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[ブッシュ視点] 偽りの英雄は自分の無力さを知りました


「妻は……妻は、目の前で変なゼリーみたいな怪物に飲み込まれてしまったんです!」


「ゼリーの怪物ですか。う~ん。やはりそれは王国が探してた魔物で間違いないんじゃないのか? なあ、ブッシュ。お前はどう思う? ブッシュ?」


 マルコにどう思うと言われても。そんな事は俺だってわかっている。ただ、あの問題は解決したのではなかったのか? と、いうのが俺の答えだった。王国の地下牢獄から逃げた魔物は倒されていたはずなのだ。


「ああ。確かにそうかもしれないな。王宮にもう一度確認してみようぜ」



 被害者の夫の話を騎士団長ジェスターに話すると、間違いなく逃げた魔物だろうとの答えが帰ってきた。しかしこれは好機だ。倒せば間違いなく英雄だ。

 この前、あの雑魚セル達を追い払い陛下の窮地を救った事で俺達の地位はさらに確固たるものになっている。ここで更なる実績を挙げればよい。気分が高揚してくる。犠牲者が増えれば増える程に討伐を求める声は多くなるものだ。そして多くの者が殺された今なら丁度よい頃合いだ、とそう思った。


「マルコ。俺達も巡回回数を増やそうぜ。このまま魔物を放って置く事は出来ないだろ」


「え~! マジで言ってるの? 今でも殆んど一日中この件にかかりっきりじゃない。私、もう疲れたんだけど」


「そう言うなマリン。全ては王国の為だ。俺達は王国の期待を背負う認定冒険者なんだからよ。なあに、見付けさえすればチャチャっと片付けられるさ。なあ、マルコ」


「ブッシュの言う通りだ。今は全力を尽くそう」




 さすがに夜中になると街中を歩いている者はいない。そんな静か過ぎる夜中の見廻り中にその時は来た。

「きゃあああああ!」と、甲高い悲鳴。誰が聞いても危機感を感じさせる悲鳴だった。きたきたきたきたきたぁぁ! これは間違いなく死に直面している者の叫び。


 俺達は悲鳴の方に走った。距離はかなり近い。そしてとある家の中からその叫びは聞こえていた。剣を抜いたマルコは、ためらいもせずに玄関のドアを蹴り破った。

 すると丁度目の前で一人の女が身体半分をゼリーのような物に飲み込まれていた。


 マルコは何処を斬ればよいのかと戸惑っていたが、俺は躊躇しない。食べられてる女の事はどうでも良かった。直ぐに詠唱を開始して炎の魔法、バーニングを発動すると、女の下半身にまとわりついているゼリーが燃える。女もその熱さからか、食われているからか悲鳴を挙げた

 

 しかし、その炎は直ぐに消えた。女性はゼリーにより溶かされるように消えて行く。やがて悲鳴すら挙げなくなり、完全に消えた。俺の魔法が全く効いていない?

 ゼリーはヌメヌメと形を変えていく。それは上に伸びて人の形を成した。俺は直ぐに次の魔法を放つ準備に入った。


「ブッシュ。少しは人を助ける事も考えろ」


「何言ってるマルコ。そんな事言ってられる敵じゃないぞ!」


 直ぐに人型となった魔物は剣のような手でマルコに斬りかかる。マルコはそれを自身の剣で受けたが、耐えきれずに吹き飛ばされ。なんてパワーだ。想像を越えている、というかレベルが違う。

 これは相手にしてはいけない魔物かもしれない。俺は渾身の魔法を放った。現在の俺に使える最高レベルの魔法『バーニング・ホール』

 たちまち炎の渦が魔物を包み込んだ。魔物を下から飲み込むように燃え上がる。炎の穴の中に落とされたように四方八方から奴は焼かれていく。


 ふん。何に変身したって所詮はゼリー体。灼熱の炎を浴びれば溶けて無くなるだろう。そう思っていた俺は魔法による炎が消えはじめて目を疑った。

 普通に立っており、効いている感じが無いのだ。魔物は溶ける事なく相変わらずの人型をしており。こちらに向かって炎の中から手を差し出した。


「な、なに────ぐわぁぁぁ!」


 突然俺の体が炎に包まれた。これは、バーニング・ホール? 魔法が使えるのか!? しかも全く同じ魔法で返してきたと言うのか?

