445 悪役令嬢は魔法戦を見る
神殿の扉が開かれ、細く開いた隙間から外の光が差し込む。一本の線となって祭壇へ向かい、抱き合っていたウォーレスとゾーイの間を裂くように照らした。
「誰か来たよ」
ゾーイの実家から遣わされた追っ手ではないかと思ったセドリックは、マリナの肩を抱き寄せて守った。何気ない仕草の中に優しさを感じ、マリナは心が温かくなった。
「誰だ?」
押し殺した声でウォーレスが呟く。逆光で相手がよく見えない。まるで、マリナとセドリックがウォーレスに初めて会った時のようだ。ただ一つ勝手が違うとすれば、相手は入って来るなり両手に魔法球を発生させようとしていることだった。濃密な魔力の気配に、ゾーイが不快感を示す。
「しつこい奴らめ」
眉間に皺を寄せて、ウォーレスの胸を押して身体を離し、呼吸を整えて相手に向き合った。
「師匠?」
「……」
「やる気ですか?」
「あれだけ闘志をぎらつかせているんだ。先制攻撃をかけてやりたいが……」
「本調子じゃないんですから、今日は俺に任せてください。っつーか、さっきここの中で魔法を使えないようにしたばかりじゃないですか」
四人の足元には真新しい魔法陣が広がっている。領域内に魔法の発生を感知したためか、線が薄く青紫色に光っている。
「手間をかけさせやがって……」
神殿の中に歩いてきたのは、ゾーイの従兄だった。先ほど魔法で弾き飛ばされたのに怪我をしておらず、ローブだけが汚れている。……と、彼の両方の鼻の穴にちり紙で作った栓がしてあるのに気づき、四人は一様に動揺した。
「何だ、あれ……」
「飛ばされた衝撃で鼻血が出たのでしょうね。すぐに魔法で追って来なかったのには理由があったのですわ」
「何をこそこそ話している?……まあいい。帰るぞ、ゾーイ」
鼻栓男は尊大な物言いで胸を張った。呼びかけられて白い眼で睨み、ゾーイは吐き捨てるように言った。
「帰らない。従兄殿は耳まで悪くなったか?何度言ったら分かる……」
「エンウィ家が魔導士の家系として繁栄し続けるためにお前が必要だ。爵位のないコーノックに魔導師団長の職を渡したことを伯父上は悔いておいでなのだ」
「宮廷魔導士は実力で選ばれる。貴族の位に胡坐をかいて、魔法の鍛錬を怠った父上が悪いのだろう。私は行かないぞ。連れて行くというのなら、ここにいるウォーレスと魔法で勝負し、勝って見せてほしい」
いきなり対戦相手にさせられたウォーレスは、一瞬で表情を引き締めた。
12章以降を書き直す決断をしました。
こちらサイトの更新作業の時期は未定です。




