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死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?  作者: わんた


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遠慮なんてしなくて良いぞ

 倉庫から出て廊下を歩いている途中で止まる。ドアを開けて庭に出ることにした。


「広い~」


 思わず言葉に出てしまうほどだった。短く丁寧に切りそろえられた芝生が広がっていて、数十人が集まってスポーツとかできそう。もしくは動物を飼うとか、キャンプをするとか。とにかく色んな使い方が考えられる。僕たちの職業を考慮すると、訓練場みたいな感じにしても良いかもね。


 廊下の近くには井戸があって水をくんだらすぐ、鍛冶をする場所に持って行ける配置になっているみたい。作業を始めたら大量の水を使うだろうし、こういった配慮は嬉しい。ちゃんと考えられている。


「少し見てくる」


 アグラエルさんは井戸の方へスタスタと歩き、水をくみ上げる。木製のバケツに手を突っ込んだ。


「冷たい。透明だし、いい感じだ」


 なんだかよく分からないけど合格点が出たらしい。


 木製のバケツに入った水を地面にまいてから戻ってきた。


「非力な男性でもくみ上げやすいよう、軽量化の魔法が付与されているみたいだ。水質も良さそうだし、家の井戸より使いやすいだろう」


「家に魔道具……きっと高いんでしょうね」


「豪邸が余裕で買えるぐらいの値段はするだろう」


「うぁ……」


 見た目以上に大金を使ってもらって、嬉しさよりも恐怖がまさってしまった。男が貴重だからといっても限度があるでしょ。


 貧乏な生活に慣れた僕としては、もっと質素な家でも良いんだけどなぁ。


「鍛冶場だからこの程度だけど、イオちゃんが新しい家に住みたいと言ったら、国内で最も豪華な建物ができるぞ」


 ニヤリと口角を上げながら、アグラエルさんは僕を見た。


 凜々しい顔立ちをしていて陽の光を反射させる長い紫色の髪がキラキラと光っている。彼女は暴走しがちなパーティメンバーを止めることが多い。僕よりも男らしさを感じるときもある素晴らしい女性だ。


 でも、まともに話せるのは幻覚で女性の姿をしているときだけ。


 素の自分を出しているときは目を合わせるどころか、顔すら見てくれない。


 ずっと避けられるような態度を取られてしまうのが寂しく、どうすれば良いか知りたかった。珍しく二人っきりになれたので聞いてみよう。


「アグラエルさんはどうして……」


 意を決したつもりだったんだけど、言葉に詰まっちゃった。


 聞いて良いのか、それとも相手から言ってくれるのを待つべきなのか。


 友人なんていなかった僕は、人とのコミュニケーションについて経験が少ない。答えが分からないので、誰か教えて欲しいと切実に思ってしまう。


「どうした? 言いたいことがあるなら、遠慮なんてしなくて良いぞ」


 男前だなぁ……って、この価値観は日本にいたころのもので、この世界だと違うのか。男や家族、仲間を守るために戦い、金を稼ぐ彼女たちからすると当然なのかもしれない。


 そう考えると既に前提となる考え方が違うんだから、悩んだってあまり意味はない。思い切って聞いてしまうのもありかな。


「なぜ男の姿になった僕と話してくれないのか、それが気になって……」


「私の態度が悪いから、気分を悪くさせてしまったか?」


 一見すると平然としているように感じるけど、膝はガクガクと小刻みに震えている。鈍い僕にだって怖がっていることぐらいは分かる。


 男が特定の女性に不満をぶつけることは一種の暴力行為で、ちょっとした言葉でもこんなにも傷つけてしまうのか。この世界の常識になれたつもりだったけど、まだまだ考えが甘かったみたい。もっと別の表現を使えば良かった。


「ううん。そんなことありません。僕にとってアグラエルさんは頼りがいのある素敵な女性で、一緒にいると安心します」


 脅かさないようにゆっくりと歩いて、彼女を抱きしめた。鱗に覆われた硬い背中と、胸の柔らかさを感じる。匂いは草っぽい。なんだかアグラエルさんらしくて好きだ。


「だから、男の姿でいるときにちゃんと話せないと寂しいんです」


「寂しい? イオちゃんが? 他の人もいるからそんなことないだろ?」


「そんなこと、ありますよ。僕は四人と一緒にいるのが好きなんですから。アグラエルさんも近くにいないと嫌なんです」


「そっか……」


 抱きしめているので顔は見えない。黙ってしまったので何を考えているのかわからない。頬に当たる二つの控えめな胸の感触に癒されながら待っていると、ようやく話し出してくれた。


「ちょっと昔話をしても良いか?」


「もちろんです」


「ありがとう」


 手で頭を撫でられてしまった。


「私が生まれた村には偶然にも男性が一人いたんだ。村中の女と子供を作っていて、みんなが家族みたいな関係だった」


「その男性って、アグラエルさんの父親ですか?」


「うん。そうだ。男性に苦手意識を持つきっかけになったが、間違いなく私の父親だ」


「苦手意識? どういうことです?」


「家族の中で私は体が大きく目立っていたという理由で……酷いことばかり言われてたんだよ」


 その時のことを思い出したのか、アグラエルさんの体が震えていたので、抱きしめている腕に力を入れる。


 一人じゃない。僕がいるってことを伝えたかったんだ。


「イオちゃんは優しいな」


 震えが止まったみたい。


 少しでも力になれたのかな。


「まあ、あれだ。父親からお前は不細工だ。男性が化け物だと思って殺そうとしてくるから絶対に顔見せるな、みたいな酷いことをいろいろと言われ続けていてね。素の私を出すのが苦手なんだ。決して、イオちゃんが嫌いなわけじゃないぞ」


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