我に屈服するがいい
圧倒的な力を持っているからか、グロリアーナ女王は慢心している。僕の股間を押しつけるだけで、手足は自由にさせているからだ。
足を上げてグロリアーナ女王の体に巻き付けると、起き上がる勢いを使って倒した。
快楽に酔っていたからか、抵抗なんてされない。完全に隙を突いたのだ。
逃げられる前に、僕は腰を胸の上あたりに落として座り込みつつ、足で腕を押さえつける。馬乗りになって、グロリアーナ女王を見下ろす形になった。
格闘家であれば顔を殴ってダメージを与える所なんだけど、僕は女性を傷つけたくはない。手を出さず、口で勝負する。
「男に屈服させられる気分はどうですか?」
「……悪くはないな」
屈辱的に思うのではなく、むしろ喜んでいる。
この人はSでありMでもあるのか。
精神的に余裕がありそうで、すぐに降参はしないだろう。
「先ほどの技術は素晴らしかった。自らの力で身につけたのか?」
「ナイテア王国の女性達に教わりました」
「我の方針とは異なるが、よい国だな」
考え方が違っても認めるなんて、人としてすごい。男の扱いはどうかと思うけど、他の部分は尊敬できる。
ナイテア王国の人を賞賛してくれたのだから、今後は見下すような言動を減らしてくれるだろう。
対等とまではいかないけど、格下扱いはしないはず。
模擬戦に参加した目的は達成できた。
「だが、我は負けを認めたわけではない。ここから逆転させてもらうぞ」
グロリアーナ女王の足が僕の首を挟んだ。プライドの高い彼女らしく、似たような方法を使ってやり返したのだろう。すごい柔軟性だ。
気道が締められて苦しい。木剣を捨てて両手を使いほどこうとするけど、完全に力負けして抜け出せなかった。
投げられてしまって、地面をゴロゴロと転がってしまう。
追撃はなかった。立ち上がると腕を組んで僕を見ている。
「力の差はわかっただろ? 我に屈服するがいい」
言葉とは反対に、まだ楽しみたいと思っているような目だ。
簡単になびくような男はいらない。そうなんでしょ? 付き合いは短いけど、濃い時間は過ごしてきたんだからわかるよ。全力で戦って勝ってほしいと。
大国の女王らしく要求難易度が高い。
「まだ、戦えます」
木剣を拾う余裕はくれないだろう。グロリアーナ女王は武器を持っているので、殴りかかっても拳は届かない。
攻めよりも守り。カウンターを狙った方が良さそうだ。
「いいぞ! 我が認めた男だけあるっ!」
挑発するまでもなく、喜びながらその場で木剣を振るってきた。
不可視の攻撃スキルだ!
勘で跳躍すると避けられたみたいで、背後から衝撃音が聞こえた。
観客席の心配をしている余裕はない。グロリアーナ女王が次々と剣を振るってくるので、円を描くように走りながら回避するので精一杯だ。
止まったら攻撃をくらってしまう。
体力に余裕があるのは、短いながらも冒険者として活動していたからだろうか。未熟な僕を鍛えてくれてありがとう! 今、すごく実感しているよ。
「あはははっ! まだ避けるか! 面白い!!」
テンションの高い笑い方だ。
楽しそうでいいな。僕は走りすぎて苦しくなってきたよ。スキルの発動には体力を使うので、そろそろ打ち止めになってもいいんだけど、止まる気配がない。
「だが逃げてばかりでは我に勝てないぞ! イオディプスよ、どうする!?」
言われなくても分かっている!
スキルを何度も見てきたので、剣を振るってから衝撃がくるまでの時間はわかった。今度は僕が攻める番だ。
踵を使って急ブレーキをかける。地面を削りながら止まり、方向転換をしてグロリアーナ女王に向かって走った。
不可視の斬撃を跳躍して回避し、距離を詰める。
歯をむき出しにして笑っているグロリアーナ女王の顔がハッキリと分かるようになった。
美しい顔は殴れない。懐に入り込んで、腕を掴もうとしたら強い衝撃を受けてしまい、吹き飛ばされてしまう。痛みによって思考が停止して、頭が真っ白になる。
僕は何をされたんだ!?
「がはっ、ごほっ、ごほっ」
内臓を痛めてしまったみたいで、少量だけど血を吐き出してしまう。口の中が鉄臭い。転生して初めての大けがに心が折れそうになってしまったけど、気合を振り絞って耐える。
フラつきながらも立つ。
グロリアーナ女王が目の前にいた。
片手で首を掴まれると体が持ち上がる。
足をばたつかせても逃げられない。
「罠にはまったな。我のスキルは予備動作なんて必要ないのだ」
出会ったとき、ルアンナさんが吹き飛んだのを思い出した。
そういえば剣を振るうような動作はなかった。対等に戦えると思っていたのに、僕はグロリアーナ女王の手のひらで転がされていたんだな。
男相手なら対等以上に戦えたのに悔しいな。
実力不足。経験の差。それが今回の模擬戦で出てしまったのだろう。
「ああ、股が濡れて下着がぐっしょりだ。妊娠してないのに母乳が出そうだぞ。早く、お前の子供を作りたい。順番を飛ばしてしまおうか。この場で服を破り捨て、陵辱プレイも悪くないっ」
大勢の配下がいるのに何を言っているの!?
痴女レベルが高すぎる。
本能が暴走しかけているのであれば、僕の貞操が危ない。
どんな手を使ってでも逃げようと思っていると、観客席の方が騒がしくなった。今までとは質が違う。殺気立っている。
首が動かせないので目だけを動かして視線を向けると、王城にいるはずのユーリテスさんがいた。
待ち構えるんじゃなく、乗り込んできたみたいだ。
予想外の動きにグロリアーナ女王すら驚いていた。





