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【完結&漫画化】婚約を破棄された悪役令嬢は荒野に生きる。  作者: 吉井あん
第3章 悪役令嬢は過去から解き放たれる。
55/92

55.ウィルヘルムを越えてゆく。

 館の騒がしさに、私は目を覚ました。


 部屋は薄暗い。まだ夜が明けきってはいないようだ。

 横になったまま耳を澄ます。使用人達が上を下へと慌てふためいているのがわかる。


 この時間帯でこの騒ぎとなると、どうやらこの館の主人であるお父様が宮殿から戻ってきたということだろう。

 あの後、夜を徹して協議が行われ、ようやく目処がついたのか。



「コニー様。まだ暗いですよ」



 イザークが耳元で呟く。

 私の身じろぎで起こしてしまったようだ。


「ごめんなさい。イザーク。起こしてしまったのね。お父様がお帰りになられたみたい」


「そうですか。今から面会に参りましょうか。昨日の件、気になっておられるのでしょう?」



 どこまでも優しいイザークだ。

 私はイザークに甘えることにした。


 急いで支度を整え当主執務室へむかった。




 執務室の周辺はビリビリとした空気に包まれていた。

 執務室に入ると幾人かの臣下に囲まれたお父様は、私とイザークがこの時間に現れた事に少し驚かれた様子だった。


 ハイデランド侯爵令嬢ではあるが公式には部外者である私たちに、家臣たちは難色を示したが、お父様はあの場にいた以上、先行きを見届ける必要があると快く迎えてくれた。


 お父様は私とイザークに着座をすすめ、



「南部の反乱に皇軍が派遣されることが決まった。明日には都を発つ予定だ」


「ハイデランド騎士団とお父様もご出征なさるのですか?」



 お父様はハイデランド侯爵家騎士団の頭領だが、もう六十ちかい。

 寄る年波には勝てず、最近では次代のお兄様が業務を代行する時もある。が、戦となれば別だ。当主がいるといないとでは士気が違う。



「いいえ、それはあり得ませんよ。コニー様。ハイデランド騎士団は出戦いたしません」



 騎士団のことについてはさっぱりな私にイザークが補足する。



「陛下からご要望があったとしても、ハイデランドが全ての戦に参戦するわけではないのです。ハイデランドの剣は敵を撃つ為にあるのですから」



 お父様は侍従に命じて杯に蒸留酒を注がせ一気にあおった。



「リーツの言う通りだ。コンスタンツェ。ハイデランドは戦を選ぶ権利があるのだ。民とは絶対に剣を交える事はない」



 敵を伐つ。

 国外の敵とのみ戦うこと、つまり帝国民には剣を向けない。


 今回は民衆の蜂起。

 ハイデランドが制圧側である皇帝に助力することはありえないということか。



「でもお父様。ハイデランドの不参加を、陛下がよくご承諾なさいましたね」



 ハイデランド侯爵家の騎士団は皇室に属した騎士団よりもはるかに強い。帝国の主力であると言っても過言ではないのだ。



「そりゃあ説得するのには難儀したがな。だが帝国との盟約にハイデランドは外敵のみ伐つというものがある。陛下も折れてくださったのだ」


「よかったわ。安心いたしました」



 例え内乱制圧でも危険である事は変わりない。

 戦に参加しなくてよくなったのなら、それにこしたことはないだろう。



「だがな、この度の派兵にはヴローム公も出征することになった」


「え、ウィルヘルム殿下が……?」


「そうだ。一兵士としてな。総大将はハラルド皇太子だ」


「それは……」



 皇子としてではなく一貴族兵としての参戦となると、ウィルヘルムに護衛の為の近衛兵はつかない。

 民衆の制圧といえども、武装した勢力と対戦するにはあまりに非力すぎた。


 お父様は私の気持ちを察したのか「陛下のお考えだ」とだけ言い、皺のよった眉間を揉んだ。



「戦場では何が起こるかなど分からんものだが……。ヴローム公はおそらく生きて戻って来れぬだろうて。お前とは色々あった分、割り切れぬものがあるだろう」


「そんな……」



 私はイザークの腕を握り顔を寄せた。イザークが優しく私の頭を撫でる。



(あの人が死んでしまう……)



 これはウィルヘルムに死ねとの皇帝からの宣告だった。

 処刑という不名誉の死ではなく、皇帝の血を継ぐ者としての名誉の死を遂げよという避けられない命令だ。


 ウィルヘルムは民にも領にも取り返しのつかない罪を犯した。

 ひどい仕打ちも受けた。


 死も当然なのだろうが……。


 ウィルヘルムの笑顔が頭に浮かぶ。

 別れる直前も別れた後も険のある表情しか見せなかったのに、なぜだか思い出すのは笑顔だけだ。



(受け入れて、糧にしていかないと)



 私は領主なのだ。



「ウィルヘルム様のご命運なのでしょう。あの方も心得ておられると思います」


「……それでいい。お前には未来とメルドルフがあるのだからな。ところでだ、コンスタンツェ」



 お父様は寝椅子から身を起こし、



「お前のところのアロイス・べルル、ハイデランド(ここ)にいる時もかなり優秀な男ではあったが、メルドルフではずいぶん好きにしていると聞いたぞ」


「アロイスには助けられておりますが、なにかありましたか?」



 何故ここでアロイスの名がでてくるのだろう。

 ハイデランドと通じていることは知っていたが。


 お父様はさらに追加で酒をあおぐ。



「今回の蜂起に一枚噛んでいるぞ」


「は? ええ⁇」



 私は驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになった。

55話をお送りします!


前回は甘めだったんですが(結構がんばりました笑)今回から通常に戻ります。


ブクマ評価感想ありがとうございます!

たくさんの誤字報告もいただきました。

助かります!


皆さまに多謝を!

では!次回お会いしましょう!


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