イオディプスと子作りする権利が欲しいか?
「みなの者、聞いていたか!? 理想の男がここにいるぞっ!!」
万雷の拍手とともに悲鳴……いやこれは歓喜なんだろうか。今日一番の大声が空気どころか地面まで震わせている。鼓膜が破れそうで耳を押さえてしまった。
模擬戦の熱狂なんて吹き飛んでいて、全員が僕に性的な視線を向けている。
腹ぺこになったライオンの檻に入れられた気分だ。
僕の儚い貞操が散ってしまう危うさを感じた。
みんな飢えすぎでしょっ!
「我は将来、この男と子作りをする! 最高の子供が生まれるだろう! ブルド大国は安泰だ!」
「うぉぉおおおおっっ!!」
「羨ましい!」
「私にもチャンスをよこせ!」
観客全員が似たようなことを言っている。要約すると、ズルい、わけろ、だ。
グロリアーナ女王は、どうやって収めるつもりなんだろう。
「お前達、イオディプスと子作りする権利が欲しいか?」
当然だって返事が、各所から聞こえてくる。お腹減っている人にご飯食べる? って聞くのと同じぐらい、当たり前のことを言っているのだ。
「なら、戦いに勝て! 飛びぬけた成績を残した兵士に、子作りする権利をやろう!!」
…………はっ!?
行為に対する意識が違いすぎて、軽く意識が飛んでしまった。
子作りの話を褒美に使うとは思わなかった。
一部の観客は、走って模擬戦会場から去って行く。もしかして、抜け駆けしようとしているのかな!?
違うとは思うけど、一瞬だけバカなことをしているんじゃないかって思ってしまった。
「模擬戦はどうします? 中止でいいですか?」
子作りする権利を配下への報酬にするなら、模擬戦をする必要なんてないよね。
言いたいことはいっぱいあるけど全て飲み込んで、とりあえず目の前のことは確認しておきたかった。
「何を言っているんだ? するに決まっている」
「でも子作りの権利は、褒美としてあげちゃうんですよね?」
「よほどの成果を出さなければ我のものだ。仮に渡してもデートは別だろ」
やっと考え方が理解できた。デートは別で楽しもうってことね。しかも途中で僕が恋に落ちたら、子作りできるという二段構え。例え配下に権利を渡しても、可能性は残しているのか。
さすが女王! 考え方がすごい! 自信満々だよね。
僕には出ない発想ばかりで尊敬してしまう。
「勝手に子作りの権利を報酬にして怒っているのか? 存外、心が狭いのだな」
怒ってデートが嫌だと言っているわけじゃないよ! 発想がなかっただけ!
グロリアーナ女王は美人だし、手を繋いで街を歩き、飲み物とかシェアしたい。買い物だっていいよね。下着とかプレゼントしたい。デートはすごくしたいんだよ。
ああ、ダメだ。なんだかんだいって、僕はグロリアーナ女王を奪いたいと思っているみたいだ。
僕がこんなチョロいのは、童貞だからなのかな。経験豊富になれば変われるのだろうか。
「怒ってません。ただグロリアーナ女王は、僕に興味がないんだなって思っただけです」
「ふふふ、可愛いことを言う」
木剣をぶら下げながら近づいてくると、僕の頬を触った。
温もりが伝わってきて、胸がドキドキする。
「我のことが好きなのか?」
「ナイテア王国にいる素敵な人々の次ぐらいですね」
「ほぅ。それは面白い。落ち着いたら、イオディプスの心を射止めた女と話してみたいな」
「素敵な女性達ばかりです」
あえて大きな声で言っているので、観客にもグロリアーナ女王が褒めるほどの僕が認めている女性がいると知ってもらえたはずだ。少しでもナイテア王国を見下す人が減るといいな。
「それは妬ましい。我がデートする権利を手にしたら、すぐにでも熱い口づけをかわすぞ」
大国の女王としての顔は既に消えている。
目の前に居るのは一人の嫉妬する少女だ。他の女に奪われまいと必死になり、独占しようとしている。
男の少ない世界では許されない行為だけど、だからこそ燃えるんだろうな。
「それでは模擬戦を再開する。準備はいいか?」
「はい」
返事をした瞬間、グロリアーナ女王の姿が消えた。決して油断はしてなかったんだけど、純粋な身体能力ですら数段上のようで、目で追えなかった。
何も考えずに前へ飛ぶと、後ろから木剣が空を切る音が聞こえる。
判断が一瞬でも遅れたら模擬戦はすぐに終わっていただろう。
振り返ると、肩に木剣を乗せたグロリアーナ女王が立っていた。
「今ので倒せたと思ったんだがな」
言い終わると魅力的な唇をペロリと舐めた。
自然と視線がいってしまい、隙ができてしまう。
お腹に強い衝撃を受けた。
「がはっっ!」
肺から空気が一気に出て膝をついてしまう。
息が止まってしまい苦しい。
「苦しむ顔もいいな。濡れてきたよ」
歪んだ性癖を口にすると、顎を蹴られた。
力は入ってなかったのでほとんどダメージはないけど、仰向けにひっくり返ってしまう。
股間を軽く踏まれると、グリグリと押される。慣れているみたいで力加減が絶妙だ。痛いけど気持ちいい。
「我のテクニックはどうだ?」
すっごくいいです! とは思っても口には出せない!
硬くなりつつある息子を意識しながら逆転の一手を考えていた。