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変わってしまった物語。

アロイス目線のお話です。

「そうよ! 私はこの世界の客人(ゲスト)よ。イザークのために訪れた希望になるはずだったのよ!」



 カミラは腕を縛る縄を解き飲み物を出すようにと訴えた。

 あまりの太々(ふてぶて)しさにコニー様は苦笑し、警護にあたる領兵にカミラの手を自由にさせるよう命じる。


 カミラは縛られた手首をさすった。



「ニホンでは最低な生活してたの。いつも死にたかった。やっと()()みたいな現実(ニホン)からテンセイできて夢が叶ったと思ったのに」



 カミラ曰く、この世界は想像とは全然違っていたのだという。


 デンキもスイドウもない。スマホもデンシャもない。

 食事も味付けは塩のみ。正直、口に合わない。


 衛生環境は最悪。

 ゴキブリやネズミどころかノミや虱も山のようにいる。憧れていた貴族は平民を見下し人として扱うことはなかった。


 さらにテンセイした先はメインキャラクターではなく、無名子爵家の最下級の使用人だった……。



「ここってさ、小説の中でしょ。話の流れも知ってるから現世の知識でチート無双できるはずじゃん。それなのにさ、無双どころかモブもモブ。女中なんて身分じゃ何もできないし。給金も安いしさ。生きていくのが精一杯なんて聞いてない」



 カミラは駄々っ子のように喚き続けた。



(ニホン? デンキ、スマホ? テンセイ? 一体、何のことだ)



 俺にはカミラの言葉が何一つ理解できなかった。

 そもそもカミラの口から出たものがどこの言語なのかすらわからない。

 次から次へと出てくる聞いたことのない発音の言葉に戸惑うばかりだ。



(ザールラントの、いや東大陸での言葉ではないな)



 さりとて西大陸の言葉とも違う。

 一体どこの言葉なのだ……。



(しかも小説の中とはどういうことだ?)



 全くの意味不明だ。


 だが。


 俺は横目でコニー様を伺う。

 顔面は蒼白。紫の瞳を大きく見開き、ただ呆然と不満を垂れ流すカミラを見つめていた。



(もしかしてコニー様はご存じなのか。カミラの発した言葉を全て理解しているように見えるぞ)



 コンスタンツェ様は。

 我らが主人は……、



 ーーーー()()()()()()()()



 コンスタンツェ・フォン・ラッファーは愚直なまでに真っ直ぐだ。

 メルドルフに下向してからの行動原理は特にわかりやすい。



『メルドルフの繁栄と民の安寧』



 それだけだ。

 貴族では珍しいほどの滅私を貫き生きている。

 個人的に財を蓄えることも贅沢も決してなさらない。少しでも余裕ができれば、全て穢土復興に当てている。


 ここ7年。

 コニー様はただひたすら民に尽くしてきたのだ。


 愛おしむ家族ができ領主としての貫禄も備わったが、時に血を分けたお子ですらメルドルフ存続のための手段と考えているのではと感じることもあるほどだ(もちろん夫であるイザーク卿やお子にかける愛情に嘘偽りはない)


 そんなお方がその胸の内に何を抱えているのだろう。

 俺やイザーク卿が知らぬ過去があるというのか……。



「カミラ、あなたの気持ちはわからないでもないわ。夢にまで見た世界が想像と違ってたなんて耐えられないでしょうね」



 コニー様は領兵から差し出された椀に水を注ぎ、カミラの前に置いた。



「でもね。ここはもうあなたの知っている世界ではないの。シルヴィアの物語はすでに終わってしまっているのよ。そろそろ気持ちを切り替えた方がいいわ」


「はぁ????……って!!」



 カミラは身を乗り出した。



「やっぱりあんたも転生者なのね??? しかもサブキャラに転生してるくせに、ストーリーに関わったんだ! 聖女に一体何したのよ!」


「……何も。私は特別なことは何もしていないわ。死なないように、殺されないように、毎日を懸命に生きてきただけよ」


「懸命にって。追放される悪役令嬢が悪気もなく生きてきたの? 主人公を駆逐してイザーク様と結婚したのもわざとではないっていうの?」


「結果的にね、そうなってしまったの。故意ではないわ」


「最低!!!! 信じらんない!! サブキャラなのに勝手に物語の筋書きを変えたのね!!!」



 イザーク様の慰めは私の役目だったのに!とカミラは椀を投げつけた。

 カラリと音を立てて床を転がっていく。

 身を屈め椀を拾うとコニー様は再びカミラの前に置いた。



「聞きなさい。カミラ。どこの世界にも主役になれない人はいる。でも人として生を受けた以上は生きていかないといけないでしょう? 特に創造主の加護もない脇役(エキストラ)はね、力を尽くして自らの道を探さなければならないの。私もそうだった」



 その過程で物語が変わってしまうこともあり得ることではないかとコニー様は柔らかに諭した。

 カミラは腕を組み睨みつける。



「何が自分の道よ。自分勝手に改変したくせに、都合よくとるんじゃないわ!」


「あなたに私の何がわかるというの?! 私の人生よ。自由に生きて何が悪いの」



 コニー様の頬を一筋、涙が伝う。

 居合わせた全ての者たちが息を呑んだ。



「カミラ、あなたの前世がどうだったかは興味もないし関係もない。でもメルドルフの厨房女中であるカミラ・ミュラーが、妄想を拗らせて罪を犯したことは事実よ。罪を犯したのならば、罰は受けなければならないわ」



 前世や転生者が何かということは俺にはわからない。

 だが、コニー様の仰る通り、カミラが罪を犯したことに間違いはない。


 しかもメルドルフの未来の安泰への(きざはし)であるアスリッド様とエグモント様にーーーー領主の子を手にかけようとしたのだ。

 大罪だ。



「もう十分。これ以上話しても無駄だわ。アロイス、カミラを独牢へ収監しなさい。刑は後で言い渡します」と俺に指示し、コニー様はカミラに背中を向けた。

読んでいただきありがとうございます。

吉井です!


三連休ですが体調を崩してしまって、やっと復活しました。

健康大事ですね!


転生者であるコニーVSカミラ。

コニーはカミラを見て何を感じたのでしょうか。


ブクマ・評価・いいね!嬉しいです。

執筆めっちゃ頑張れます。


次回も必ずお会いしましょう。

皆様に多謝を。

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― 新着の感想 ―
[一言] カミラは現実を見ていなかった。ただ、それだけ。 コニーは現実を見据えてひたすら努力し続けた。だから幸せになった。 努力もせずに幸せになんかなれないということですね。
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