一途なんて、なんの価値はないぞ
「相変わらず、男を痛めつけるのがお好きなようで」
久々に見たユーリテスさんの姿は、依然と変わりなかった。両サイドをハーフアップにした紫色のセミロング髪が特徴的で、額に一本の角がある。黒い目は鋭い。右手に片手剣を持っていて、武人のような気配を発しており、女性なのに王子様みたいだという印象がある。
グロリアーナ女王の隣にいても見劣りしない。そのぐらい魅力的な女性だ。
「我欲に負けた女が何の用だ?」
「イオディプスきゅんを助けに来た」
ん? きゅん? 前は君と呼んでいたんだけど。
凜々しい言葉とは反対に、僕の名前を呼ぶときだけ幼い。
王子様は、どこに行っちゃったの。完全にイメージが崩れた。
「助けるだと? 何からだ?」
「毎晩、男と遊んでいる貴方から。イオきゅんの純潔を」
呼び方がかわった。今度は短くなったけど、グロリアーナ女王は気にしてないみたい。
苦しいから、そろそろ首から手を離してくれないかな。
「お前も純潔を狙っているくせに守るだと? 笑わせるな!」
「私は狙っていない!」
「我に嘘は通じないぞ。綺麗にデコレーションした言葉の奥には、ドロドロになった汚い欲望が隠れているだろ」
「ち、違う! 私は他の女とは違う! 一途なの! イオきゅん信じて!」
首を掴まれて持ち上げられているので必死に言われても返事できないけど、自分のことしか考えてなさそうなユーリテスさんは信じられない。
僕からすれば、権力と暴力にどっぷりと浸かったグロリアーナ女王と、想像上にしかいない理想の僕を追いかけているユーリテスさんは同じだ。
だれも個人として見てくれていない。
感情を押しつけてくるだけなんだ。
童貞、いや女性だから処女か。それを拗らせているようにも思える。まあ僕も同類だけど、自覚しているだけマシだろう。
「経験豊富な女の方が男を悦ばせられる。一途なんて、なんの価値はないぞ」
「そんなことはない! 男遊びばかりしている陛下にはわからないだけだ!」
我慢ができなくなったみたいで、ついにユーリテスさんは剣を向けた。
ニヤリと笑ってグロリアーナ女王は僕を投げ飛ばした。
突然のことに受け身は取れず、頭を打ってしまう。
「よくもイオきゅんを投げたな! やはり女王として相応しくない! この場で打倒してやるっ!」
勢いよく宣言すると、観客席から戦闘音が聞こえてきた。
ユーリテスさんの仲間と観客だった兵のみんなが争っているんだろう。早く止めなきゃいけないのに、痛みによって体が動かせない。また喉も痛めてしまったみたいで、声を出そうとしても難しい。
模擬戦会場が戦場になってしまった中、ユーリテスさんが駆け出して剣を振るって攻撃している。グロリアーナ女王の武器は木剣だ。真剣を受け流すのも難しい。不可視の攻撃をするスキルを使っているみたいだけど、ユーリテスさんは回避しているようだ。身内だから手の内を分かっているのだろう。
早く二人を止めたいけど、その前に観客席の争いをどうにかしなければ。
どちらかの勢力にスキルブースターを使えば、一瞬にして戦いは終わるだろうけど、敵対した勢力に多大な死者が出てしまう。
どうしようもない状況だけど、それだけは避けたい。
「イオディプス君、怪我はない!?」
倒れている僕を抱きかかえてくれたのはルアンナさんだ。近くにリテートさん、エリンさんがいる。
さらには、僕を襲いかけた侍女もいる。
あの日を境にして仲良くなったみたいだ。
「はい。だいじょうぶ……ごほっ、ごほっ」
喉が痛くて咳き込んでしまうと、侍女の肩が背中を優しくさすってくれた。すごく優しい手つきだ。さすが高貴な人の面倒を見る人で、慣れている。
男を襲うという欠点がなければ完璧だよ。
「止めて…………誰も……傷ついて…………ほしく……ない……」
無理して声を出すと、ハッとした顔をして侍女が僕を見てくれた。
「私のスキルは無力化に特化しています。二人は止められますよ」
ときに侍女は命を賭けて主人を守ると聞いたことがある。採用される際は忠誠心の他にも身体能力、作法、スキルも考慮されているはずで、先ほどの発言には説得力があった。
「……先に……」
観客席を指さした。
「申し訳ありません。私のスキルは少人数にしか効果を出せないんです」
その程度のことであれば解決方法はある。
声を出すのは辛いので、黙ったまま唇を重ねる。ついでに胸を揉んであげると、手が股間に伸びてきて息子を掴んだ。
「あっ、んっ……ちゅっ」
舌を軽くからめてから唇が離れる。名残惜しそうな目をされたけど、周囲は争っているからって、あれ? 観客席にいる女性たちの動きは止まっていて、僕らを見ている。
先ほどまで騒がしかったのに、シーンとしている。
ユーリテスさんも攻撃を止めていた。
「私は純潔を守っているのに……ひどい……」
あ、やばい。スキル進化させようとしてキスしたら、恨まれてしまったようだ。
グロリアーナ女王は腕を組んで見守っている。
助けてくれそうなのは、ナイテア王国のメンバーと侍女だけのようだった。





