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グロリアーナ女王陛下、万歳!!

 スッキリした案内人の兵士さんに先導してもらい、模擬戦の会場に入った。


 大きい広場だ。土はむき出しになっていて、風が吹けば砂埃が舞う。


 正面には対戦相手の男奴隷、名前はダリアントと聞いている。僕と同じ木剣を右手に持っている。服は布きれ一枚だけ。上半身は裸だ。この世界からすると、女性の半裸的な立ち位置になるため、辱めを受けているのだろう。


 観客は一段上の場所から取り囲むようにして見ている。優に百人は超えていて、大きな天幕にはグロリアーナ女王とスノーさん、テロレロ侯爵の姿が確認できた。


 僕が模擬戦会場に入ると、地響きのような声援が発生した。


「イオくんカッコイイーーー!」

「かわいいーーー!」

「胸と腹筋を見せて!」

「傷ついたら私が介抱してあげるからね! お代は体で支払って!」

「模擬戦なんてやめて、みんなで襲おうよ!」


 ごめん。声援じゃないかも。女性達は己の欲望を言葉に出しているだけだ。


 神聖なる勝負、って感じじゃないけど、これもグロリアーナ女王の狙いどおりなんだろう。


「案内ありがとうございました。ここから先は僕だけで行きます」


 兵士さんのお尻を一撫でしてから、模擬戦会場の中心にまで歩く。ダリアントも同じように進んでいて、3メートルぐらいの距離まで近づくと立ち止まった。


 レベッタさんたちに教わったことを思い出しながら、足を開き腰を落として剣を構える。


 その姿を見て、ダリアントは驚いた顔をした。


「お前……大丈夫なのか?」

「木剣に何か塗ってあったみたいだけど、僕レベルになると対処の方法はいくつもあるんだよ。弱い男は、裏でコソコソ動かないといけないなんて、大変だね」


 あえて煽ってみると、ダリアントは面白いように顔が赤くなり、血管が浮き出て怒りを露わにした。ただ理性は残っているようで、怒鳴り出すことはなかった。


 この場で罠を自白してくれれば、模擬戦を中止にできたかもしれないのに。残念だな。


「何を言っているのかわからないが、俺は実力でお前を叩き潰す」

「そんな細い腕でできると思っているの?」


 観賞や性的な行為を目的として飼われているため、ダリアントは細い。多少は鍛えているのかもしれないけど、訓練をして魔物退治までした僕には及ばない。


 剣の構え方だってなっていない。隙だらけだ。


「両者そろったようだな」


 模擬戦会場にグロリアーナ女王の力強い声が響き渡った。


「気絶か降参を宣言したら負けだ。二度目はない。今回の試合に全てを賭けるようにっ!」

「グロリアーナ女王陛下、万歳!!」

 

 観衆のみんなが賞賛を始めた。


 宣言をしたら名前を呼ぶみたいなルールみたいなのが決まっているんだろうな。


 満足そうな顔をしたグロリアーナ女王が手を挙げて振り下ろす。これが開始の合図になって、ダリアントが剣を前に出しながら走ってきた。


 ハッキリ言って遅い。


 横に避けようとしたら空気の壁みたいなのに当たって動けなかった。


 スキルか!


 強力じゃないけど、地味にいやらしい性能をしている。本人の性格を反映したみたいだ。


「死ねぇぇぇっ!!」


 殺したらダメでしょ! どうしてここまで恨まれているのか理解できないけど、二度目の死は迎えたくない。タイミングを見計らって、剣を振り上げてダリアントが持つ剣の切っ先に当てる。


 ガンと音がして、僕たちは両腕が上がった。


 ダリアントは驚いて硬直しているけど、僕は次の行動に移っていた。肩を胸に当ててタックルをしたのだ。バランスを崩して数歩後ろに下がる。


 転倒まではさせられなかったか。


 剣が振り下ろされてきたので、打ち落としをして隙を作り出すと、肩を狙って突きを放つ。


 また空気の壁みたいなのにあたったけど、あまり耐久力はないみたいですぐに破壊できた。


 けど、ダリアントにとっては十分な時間を稼げたみたいで回避されてしまう。


 スキルが厄介だ。離れたら不利になる。


 超至近距離で戦おう。


 手から木剣を落とすと、腰辺りのズボンを掴みダリアントを持ち上げ、投げ捨てる。


 昔、クソ親父がテレビで見ていた相撲のマネをしたのだ。


 バランスを崩して倒れてくれたので、手を蹴って木剣を遠くに飛ばす。これでお互い素手の状況だ。


 馬乗りになって顔を何度も殴りつけると、ダリアントの口から血が飛ぶ。


「うぉぉおおおおおっっっっ!!」


 女性とは思えない野太い歓声が上がっている。「殺せ!」なんて物騒な単語が飛び出るほどの興奮状態だ。


 貴重な男なんだから、殺しちゃダメでしょ。


 なんて常識的な発言は通用しないだろう。ある種の狂気が模擬戦会場内に渦巻いていて恐ろしい。


 僕はそんなのに飲み込まれたくない。殴る手を止める。


「降参する?」


 血だらけになって鼻の骨まで折れているダリアントは黙ったままだ。


 心は折れていない。


「負けを認めるぐらいなら死を選ぶ」


 どうしてそうなるの!


 みんな物騒だよ!


「僕はこれ以上、攻撃したくない」

「だったらお前が負けを認めればいいだろっ!」


 正論だ。確かに負けを認めれば模擬戦は終わる。だけど観客はどうだろうか。


「顔をなぐれ!」

「ひんむいて裸にしろ!」

「ぐちゃぐちゃにしちゃって!」


 絶対に納得しない。戦意を高めるどころか、この場で暴動が発生しそうだ。


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