第十話 「テロリスト盛り盛り その三」
難産でした。
ファニおじのファニおじらしい部分が上手く伝わると良いなと思いつつ更新です。
「隠れていないで出て来たらどうだっ!! それとももう一度鉛玉の雨をくれてやろうかっ!?」
怒声と共に黒装束の大男、ファニージャック=ジンバーレオンが未だ粉塵に紛れて安否の確認出来ないマカロンへ向けて左腕のガトリング砲の銃口を向ける。
すると粉塵の中から立ち上がる人影があった。
そこに居たのは、右手にボロボロになった木製のデッサン人形のような物を持った無傷のマカロンだった。
「いっつつ……『身代わり人形』が無かったら即死だったな。オイ、ファニー! 酷いじゃないか!? 大親友のこの僕にこんな仕打ちをするなんて!! 僕が一体何をしたと言うんだい!?」
最早ボロクズと化した身代わり人形と呼んだ物をその辺に投げ捨てたマカロンは、芝居がかった大仰な身振り手振りでファニーを糾弾する。
その様子を少し離れた位置からダンジョーとスト天が半眼になって見ていた。
「うわ~、ムッカつく。ここからだと顔は見えないけど、声と仕草だけでこれだけ苛立たされるなんて一種の才能だよね?」
「全くだメー。あの栗、一回大砲に詰めて成層圏まで打ち上げるべきだと思うよ、オイラ」
見る者聞く者を苛立たせるようなマカロンの口調に、これもうファニおじと一緒にマカロンボコった方がジャスティスなのでは? と悩み出すダンジョーとスト天。
コメント欄もまた、襲撃者であるファニーでは無くマカロンを非難するコメントで溢れていた。
:うっわ白々しいw
:この顔殴りてえ
: ど の 口 が
:そこは大人しく死んどけよ!
:死んだら死んだでファニおじが面倒臭くなるんだよなぁ
そんな外野の反応は気にせず、あるいは気にならないほど怒り心頭となっているのか、ファニーはダンッと強く大聖堂の屋根を踏みつけてマカロンへと怒鳴った。
「何をした? 何をしただと!? マカロン! よくもぬけぬけとそんな事を言えたものだなッ!? 今日は丸一日私と一緒にゲームをすると、そういう約束だったろうっ!! 社会人にとって仕事を気にせずにゲームが出来る休日がどれほど貴重な物なのか!! 知らぬとは言わせんぞッ!!!」
「「うっ」」
怒りを通り越して悲痛さすら感じさせるファニーの叫びに、マカロン本人では無く外野のダンジョーとスト天が揃って胸を押さえる(スト天はわざわざ後ろ足二本で立って前足で胸元を押さえていた)。
二人もまた社会人である為に、ファニーの言葉が深く胸に刺さったのだ。
そうしてそれは、コメント欄の者たちもまた同様だった。
:(´;ω;`)ブワッ
:止めてくれファニおじ、その言葉は俺たちにも効く
:効くっつーかぶっ刺さるんだよなー
:涙で前が見えねぇよ
:メンヘラ厄介おじさんの言葉でこんなに胸を抉られることってある?
社会人たちを中心にコメント欄にダメージが広がる中、同じ社会人であるはずのマカロンは特にダメージを受けた様子も無く、寧ろ嘲るような笑みをファニーへと向けて宣った。
「ンンンンンン~~~~~~~、さてはて……いやぁ、不労所得持ちの僕にはさっぱりですね!」
「この栗ィッ!!!」
「落ち着いてストさん!? 殴ったら余計ややこしくなるから!!」
:ゲス栗お前ぇ!
:流石ゲス栗w
:やべぇ、一瞬モニターぶん殴りそうになった
:俺は殴った
:俺も
:僕も
:私も
:ワイも
:おいどんも!
