ陣の必須スキルだったからね
:敵の流派の動きを知ってればそれだけ戦うのが楽になるからね(なお、相手も同じだから楽にはならない)
:あの頃楽しかったなぁー
:MMOだからデスペナ長いのがエタメモの欠点だよね
:殺されても直ぐリスポンしてまた戦えるぐらいのテンポが良いよなぁ
:旧作対人勢頭修羅道過ぎてマジで草
ここぞとばかりにコメント欄に浮上する旧作対人勢の面々。
それらのコメントにリューセンは懐かしさを感じて笑みを浮かべ、スト天は何とかして自分もリューセンからスクロールを貰う流れに持って行こうと考えを巡らせていた。
この羊、まるで諦めていないのである。
『ミササギ流抜刀術』
旧作時代において対人戦のシェアトップを争っていたゲーム内流派の一つ。
ミササギ(御陵)の名が示す通り旧作世界では高貴者達の墓守を務める一族に伝わる剣技とされており、本拠地である『ミササギの森』は墓荒らしである敵プレイヤーとそれを迎え撃つミササギ流プレイヤーが日々鎬を削る対人戦のメッカの一つとして賑わっていた。(ダークソウル3のサリヴァーン裏みたいな感じ)
なお、コメント欄に居た流派はそれぞれミササギ流と似たような墓守系流派であり、それぞれ
『ネクロポリス流槍術』
『カタコンベ流射撃術』
『ダフマ流格闘術』
となっている。