 ただのゼリー体がまさかこんな嫌がらせみたいな反撃をしてくるとは思いもしない。まるで人間並みに知能があるかのような攻撃。いや、人型である時点で奴は知能も持ち合わせているのだと考えるべきだった。


「マリン! 早く俺に魔法防御を……」


 必死で声を出そうとしたが、俺のよりも数倍強いバーニング・ホールの炎は俺の声を遮断し、口を開けた事により一瞬で喉を焼かれ言葉を失った。

 もはや死を覚悟した時────炎は弱まった。見れば王宮魔法士が魔物に水の上位魔法で攻撃をしかけていた。


「あんた達は引がれ! そんな攻撃では殺されるぞ」


 そんな攻撃だと? 俺の最上級の魔法だぞ。宮廷魔法士というのはこんなにレベルが違うのか? グレートバジリスクを討伐したと国王から奴らに紹介された時は、王宮の兵士や魔法士達全員があんなに驚きの声をあげていたはずなのに。

 奴らでも倒せない魔物を倒した俺達を尊敬していたはずだったのに。


 それが実際は俺の方が小馬鹿にされる程弱かったというのか? こんな屈辱があるか。これでは英雄どころか笑い者にされてしまう。何とか良い所を見せる為に反撃しようと杖を持つが、魔法の詠唱をしようにも声が出ない。なんて事だ!


「ブッシュ! 大丈夫か!」


 マルコが俺に肩を貸してくれた。無様なもんだ。せっかくここまで地位を上げて来たのに。しかし見れば王宮魔法士達も魔物に次々とやられている。やはりあの魔物の強さが異常なのだ。

 クックック。そうだ、全滅すればいい。こうなったら俺達をバカにしたあいつら全員死ねば、俺の失態も全てチャラだ。


 ところが魔物の動きが突然止まった。宮廷魔法士達も疲労困憊で攻撃が出来ないのか急に場が静まった。何故魔物が止まったのかを不思議に思っていたが、そいつが突然現れた。

 銀色の髪をした少年。何食わぬ感じでユックリと魔物に近付いていくその後ろ姿で直ぐにわかった。あの雑魚セルだ。

 

 何をしに来たんだあいつは? わざわざ捕まりに来たのか? それとも逃亡生活に疲れて死にに来たのか。とにかく謎だ。よく見ると瀕死の重症らしき王宮魔法士達の側には、あの女がいる。雑魚セルの相棒だ。

 どうやらポーションを与えているみたいだが何を考えてる? きっと場にいる全員が同じ気持ちだろう。

 すると雑魚セルがこちら側に振り向き口を開いた。その目はいつもの雑魚セルとは少し雰囲気が違った。

 

「俺はお前達、バリアンテ王国軍のやつらを絶対に許さない。こんな所でスライムの出来損ないに殺させてやるもんか。覚えておけ。いつか俺がこの国を潰してやる」


 そう言うと雑魚セルは突然魔物に向かって手をかざした。魔物の形が少しずつ周囲の空気に押し潰されるように歪む。そして人型を保っていた魔物は、大きなスライムのような一つの塊へと変化した。

 魔法か? いや、そんな馬鹿な話はない。無詠唱で魔法を使うなんて魔族じゃあるまいし。いや、奴を嵌めたつもりが本当に魔族だったなんて事はないよな?


 その直後。何処かから魔法が放たれた。それはとても些細な魔法だ。初級の攻撃魔法『石つぶて』。魔法により現れた石のつぶてが魔物に当たると、バシャンっとスライム状の魔物は弾けたのだ。

 そして初めから何も存在しなかったかのように跡形も無く消えた。


 何をしても効かなかった魔物が『石つぶて』一撃で死んだ? 意味がわからない。誰もがその状況に戸惑っているに違いない。

 俺は思った。何故、そこにいる女を捕まえない? 何故、雑魚セルを捕まえないのだ! だが、わからなくもなかった。おそらく誰一人動けなかった。

 雑魚セルの身に纏うオーラというか殺気というか。とにかく異常な雰囲気に誰一人としてピクリとも動けなかった。あるいはあの魔物が動きを止めたのも、そのせいだったのかもしれない。


 やがて雑魚セルと女は共に去って行った。同時に辺りの空気が流れたような感覚を覚えた。そして、途端に全身に激しい痛みを感じる。雑魚セルの雰囲気に飲まれて俺は痛みすら忘れていたようだ。



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