:モニパンマン大量発生してて草
相手を煽る事に全振りしたマカロンの返答にスト天が殺気立ち、ダンジョーがそれを押し留める。
コメント欄も一気に加速するが外野の反応など関係無しにファニーの口調はどんどんヒートアップして行く。
「……ああ、そうだったな。思えばお前は昔から、バイトもしてないのに何故か金回りの良い奴だった。社会人になった今も、そういう所は変わっていないよ……だがお前は変わってしまったッ!! 少なくともあの頃のお前はっ、女子の誘いにほいほい乗って私との約束を破るような男では無かったァッ!!」
今にも血涙でも流しそうな様子のファニー。
対してマカロンはと言うと、アイテムボックスから取り出した無駄に高級感の漂うソファーに腰掛けつつ、ファニーへと嘲るような視線を向けて。
「変わったぁぁぁあああ??? オイオイファニー、いつまで学生気分のつもりだよォ! 僕らはもうアダルトなんだぜェ!? 野郎との約束と女の子からのお誘いなら、当っ然! 女の子を選ぶに決まってるんだよォッ!!!」
「っ! マカロン、お前……!」
「まぁ確かにオイラも野郎と女の子なら女の子を選ぶけど」
「急に冷静にならないでよ、ストさん」
:そりゃ(メンヘラ厄介おじさんと火薬狂いの幼女の二択なら)そうよ
:誰だってそうする、俺だってそうする
:まぁ女の子が一緒にゲームしてくれるなら俺らもな?
:で、一緒にゲームしてくれる女の子は居るんですか?
:無いです(血涙)
「―――それで、地底人のお前が態々僕を追っかけてダンジョンから地上に出て来た訳だが……どぉせ単に僕を殺しに来たってだけじゃないんだろ? なんかあるんなら言ってみ? んん??」
:うっざ
:うわ殴りてえ
:まあ確かに今までのパターンならファニおじがゲス栗の気を引くために何かしら用意してるけど
:大体用意する物全部トンチキだよなw
:毎回ファニおじが何持ってくるか楽しみにしてる
:正直生き甲斐
左手で頬杖を突きながら掌を上に向けた右手をクイクイと動かすマカロン。
コメント欄にもあるようにこれはある種お約束の流れで、マカロンを追って来たファニーがマカロンの気を引くためのアイテムなどをお披露目し、それにマカロンやダンジョー、スト天の三名が各々リアクションを取ったところで、ファニーも三人に合流して一緒に遊ぶと言うのがいつもの流れであった。
だが、今日のファニーはいつもと違った。
「くっ、くっくっく。なぁマカロン、何があると思う? わたしはずっとずっとずぅっと考えて来た……。どうすればお前を引き戻せる? どうすればお前は私を見てくれる? どうすればお前は私の下から離れないでくれる? その事だけを、ただその事だけをずぅっと考えて来たんだよ……そして結論が出た」
「ほーん、で?」
「お、ファニおじのエンジン掛かって来たな。メー」
「人外魔性の美貌を台無しにする気持ち悪さが滲み出て来たね」
:キタキタキタ
:ファニファニして来たな~
:このじっとりしたイケボが毎回くせになる
:メンヘラ厄介おじさんの本領発揮だ!
:ファニおじとゲス栗の温度差に毎回笑うわw
じっとりとした口調と執着心を感じさせるファニーの眼光を前に、あくまで余裕を崩さないマカロン。
そんなマカロンに、ファニーは自身の出した結論を言い放った。
「―――バ美肉だ」
「ふーん………え、なんて?」
「メェ?」
「ほえ?」
:え?
:はい?
:おん?
:マ?
:どゆこと?
ファニーの予想外過ぎる言葉を前に、ここに来てキョトンとした顔をするマカロン。
同じ様にダンジョーらやコメント欄にも困惑が広がっていた。
「え、ファニー、お前、え? どうしてそうなった??」
「どうしてもこうしても無い! お前が親友の私よりも女性バーチャル配信者のダンジョーを選ぶと言うのなら、私も同じステージに立てば良いだけの事!!」
「いやいやいやいやいや」
「私はァ! バ美肉配信者になるぞッ!! マカロンンンッッッ!!!」
「待て待て待て待て待てって!!」
「ファニおじが配信者デビュー? 出来んのかな? いや、本気なら先輩配信者として協力するけどメー」
「ちょ、噓でしょファニおじ!? 配信者になってくれるのは嬉しいけど推しのイケメンが女の子になるのはヤダー!!」
「推しだったんだ、ダンジョーちゃん」
:ええ(困惑)
:そうはならんやろ
:なっとるやろがい!
