カミラは私と一緒なの。
アロイス目線のお話です。
カミラ・ミュラー――ただの厨房の下働きの女にもかかわらず大罪を犯した女――は獣のように悪態をつき大暴れしたために、領兵に両脇を抱えられて連行されていった。
コニー様は執務室へ戻ると、しばらく押し黙った後にカミラの刑を告げた。
「カミラは流刑にします」
流刑。
国外へ追放するということ。
死刑に準ずる刑ではある。
「……お言葉ですが、刑が軽すぎやしませんか」
「わかってるわ。カミラは私の子供たちに手をかけようとしたのだから、死刑が順当でしょう。でもね」
コニー様は寂しげな笑顔を浮かべた。
「カミラには生きてほしいと考えてるの。それでね、来週、西大陸行きの商隊が訪れるでしょう? 彼らに預けるのがいいんじゃないかと思うわ」
「西に? コニー様、それは……」
――――死刑よりもある意味、残酷だ。
ザールラントのある東大陸と対をなす西大陸。
地理的にはそう遠くない位置にありながら、制度も言語も、そして文化も異なる地域だ。
産業や学問では東大陸よりも遥かに発展しているが、未だに奴隷制度を敷いている国も多く、両大陸間の主要取引品目には"人"も含まれている(ザールラント帝国からも公にされてはいないが定期的に輸出されているのだ)。
なんの後ろ盾もなく言葉も話せない女が生きていくには、かなり厳しい環境であると言える。
そんな西大陸に罪人である女を渡すということ。
つまりは女郎として娼館に売られるか、奴隷に身を落とすか。
二択しかない。
本人の才覚次第といった所だが、どっちにしろ厳しく辛い人生が待っているには違いない。
(いっそ殺してくれと思う苦界だろうがな)
『西大陸へ追放する』真の意味をお嬢様育ちのコニー様がどこまで理解されているかは怪しいところだ。
それでも。
罪が軽すぎるのは確かだ。
「コニー様。罪人への同情はメルドルフの治安に悪影響をもたらします。例外は作るべきではありません」
「わかってる。下策であることも、重々承知よ。けれど今回だけはどうしてもそうしたいの」
「……では、そこまで仰られる理由をご教示いただけますか」
コニー様はゆっくりと、身体中のすべての空気を押し出すように息をついた。
「カミラは私だからよ」
カミラはコニー様?
「カミラも私も戻るべき故郷を永遠に失った異邦人なの。私がここで立ち直ることができたように、彼女にもこの世界でやり直すチャンスをあげたいと思ってるわ。二度と元の世界には戻れないのならば、精一杯生きてほしいのよ」
(二度と戻れない? カミラは帝都出身でなかったか?)
カミラと同じであると仰るコニー様の里はハイデランドだ。
馬車で片道1週間もあればつく。
頻繁に行き来するのは難しいが、戻れない場所とまではいえない。
(さっきはカミラと訳のわからない言葉を交わしていたし、俺の知らない誰かのことを言っているんだろうな)
あの珍妙な言葉。
カミラとコニー様だけが知る過去、もしくは何の意味かは分からないが転生や前世といったものなのだろうか。
(それらが何かは俺に打ち開けてくださることはないだろうな……)
まぁいい。
どこの誰だろうが、職務に忠実である以上、俺の主人であることには変わりないのだ。
「左様でございますか……。個人的には納得はできませんが、メルドルフの主人はコニー様です。あなた様がお望みならばそういたしましょう」
「ありがとう、アロイス」
「まぁ、今回の件は領主館内で対応することができましたので、対外的に問題になることはありません。使用人に箝口令を徹底いたしましょう。ただ……」
俺は窓際に移動する。
先ほどからちらほら使用人たちの騒めきが漏れ聞こえてきていた。少しばかり窓を開けてみる。
風に乗り再び角笛の音が届く。
一度目は短く、二度は長く。
(戻ってきたな)
角笛は派兵されていた領兵たちが帰還した合図だ。
つまりは湾岸での暴動を平定しあの面倒臭い男が帰還した、ということだ。
この上なく有能な婿殿であるが……。
(妻に対して情が深すぎるのが玉に瑕だ)
あの男の対応は俺の仕事ではない。
「後はお任せいたします。あの唐変木に関しては私にはどうにもできかねますから」
「ああ……」とコニー様は眉を下げ首をすくめた。
読んでいただきありがとうございます。
吉井です!
このお話を最後にと思っていたのですが、とても長くなったので分割することにしました。
次回で最終話となります。
webtoon版で出てきた設定(西大陸・東大陸)を取り入れて書いた番外編ですが、案外楽しく書けました。
あぁ終わりたくないなとちょっぴり思ってしまいました。
ブクマ・評価・いいね!感想もありがとうございます。
とても嬉しいです。
執筆頑張ります!!!
次回、最終回です。
ぜひ読みにきてくださいね。
またお会いできることを祈って。
皆様に多謝を。




