ダリアント:下剤とかも飲ませた方が……
「あの男はいけ好かねぇ」
奴隷の男に用意された小さな部屋で、イオディプスに模擬戦の勝負を申し込んだダリアントは、備え付けられている調度品の壺をたたき割った。
売ったら平民が数ヶ月は過ごせるだろうほどの高級品だが、壊したことに罪悪感など持ち合わせていない。
世界で最も権力を持っているグロリアーナを奪おうとする、イオディプスが憎いからだ。
「お、落ち着こうよ」
「できるわけないだろ! チェロズは他国の男と偉大なるグロリアーナ女王との間に子供ができて納得できるのかよ!」
ダリアントより数年遅れて奴隷になったチェロズは、後輩であり愛情まで抱いている。グロリアーナ女王はどうでもいいと思っているが、口には出さなかった。
「明日の模擬戦は必ず勝つからなっ!」
「う、うん。ダリアントなら絶対に勝てるよ」
「当然だろっ!」
褒められても気分が悪いため、腹いせとしてチェロズを蹴ると、腹を押さえて体を丸めてうずくまる。
痣ができるほどの力だ。裸を見れば暴力が振るわれたことは、すぐに分かってしまうだろう。
「がはっ、ごほっ、ごほっ……どうして」
「悪いな。足が当たっただけだ。そうだよな?」
しゃがんだダリアントはチェロズの肩に手を置いて、口を耳に近づける。
「グロリアーナ女王に聞かれても事故だって言っておけよ」
「うん……」
グロリアーナ女王は意志の強い男がタイプだ。暴力に負けて訴えたところで、根性のない男だと見捨てられ、他の貴族に売られてしまうだろう。
ダリアントと離れたくないチェロズは、うなずくしかなかった。
「それでいいんだ。お前は俺に付いてくれば、楽な生活が送れる」
ゴツゴツしたダリアントの手がチェロズの尻に回って、強く揉む。
この世界の男は同性に対して、潜在的に好意を持っている。長く閉鎖された環境で共に生活をしていたら、ダリアントのように手を出すパターンも珍しくはない。両刀になるのは自然だ。
女性だけが大好きなイオディプスの方が異常なのである。
「そういうことをする前に、模擬戦の準備をしなくていいの……?」
体が受け入れようとしつつも、臆病なチェロズは明日のことが気になって落ち着かない。
負けてしまえば、グロリアーナ女王が自分たちを手放してしまうかもしれない。他の貴族に売られるのは最悪我慢できるが、ダリアントと離れたら一体誰を信じて生きていけばいいのだろうか。
想像するだけで、チェロズは体が震えて動かなくなるほどの恐怖を感じていた。
「準備だと? もう終わっている」
悪辣な笑みを浮かべたダリアントは、仕掛けた罠を伝える。
「模擬戦の準備をしている兵士に、痺れ毒を渡した。持ち手の部分に滑り止めと偽って塗らせる予定だ。俺が負ける要素ない!」
見返りとして一時間ほど性的な行為をする約束をしてしまったが、イオディプスに勝てるのであれば安いものである。
相手の兵士は「女王の男を犯す」という背徳感に強い興奮を覚えているため、必ず実行するだろう。
人が多ければ闇も深くなる。
ダリアントのように汚い方法を使うことは、ブルド大国にとっては当然のことであり、真っ正面から戦おうとしているイオディプスは愚か者として見られている。少なくとも奴隷の二人は、そういった認識だ。
「それだけで大丈夫? 下剤とかも飲ませた方が……」
「ん? この俺が信じられないというのか?」
「あっっ!」
尻に回っていた手が股間に移動すると、強く握った。
鈍い痛みと同時に快楽がチェロズの全身をめぐる。
何度も相容れない感覚を与えられているため、すでに脳はおかしくなっている。
爪が食い込むほどの力を入れられると快楽の方が強くなって、先端から透明な液体が出てきてしまう。
「信じる! 信じるからっ! もうやめて!」
「最初から、そう言えばいいんだよ」
股間から手を離したダリアントは立ち上がった。寂しそうにチェロズは見上げている。
もう少し欲しかったとでも言いたそうな表情をしていた。
「だが、万が一に失敗する可能性はある。その時は、お前がイオディプスをヤるんだ」
ダリアントは刀身が真っ黒なナイフをチェロズに渡した。
麻痺なんて生やさしいものではなく、触れただけで酷い苦痛を感じる猛毒だ。しかも数日続いた上に、最後は死んでしまう。
解毒剤は存在しない。
人を苦しめることに特化した悪意の塊であった。
「できるかな……」
「俺も協力するから大丈夫だ。自分を信じろ」
チェロズの頬にキスをしてから、ダリアントは離れた。
「今晩はグロリアーナ女王に呼ばれている。相手をする時間がないんだよ」
そう言ってダリアントは部屋を出た。
明日に模擬戦を控えて興奮しているのは、男だけではない。
審判の役目もするグロリアーナ女王は猛っていた。
全裸で待機していて、ダリアントが寝室に入るとすぐに服を破き捨てる。
「腹筋は割れてないな。全体的な筋肉も少ない」
「これでも、鍛えてはいるんですが……」
言い訳だ。大して体を動かしてはいない。そんなことグロリアーナ女王も分かっていて何も言わなかった。
最上級の男と子作りの約束を取り付けたグロリアーナ女王は、ダリアントたちへの興味を失っている。模擬戦の結果に関係なく手放す算段をつけているところだ。
心はイオディプスにがっしりと掴まれたまま。離れない。線が細く見えても、しっかりと鍛え上げている体を思う存分堪能できると想像するだけで、割れ目から大量の液体が分泌されてしまうほどに興奮していた。
全裸であるため股からつーっと透明の液体が流れ出て、ダリアントは自分に欲情していると勘違いする。
イオディプスさえ排除できれば、寵愛は変わらない。
用済みと判断されているのに勘違いしたままだ。
「だが我の要望には応えられていない。今日は厳しく行くぞ」
ナイトテーブルに置かれた鞭を持つと、グロリアーナ女王は嗤った。
今晩は徹底的に痛めつけ、ストレスを発散する予定だ。気持ちよくなんてさせない。
自己中心的なプレイにダリアントは叫び、気絶するまで夜のプレイは続けられた。