王位争奪戦の参加と急遽変更された勝利条件は
目の前に聳えていた山が無くなった。その爆発の規模は俺が想像していたよりも数倍、いや、数百倍は大きい。あの周辺に人が居なかったとは言えないだろう。下手したら俺は、多くの命を消し飛ばしたのかもしれない。
「なんて事しちゃったんだ俺は。これがレギオン・ブレイクか? 俺、大して難しい事は考えてないぞ。ただ、言われた通りに魔法のイメージをしただけなのに」
「それが魔族であり、魔王の素質を持ったレクセル様の魔力です。しかし、レギオン・ブレイクをこうも簡単にやってのけるとは──やはり私は確信しました。レクセル様はブレストガルド様の御子息で間違いないと……」
「ご主人様。 た、多分、誰もいなかったと思いますよ? あの辺りは多分ただの山ですし。もし人がいたとしても多分大丈夫ですよ! 多分、『慈愛』のスキルで絶対に殺せないですから! 多分……」
おいおい。多分が多すぎるだろ。まあ、俺だってこんな事になるとは思っていなかった。グレイピットの転移魔法でこの辺境に連れてこられてから、彼女の言う通りに軽い気持ちで魔法を使った結果だ。
確かに少しは魔法が〝使えたらいいな〟と思う気持ちはあったのだが。ほんの試しのつもりが、まさか自分にこんな規格外な力があるとは思いもしなかった。
「レクセル様。レギオン・ブレイクでバリアンテを王都もろともふっ飛ばせば早いでしょうが、それを望まない事も私は理解しております。前魔王様も余程の事がない限り、一般人の虐殺は望みませんでしたから。
故にやはり王位争奪戦を勝ち抜く必要があるのです。その為に勇者を探しましょう」
バリアンテ王国に勇者という存在がいる、というのはあくまでも仮定の話だ。何故仮定なのか。それは過去に魔族最強の魔法使いが実験で作り出した魔物『レプト』の話になる。
レプトは自由自在に身体の形を変える魔物らしく。スライムのようなジェル状の素体であり、普通の直接攻撃は勿論、どんな魔法でも微々たるダメージしか与えられないという。あまりに特種な物質で構成されている事から、倒す事は事実上不可能とまで言われていたとか。
しかし数年前、バリアンテに投じられたレプトはバリアンテの宮廷魔法士達の総力を尽くした封印魔術により捕獲された。それが最近、何かの力に牽かれるように突然解放されたが。何者かに倒されたという噂をグレイピットが聞いていたのだ。
もし本当にレプトを倒せる者がいるとしたら古来からの伝承にある、勇者と呼ばれる存在くらいだろうとの見解がなされた。そして、その勇者はかつてバリアンテに拠点を置いていたという話は有名で、その息子がいるとも噂されていたのだ。
故にレプトは過去に勇者やその子孫を殺す目的もあり、バリアンテに投じられたらしいが。結果的には勇者を見付ける事も出来ずレプトも封印されたとか。
そのレプトが最近倒されとなると。魔族としては王位争奪戦の勝利条件に、レプトを倒したであろう者。つまり勇者の首を持ち帰れと決めるのも納得出来た。しかし、話を聞いていて俺は思ったのだ。
「アレ? レプトってジェル状って言ってたけど、ひょっとして大きいスライムみたいだったりするか?」
「まあ。そうですね。基本的にはそんな風に見える時もあるでしょう。ただ、姿を変えるのでいつもスライムのような形状とは限りませんが」
「ねえ。ご主人様? それってひょっとして……」
おそらくルカも俺と同じ事を考えていた。以前に地下道で倒した形を変えるスライム。それがインビジブルだったという可能性だ。因みにそれを倒したのはルカなのだが?
「じゃあ、ルカが勇者なのか?」
「まだボケるんですか、ご主人様。そんなわけありませんよ。私が魔法を放つ前にご主人様が斬ったじゃないですか。今思えば、あの一撃で瀕死だったんですよ」
「まさか、レクセル様がレプトを倒したと?」
俺とルカが、あの時倒したスライムの事をグレイピットに事細かに説明すると。やはり九十%以上そのスライムがレプトで間違いないだろうと、グレイピットは結論付けた。しかし────
「それは倒せてませんね。レプトには核があるのです。消滅せずにバラバラになり地面に流れたということは、まだ生きており何処かに潜んでいます。
これは、争奪戦の条件を変える必要がありそうです。倒せていない以上、勇者だって実在するかわかりませんから……」
しかし随分と実在するかもわからない勇者に拘るな。やはり勇者という存在には敵対心が強いのだろうか?
