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これが、イオきゅんの愛!

「あぁ、体の奥が熱い♡ もうイっちゃいそう……!」


 興奮している侍女は周囲の変化に気づいてない。ルアンナさんたちは羨ましそうな顔をしているだけで、僕を守るような動きはしていなかった。


 ねえ! 護衛のお仕事は!?


 もしかして味方は、蕩けきっている侍女だけなのかもしれない。


「興奮しているところ悪いんだけど、無力化のスキルで助けてくれないかな……?」


 放置していたら一人で致しそうだったので、肩を揺さぶって声をかけた。


「え、あ、そうでした!」


 僕の努力は実を結んで、侍女は正気になってくれた。


 孤立無援状態にならなくて、本当に良かったよ。観客席にいた女性たちが模擬戦の会場に降りてきているし、ユーリテスさんはブツブツと何かをつぶやいていて怖い。


 できれば早くスキルを使ってくれないかな。


「イオディプス様に進化させていただいた『集団操者』を披露しますねっ!」


 元のスキルは分からないけど、なんだかすごそうだ。


 期待を込めて見ていると、侍女が歌い出した。


 近づいていた女性は立ち止まり、武器を落として棒立ちになる。ルアンナさんたちは座り込んでしまった。


 集団操者スキルとは、自分が何をしようとしているのか忘れることみたいだ。


 よかった。これで助か――。


「ふふふ。イオディプス様にも効いていますね」


 僕は何をしたかったのだろうか。重要なことを考えていた気がするんだけど思い出せない。


 ああ、このまま時に身を任せてぼーっとしていたいな。


 侍女が歌いながら笑っている。


 楽しいことがあったんだろうか。僕は何も感じないから、それが素晴らしいことなのかすら分からない。


「侍女ごときが、イオきゅんを騙したな」


 ユーリテスさんは、今まで見たことがないほど憤怒の表情をしている。


 足を一歩前に出すだけで威圧感が増しているようだ。


 スキルに抵抗するほどの激情なんだろうけど、なんでそんなことをするんだろう。流れに身を任せて、すべてを忘れた方が幸せになれるのに。


「女たち! 私を助けて~!」


 歌いながら侍女が叫ぶと、僕とグロリアーナ女王を除いた全員が一斉に動き出した。


 ユーリテスさんに殺到するけど、全ての攻撃をかわしている。視線は侍女だけに向いていて、他は興味がないようだ。ただの障害物なんだろうな。


「使えない女たち! イオディプス様、スキルブースターでサポートしてもらえませんか?」

「うん。いいよ」


 命令されると心が歓喜で満たされた。忘れていた感情が蘇ったみたいだ。


 みんなを守りたいという気持ちを高めてスキルブースターを発動させる。無事に効果が出て全員のスキルが強化された。


「これが、イオきゅんの愛!」

「え……どうして、ユーリテスまで強化されているの!?」


 サポートと言われたから全員にしたんだ。のけ者にするのは可哀想だからね。


 だからグロリアーナ女王のスキルも強化されているよ。


 全員が強化されているから、元の能力が高い二人は圧倒的に優位だ。侍女が不利な状況は変わっていない。


「こうなったら、もっと気持ちを込めて歌う!」


 情熱的な愛の告白をする歌詞だけど、命令を実行し終わって無感情になった僕は心が動くことはない。


 ユーリテスは膝をついてしまった。


 スキルに抗っているみたいだ。


「おまぇ……」


 一歩も動けず、ユーリテスさんは女性たちに取り押さえられてしまった。二人の戦いは侍女の勝利で終わったのだ。


 やることはなくなってしまったので、もう命令してもらえないのかな。


 一瞬だけ残念に思ったけど、すぐどうでもよくなる。僕は操り人形。感情なんて不要だからね。


「よい見世物だった。ベロルよ。褒めてやろう」


 グロリアーナ女王が拍手をしながら言った。


 情熱的な愛の歌を前にしても、スキルは効いてないようだ。


「自我が強すぎる……っ!」

「当然だろ。庶民の歌ごときで、我が操れると思うな」


 女王としての責任感が、スキルを上回っているみたい。


 役者が違うってのはこういうことなんだろう。侍女のベロルさんは、これからどうするつもりなんだろう。


 また命令してくれるのかな。


「先ほどの不敬は忘れてやる。我の配下だけスキルを解除せよ」

「それはできません!」

「逆らうつもりか?」

「違います! 個別か全体の指定しかできないのです!」


 グロリアーナ女王の配下だけでも数百名はいる。下手すれば千を超えるだろう。全員を名前で命令を出していれば喉がかれてしまう。グループ指定できないことは、『集団操者』の明確な弱点ではあった。


「そういうことか。強力なスキルではあるが、万能ではないということだな」


 思いどおりにいかずとも怒ることはないみたいだ。


 男への加虐以外は理性的なんだろう。


「ユーリテスさえ捕まえれば反乱も終わるか」


 グロリアーナ女王は、つかつかと歩いてユーリテスさんの前に立った。


「処刑するつもりかっ!?」

「まだ自我は残っているか。実力だけで、騎士団長に任命した我の目は狂ってなかったな」


 自画自賛って言うのかな?


 身動きが取れなくなっても、ベロルさんのスキルに屈服していないユーリテスさんを褒めていた。


 反逆者なのに、認めるところはしっかりと認めるなんて、常人にはできないと思う。

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