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少女が好む絵本にだけ存在する男

「静かにしろ!」


 血に酔った女性達を止めたのはグロリアーナ女王だった。


 声だけで衝撃波が発生して、僕の所にまで届く。風によって髪がなびいた。


 スキルの力なのだろうか。ダリアントと似ている気がする。


「降参するなら今だぞ。どうする?」


 最終通告みたいなものだ。断れば僕は攻撃を再開しなければならない。


 その時は手を止めるなんてことはしない。降参を口にすることなく、ダリアントは気絶もしくは死亡するだろう。


 冷たい話だけど、男が死んでも心は痛まないから、僕としてはどっちでもいいんだよね。


「…………くっ……」


 理性では今しかないと思っていても、感情が邪魔をしていそうだ。


 嫉妬に彩られた目で僕を睨んでいる。


 こうなったら殴って心を折るしか……!?


 ダメだ! これじゃクソ親父と同じ発想になってしまう。まだ模擬戦を再開せよとは言われてないのだから暴力で従わせるのではなく、言葉によって降参させなければ。


「どうして降参しないの?」

「お前が嫌いだからだ!」

「どうして? 僕は君に何かしたかな?」


 出会った時から嫉妬されていた。もしかしてグロリアーナ女王と僕が子作りするからだろうか。男の醜い独占欲によって激情に飲み込まれているのであれば、言葉じゃ解決はしない。


 時間が必要だ。


 模擬戦のうちに納得させるのは不可能だろう。


「奪われる者の気持ちを思い知れ!」


 ダリアントが叫ぶと模擬戦会場に一人の男が入ってきた。グロリアーナ女王の奴隷だ。名前は確かチェロズだったと思う。


 真っ黒なナイフを持って僕の方を走っている。


 陸上選手を超えるほどの速度だ。直線距離で200メートルぐらいはあるんだけど、一瞬でたどり着きそうだ。後ろに飛んで回避しようと思ったけど、ダリアントにつかまれて動けない。


 このままじゃ刺される!


 でも目をつぶって逃げるわけにはいかない。体をひねって致命傷は避けようと覚悟を決めて待っていると、チェロズが横に吹き飛んだ。次の瞬間、グロリアーナ女王が空から落ちてきた。


 もしかして、観客席から飛んできた……?


 事態が急展開して理解が追いつかない。


「痺れ毒ぐらいなら可愛いと思って見逃してやったが、我のイオディプスを殺そうとするのはやりすぎだな」

「グロリアーナ女王殿下……」

「汚い口で我の名を呼ぶな!」


 どうやらダリアントは見捨てられてしまったようだ。卑怯なことをしたんだから当然の報いだとは思うけど、少しだけ同情してしまう。


 だって、愛する人と離れたくないがゆえの行動だったからね。


 僕もレベッタさんと引き離されるとなったら手段は選ばない。その点は同情する。


「許してください! 私にはグロリアーナ女王殿下の権力が必要なのです!」


 え、ちょっと待って。


 愛じゃなく権力目的だったの!?


 同情する気持ちが一気に失せてしまった。もうチェロズと一緒に死んじゃえばいいじゃん。


「ならん。我に逆らう愚か者には相応の罰を与える。お前達は、最下層の奴隷落ちとし、種馬として働け。お前がもつスキルランクなら、女どもは喜ぶだろう」


 ナイテア王国にもあったけど、自由なき種馬落ちは、この世界の男にとって死刑に等しい。


 判決を下された瞬間、ダリアントは呆然としている。チェロズは気絶しているのか反応はなかった。


 模擬戦会場を警備していた兵士さんが近づいてくると、罪人の二人はその場で取り押さえられる。

 

 自由に動けるのは僕とグロリアーナ女王のみ。


「ふむ、このままじゃ不完全燃焼だな。戦意の盛り上がりが足りん。イオディプスよ。我と戦え」


 突然の宣言に、観客席にいる人たちは盛り上がっている。


 ダリアントは驚いている。まさか模擬戦に発展するとは思わなかったんだろう。


 グロリアーナ女王は大剣を地面に突き刺すと、転がっている木剣を拾う。


「軽いが問題はないな」


 感触を確かめると僕を見た。


「断るなんてことはしないよな?」


 この場にいる全員の視線が僕だけに向かっている。期待が重い。逃げ出したいけど、そんなことをしたら暴動が起きそうな熱気が渦巻いている。


 はい、YESの二択のみ。


 これが王者の詰め将棋なんだろうけど、やられっぱなしじゃ終われない。


「引き受けますが、条件があります」

「勝者の褒美が欲しいか。その貪欲さは悪くないぞ。言ってみろ」


 強気な男が好きなグロリアーナ女王は、詳細を言ってないのに受け入れてくれた。


「あなたと子作りをする前に何度かデートをさせてください」


 僕は種馬じゃない。ヤれればいいって考えは嫌いだ。


 愛し合うってのは難しいかもしれないけど、せめて情をもって抱き合いたい。


 この世界では非常識な考えってのは自覚している。でも、可能であれば貫き通したい信念でもあった。


「…………それだけか?」

「はい。女王という立場で難しいかもしれませんが、お願いしたいです」


 口を半開きにして、ぽかんとしている。


 数秒ほど経過してから、笑い出した。


「あははっ! いいぞっ! デートぐらい何度でもしてやろう! 買い物でもするか?」

「それもいいですね。買い食いや綺麗な景色も一緒に見たいです」

「本気か? そんな面倒をしたがる男は聞いたことがない」

「はい。ナイテア王国の人たちに優しくしてもらったおかげで、僕は女性と一緒に居るのが好きなんです」

「ふむ。優しく……その結果がイオディプスか。改めて聞くがデートも好きなのか?」

 

 いい感じにナイテア王国が良い場所だと宣伝できたかな。


 ブルド大国は男を奴隷にしていることが多いみたいなので、少しは考えを改めてくれると嬉しいな。


「はい。僕はちょっとおかしいみたいで、女性とデートするのが好きなんです」


 変わり者は嫌いだと言われればショックだけど、別にかまわない。ナイテア王国には僕の理解者が沢山いるからね。


 ブルド大国に拒否されても、大きく傷つくなんてことはない。


「少女が好む絵本にだけ存在する男が目の前に……それもSSランクとは……できすぎじゃないか? いや、我がもつ王者の幸運が呼び寄せたと思えば当然か……いいだろう。デートしてやろうじゃないかっ!」


 独り言だと思ったら突然の宣言だ。


 女王だっていうのに戸惑っている。それが可愛い。やっぱり僕はチョロいんだと改めて思った。

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