だがその後、グレイピットの提案で勇者の件は無しになり。レプトを討伐出来た者を勝利とする事となったが、それはそれで簡単ではない。バリアンテでは俺とルカは自由に動けないのだ。王国の兵にバレないようにコソコソと闇夜に紛れて捜索する必要があるだろう。
グレイピットがバリアンテの酒場にいる時に聞いた噂では、王国の地下にいたらしいレプトだが。未だに見付かっていないのならば街の中に潜伏している可能性が高いという。
人間を養分にするらしいので、街の外に出る事は無いだろうという話だ。つまり、今も誰かがレプトの餌になっているということだった。
「それなら今頃は王都でも、それなりに事件になってるんじゃないかな? 王都で俺達に力を貸してくれそうな人と言えば……うん。一度、ハマンさんに頼んでみよう」
こうして俺達はレプトを探す事にした。ハマンさんへの連絡はグレイピットがレイビルの村の宿屋にいる、クレールという主人に頼んだ。特殊なスキルにより連絡がとれる状態にあるらしく、夜中に冒険者ギルドに行くという事を伝えてもらう事にした。
後は目立たない格好に着替えて、夜中にグレイピットの転移でギルド付近まで送ってもらうだけだ。王位争奪戦の条件変更は既に他の候補者にも伝えられているので当然動いているだろう。
赤髪の方も顔が割れているので動きづらいのは同じだろうが、もう一人の方は自由に動けるだろうからかなり有利である。俺達は夜中になるのを焦る気持ちで待ち続けた。
そして時が来た。俺達はハマンのいる冒険者ギルドの近くへと転移してもらった。転移先には何故かドラゴン種のジルクレイアが少女の姿で待っていた。
「魔王になる気になったんだって? 私も協力させてもらうわ。まぁ私には拒否権なんて無いみたいなんだけどね」
「無駄口はいらないわ、ジルクレイア。アイツらは見付かったのですか?」
「あ、うん。赤髪の男ってのは見つけた。でも見失っちゃった。彼はまだ何も発見出来てないみたい。私の事も知らないから気にも止めてなかったよ。でも移動がやたら速くてね」
「そう。仕方ありませんね。あなたと私でアイツらの動向を探って足止めします。着いてきなさい。
────と、いう事でレクセル様。私達はここから別行動させていただきます。まあ、レプトに関しては心配してませんが。私よりも先に他の候補者に遭遇したら気を付けてください」
そう言い残しグレイピットとジルクレイアは素早く何処かに消え去った。俺達はとりあえずハマンさんに会いに行く事にした。グレイピットの伝言はしっかり伝わっていたらしく、夜中なのにギルドの扉の鍵が開いている。
「おう。坊主に嬢ちゃん、久しぶりだな。お前さん達、何かとんでもない事をやらかしたんだって? 噂は広がってるぞ。まぁ、でも俺は信じてるからよ」
「ハマンさん。どうしてそんなに俺を信じてくれるんですか?」
「まあ。古い友人への恩返しって所だ。まぁ、それは坊主が気にする事じゃねーよ」
俺はとりあえず魔王関係の話は伏せて、レプト討伐についての話だけを伝えた。するとハマンは驚いていたが、直ぐに最近起きている事件について話してくれた。
やはり最近は毎日、数人の行方不明者が出ていたという。王国も冒険者ギルドもその事に関する依頼でごった返しているようだ。
おかげで俺の事だけに構っていられる状態でもないようだが、そこはやはり別の部隊が動いているらしく油断は出来ない。
「最近は夜中でも兵士の見廻りが多い。うかつに歩き回るのは難しいぞ? 坊主だと直ぐにバレる事はないだろうけどな。
とりあえず。最近、被害が多いのは南通りの居住地だな。当然、兵士も冒険者も多い。何でそこまで怪物退治がしたいのか知らないが気を付けろよ」
「ありがとうございます、ハマンさん」
情報を聞いた俺達は、レプトを探して真夜中の王都、南通りの居住地を重点的に移動を始めた。
ギルドを出たら全てが敵だと思う必要があった。そんな異常な緊張感の中、突然聞こえた女性の悲鳴に俺とルカはビクリと肩を跳ねさせた。
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