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それが分からないからですよ

「イオきゅんの愛が、私をさらに強くするっ!」


 ユーリテスさんは押さえつけてきた女性たちを振りほどくと、持っている剣を杖のようにして使って立ち上がった。


 すごいことなんだと分かるけど、僕の心は動かない。凪いでいる。


「スキルに抗うのはいいが、その状態で我と戦うつもりか?」


 一方のグロリアーナ女王は余裕がある。真っ正面から戦えば、どちらが有利か明白だ。


 ユーリテスさんもわかっているみたいで襲いかかることはしない。その代わりに剣を投げるとグロリアーナ女王の横を通り抜けて、ベロルさんの頭に当たった。


 運良く柄の部分だったので、皮膚が切れて血は流れているけど死んではいないみたい。ただ気絶してしまったので、歌は途切れている。


 スキルの効果はすぐには消えないみたい。動く気力が湧かずに立ったまま。


 そんな僕の唇が塞がった。


「んちゅ♡」


 舌を絡めてきたのはルアンナさんだ。いち早くスキルの影響を抜け出したんだろう。


 僅かにだけど守りたい気持ちが出て、スキルブースターが発動してしまう。


「貴方を守りますね」


 騎士として宣言すると、駆け出してユーリテスさんに斬りかかる。


 敵はスキル強化されているけど進化したルアンナさんには勝てない。刀身の腹で攻撃されると、ユーリテスさんの骨が折れたみたい。左腕に力が入らないようで、ぷらぷらとしている。


「また、お前が邪魔をするかっ!」


 浜辺でのビーチリスリングに続いて二度目の勝負だ。

 

 痛みで顔を歪めながらも、ユーリテスさんは強気の姿勢を崩さない。逃げたら負けなんて思っているんだろうけど、そろそろ降参してくれないかな。


「イオディプス君を狙う不届き者から守るのが私の使命だからな。当然だろ」

「愛に溢れている私が不届き者……? 絶対に違う! グロリアーナの方だろ!」

「グロリアーナ女王陛下は子作りをすると約束した女性だ。お前と違って認められている」

「な……に……っ!?」


 睨まれたのは僕だ。


 強い愛憎を感じる。残っていたスキルの影響がいっきに吹き飛び、恐怖心が戻ってくる。


 まるでDV親父を見る僕のようだ。


「私は純潔を守ると決めているのに、イオきゅんは汚れた女を選んだの!? 許せない!」


 駆け出そうとすると、ルアンナさんが剣を振るってユーリテスさんの片足を折った。剣の腹で叩いたのは、僕の気持ちをわかっているからだ。


 一方的に押しつけるんじゃなく、理解して実践してくれている。


 それが嬉しかった。


「邪魔されても……私は諦めない……」


 無事な右腕だけを使って、這いずるようにして近づいてくる。


 恐ろしい執念だけど僕の心は動かない。スキルの影響じゃなく、一方的な愛をぶつけられて冷めているのだ。


「相手のことを理解せず、勝手に理想を作り上げ、押しつけるあなたと、一緒にはなれません」

「なっ!?」


 動きが止まった。


 強い女性が涙を流す。


「どうしてそんなことを言うんだ?」

「それが分からないからですよ」


 心が痛むけど、ユーリテスさんのためにも冷たく言い放った。


 ついに泣き崩れて顔を地面につけてしまった。もう動かない。愛が通じないと理解して止まってしまったんだろう。


 僕は人生で初めて、女性を振ったことになる。


 泣いてしまいそうだけど絶対に涙はこぼさない。相手の方が辛いからね。断った人間の責任として、凜と立ってなければ。


 でも、やっぱり辛いのは変わらない。今だけは『集団操者』によって感情を殺してくれないかな。


「愛した男に拒絶されるか。哀れだな」


 グロリアーナ女王の声も潤んでるように感じた。


 もしかしたら同情しているのかな。


「ユーリテスは大義を失った! まだ反乱を続けるか? 今なら我の寛大な心によって無罪としよう!」


 観客席にいる女性たちへ向かって叫んだ。


 僕を担ぎ上げようとしたけど、拒絶されたから目的そのものがなくなったんだよね。


 建前でも正当な理由がなくなってしまえば民衆は付いてこない。無罪にするって言葉の影響もあって、ユーリテス派の人たちは武器を手放していく。


「騎士団の半数以上が反乱に加わったと聞いたときは国が割れる覚悟まで決めたが、イオディプスの言葉だけで止まるとはな。我が見込んだ男だけはある」


 模擬戦をしていたらユーリテスさんが攻めてきて、フラれたらクーデターが終わってしまった。


 一言にまとめるとすごいよね。ほぼ無血なんだから。


 世界で見ても稀なできごとなんじゃないかな。


 今回ばかりは僕も女性が死ぬかもしれないと思っていたから、すごい達成感を覚えている。


 DV親父みたいに暴力を振るわなくても何とかなるんだ。そういった自信が付いたように思う。


 ナイテア王国へ戻ったら、レベッタさんに告白をしよう。


 そして子供を作るんだ。随分と待たせてしまったけど受け入れてくれるかな。


 ダメだったら――。


「ごふっ……」


 鋭い痛みを感じるのと同時に口から血が流れ出た。


 視線を下げると、気絶して取り押さえられていたはずのチェロズが、ナイフで僕の腹を刺していた。


 歌の影響で兵士の拘束が解けていたのか。意識を取り戻して走って来たってこと?


 クーデターが終わったと、皆が安堵した隙を狙われたみたいで、ルアンナさんたちは動けなかったみたいだ。


 全身に毒が回って激しい痛みを感じる。


「ぁぁぁあああっっっっ!!」


 耐えきれず叫びながら転がってしまう。


 みっともない姿を見せてしまったと思いながら、毒によって僕は意識を失う。

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