:さっすがファニおじ! 俺たちに予想も出来ない結論に平然と到達するぅ!
:そこに痺れる憧れない!
配信者三名が困惑しコメント欄がお祭り騒ぎとなる中、ファニーはアイテムボックスから取り出した巻物の様な物を掲げた。
「私はァ、男性アバターを辞めるぞマカロンッ! リュー先生から買ったこの『性転換』のスキルスクロールで、私は女性アバターを手に入れるッ!!」
「スキルスクロール!? 普段地底に引き籠っているお前がどうやって!?」
「いやぁ! 誰かファニおじを止めてぇ!!」
「……(外見がランダムでスキルキャパシティを圧迫する『性転換』よりも、使い捨てでアバターの作り直しが出来る『アバターリメイク』の良かったんじゃ。とか言えない雰囲気だよね。メー)」
:何故か無駄にシリアスw
:他は兎も角ファニおじはネタじゃ無くマジで言ってるのホント面白いわw
:正直あの人外級イケメンが女になったらどうなるか興味あるわw
:俺もw
:止めろファニおじぃ! これで人外級美少女アバターにでもなったら推しにしちゃうぅぅぅ~!
:美少女じゃなくても十分推しなんだよなぁ
―――もう誰も止められない(というかそもそも本気で止めようとしている者がいない)。誰もがそう思ったその瞬間、誰もが予想しなかった事が起きた。
ヒュッ!
突如飛来する漆黒の球体、高速で放たれたそれはまるで吸い込まれるかのように真っ直ぐに飛び、まるで狙いすましたかのようなタイミングで軌道上の相手へと命中した。
そう―――
―――驚きから中途半端に椅子から立ち上がっていたマカロンの側頭部に。
ドゴォッ!
「ゴバァッ!?」
「ッ、マカロン!?」
「な、栗ィ!?」
「マカロンさーん!?」
:は?
:え?
:敵襲!?
:ゲス栗死んだ!?
:この人でなし!!
:ちょ、マジで何!?
唖然、騒然、意識外から放たれたそれは無防備なマカロンに命中すると、そのままマカロンと共に爆破されて開いた大聖堂の屋根の穴へと落ちて行く。
呆然と屋根の上に取り残された三人がそれを見送るとマカロンが落ちた先から爆発音が聞こえ、その音と衝撃で固まっていた三人は再び動き出した。
「マカロン? マカロン! ……嘘だ、こんな! うわぁぁぁあああああぁぁああああぁあああああっ!!!???」
「爆発!? って事は今のは爆弾かメー? 砲丸型の爆弾ってダンジョーちゃんの作ってる奴じゃ……」
「ちょ、ストさん!? 犯人わたしじゃないよ!? 今のだって角度と方向的に広場から放たれてた奴っぽいし」
「誰だぁ!!! 誰がマカロンを殺したぁ!!! ぶっ殺してやるぅっ!!!」
スト天から疑いの眼差しを向けられたダンジョーが大聖堂前の広場を指さす。
それを聞いて居たファニーが、滂沱の涙を流しながら左腕のガトリングをダンジョーの指さす方向へと向けた。
そこには―――
:リュー先生!?
:リュー先生じゃん!?
:リュー先生が犯人!?
:ってか横の戦士誰?
:意外! それはリュー先生!!
そこに居たのはやたら美しい投球後フォームで固まるリューセンと、その横で「殺っちゃったよこの人!?」と言わんばかりの目を見開いた驚愕の表情でリューセンを見つめるファランクスであった。
次回はリューセンたちの視点に戻ります。