すべて私がやってあげる
目が覚めたら、いつのまにか暴れていたエリンさん、リテートさん、侍女もベッドの上にいた。なぜか全員裸で、僕の足や腕を掴んでいて離さない。
そう、僕は起き上がりたくても動けない状態だったのだ。
柔らかい胸に包まれていて幸せなんだけど、膀胱がちょっとだけピンチである。具体的には一押しされたら爆発しそうなぐらい限界に近い。
おトイレに行きたいから、みんなを起こそうかな?
少し想像して止めた。
お手伝いしますと同行される気がしたからだ。特に侍女の人なんて、お仕事という大義名分があるので断りにくい。僕は特殊性癖を持っていないので、見られても困惑するだけなんだよね。
それに、直接触ってサポートしてくる可能性もある。しかも裸のままで。
恥ずかしいどころか急に大きくなって、おしっことは別の液体を顔にかけてしまうかもしれない。女性を汚すなんて最悪だ。絶対に避けたいことであった。
「みんなー! もう夕方ですよー! そろそろ起きた方がいいんじゃないかな?」
誰も起きる気配がない。これ以上の大声を出したら、屋敷を警備している兵がなだれ込んでくるかもしれないぞ。
ベッドの現状を見られたらズルいとなって殴り合いに発展するだろう。もしくは、僕の取り合いだ。
トイレに行く時間なんて絶対になくなる。お漏らし確定だ!
そう考えると、寝ている人たちを起こすのも怖いな。目覚めさせず、抜け出すしかないようだ。
拘束がゆるめな右足をそーっと動かす。ルアンナさんの眉がぴくりと動いたけど、目覚めることなく抜け出せた。
次は左足だ。エリンさんが抱きついている。足を動かそうとすると、力が強くなった。簡単には、いかないようだ。右足の指を使って枕を持ち上げ、投げる。
ぽふっと音がしてエリンさんの顔の近くに落ちた。
「すんすん……私の愛しいイオディプス君の匂いがする……」
片手を伸ばして枕を取ろうとしたので、その隙を狙って左足を抜いた。
よし。成功だ!
下半身は自由になったぞ。
枕を手に入れたエリンさんが、ペロペロとなめているのは怖いけど、見なかったことにしよう。僕の膀胱が爆発寸前だからね。
「次は右手だな」
侍女の人だ。なんと僕の腕を足で挟み、股をこすりつけている。ちょっとだけ前後に動いてるんだよね。起きてるんじゃないかと思うんだけど、ぐっすり寝ているから本能的な動きなんだろう。男は夢精するんだし、女性が寝ながら股で遊んでても不思議じゃないよね。きっと。
しっかりと挟まれているので、力ずくで逃げるのは難しい。
先ほどみたいに道具を使って逃げられないかと思って周囲を見ても、僕のために用意されていたタオルケットに侍女が顔を埋めている。使えそうな物はまったくなかった。
どうしようか。まったくよい手が浮かばないぞ。
困っていると荒い息が聞こえてきた。
「はぁ、はぁ……イオディプス様っ……♡」
発生源は侍女だ。
太ももは汗ばんでいて、腰の動きが速くなっている。
「っん! いぐっ♡」
侍女は足をピンと伸ばし、痙攣した。
ギュッと挟まれて痛いんだけど、すぐに力が抜けたみたいで解放される。右腕は簡単に引き抜けた。
腕の部分が湿って気持ち悪い。でも、お漏らしをするよりかはマシだ。今は起こすことなく脱出できたことを喜ぼう。
残ったのは左腕だ。
寝ているリテートさんを見る。
「…………」
「…………」
目が合った。
どうやら起きていたみたい。声を出さずにじっと、見ている。無感情なのが怖い。
何を考えているのかな。
「おはよう」
「うん。おはよう」
「腕を放してくれないかな」
「なんで? このままでいいでしょ」
掴む力が強くなった。
僕の腕は谷間に収まっていて嬉しいんだけど、そういうことじゃないんだよね。膀胱が限界なんだ。
自身の尊厳を守るためにもトイレへ行きたい!
「おしっこが……」
「ここでしていいよ」
「ダメです」
「じゃあ私が飲――」
「それもダメ! というか絶対ダメ!」
さらっと、変態的なことを言わないでほしい。
びっくりして大声を出しちゃったよ。
幸いなことに誰も起きてないけど、二度、三度となったらどうなるかわからない。
さっさとリテートさんを説得しなきゃ。
「トイレの前まで付き添うのは許可するから、解放しません?」
「うーん。ちょっと弱いなぁ。もう一声ほしいよー!」
弱っている獲物は、徹底的に攻めるつもりらしい。
戦う者としては正しいのかもしれないけど、僕に向けられても困っちゃう。どうしよう。もう少し譲歩するしかないか。
「それじゃトイレの中まで付いてきます?」
「悪くはないけど、もう一声欲しいなぁ」
「もう分からないので、リテートさんの望みを教えてください」
目がきらっと光ったように見えた。
背筋がぞわっとする。
「おトイレのサポートかな。狙いを間違えたら困るから、私が支えてあげなきゃ♡」
可愛らしく言っても無駄だよ。
涎がダラダラと流れ出ている。鼻の穴を広げてだらしない顔をしているんだ。
日本だったら即座に通報していたところだけど、この世界じゃ普通なんだよね。
「断ったら……」
「お漏らしプレイっていいよね」
出会ったときから言動が軽めだなと思っていたけど、これほどの変態だとは思わなかった。
完全に目論見が外れてしまって、泥沼に飲み込まれている気分だ。
本当に避けたかったことだけど諦めるしかないか。時には妥協も必要だよね。
「わかりました。誰にも言わないというのであれば、サポートをお願いします」
「さすがイオディプス君! 話が分かる~!」
リテートさんは俺を抱き上げると、そのままトイレに入ってしまう。
がちゃっと、鍵がかかって二人だけの空間だ。逃げ場はない上に、便器を見てしまったので尿意が最高潮に達している。後数秒で出るぞ!
「立っているだけでいいから。すべて私がやってあげる」
便器の前に立つと目を閉じる。
パンツごとおろされて息子が露わになると、温かい手に包まれる。ちょっとだけ大きくなっちゃった。
きっとリテートさんは、すごい顔をして見ていることだろう。
「出しますからね! かからないように気をつけて!」
「勢いよく出てるね~。これが男の子のか~」
観察されて恥ずかしい。
出し終わるとすぐに仕舞おうとしたんだけど、リテートさんは僕の息子を離さなかった。
「まだ出るんじゃない?」
「出ません!」
「えーーーー!」
「文句があるならルアンナさんに報告しますよ」
「冗談だから! ごめんって!」
上司の名前を出したら、さっと手を離してくれた。
ようやく息子を隠せる。
トイレをするだけなのに、すごく疲れたよ。