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約束の証として

「我慢をした分だけ、きっと楽しいですよ」

「むむ……そう言われると……そうなのかもしれない……が……」


 あと一歩だ。それでグロリアーナ女王は折れるぞ。


 テロレロ侯爵を見ると驚いた顔をしていて、助けに入る様子はない。邪魔をしたら不敬罪に問われるんじゃないかと思っているんだろう。王家の影響力が強いからこそ、イレギュラーな対応を取りにくい。デメリットだね。


「僕が欲しければ、順番を守ってください」

「断ったら?」

「もう二度と、貴方の元へ行きません」

「させると思うか? 無理やり襲ってもいいんだぞ」

「でしたら、死を選びます」

「!!」


 この一言が決め手になってくれたようだ。グロリアーナ王女は完全に折れてくれたのか、息を吐いて全身の力を抜いた。


 言い返すのではなく、僕の背に手を回して顔を耳に近づける。


「ここまで我に反発した男はイオディプスが初めてだ」

「女王様の初めてを奪っちゃったんですね」

「うむ。責任は取ってもらうぞ」

「約束は守ります。グロリアーナ女王との子供も作りますよ」


 父親になる不安は消えてないけど、この世界の女性たちに求められているんだ。


 強い意思を持ってDV親父とは別の人間なんだと証明しよう。


 いろいろと理由を付けて引き延ばしてきちゃったけど、ようやく覚悟は決まってきた。


「では、約束の証として」


 僕たちは軽く唇を重ねた。


 舌は侵入してこない。本当に一瞬の出来事であった。


 グロリアーナ王女は僕を離す、テロレロ侯爵に顔を向ける。その時には出会ったときと同じような王者の威厳が放たれていた。


「聞いていたな。ナイテア王国との条約を結ぶ際、イオディプスの子種についても条件をまとめておけ」

「かしこまりました!」


 口約束で終わらせないところが為政者らしい。


 国との取引ではちゃんと書面で残すよね。


「協力する報酬について話はまとまったな。ユーリテスをどうするか、これから話し合おう。席に座ってくれ」


 子作りの約束をしたのだから、可能な限り処刑を避ける結論になるはずだ。


 傷つくのは避けられないけど最悪の結果だけは訪れない。この辺が適切な妥協点だと分かっているので、大人しく席へ座った。


 全員、グロリアーナ王女の言葉を待つ。


「現在ユーリテスは騎士団を率いて我の王城を占拠している。どうやらほとんどの騎士が裏切っているようで、連れてこれたのは近衛兵と第一騎士団のみだ」


 すんごく状況は悪い気がする。

 

 手持ちの戦力だけで奪還は可能なのかな。


「スキルブースターを使って兵をぶつけ、突破するのでしょうか?」


 テロレロ侯爵の質問は最も実現性が高い。僕を利用するという話だったし、グロリアーナ王女も考えたことだろう。


 できれば女性は傷ついて欲しくない。でも、この場で簡単に口に出してしまうほど、僕はバカにはなれなかった。


 耐えるようにじっとグロリアーナ王女を見る。


「そんな顔をしないでくれ。イオディプスの気持ちはわかっているつもりだ」


 眉を下げて困った顔をされてしまった。


 子作りをすると決まった途端、優しくなった気がする。奴隷の男達はギロリと睨んでいて嫉妬の目を向けているけど、グロリアーナ王女が頭を叩いて注意をした。


 さらに嫉妬心を煽りそうなんだけど、今のところは大人しくしているから大丈夫……かな。


「近衛兵と第一騎士団にスキルブースターを使ってもらうが、あくまで陽動でしかない。戦う必要はなく、敵と睨み合うだけで良い」

「それは、もしかして……」

「うむ。テロレロ侯爵の思ったとおりだ。我が城に侵入してユーリテスを討つ。これで反乱は終わるだろう」

「どうしてですか?」


 首謀であるユーリテスさんを捕らえたとしても、国に反旗を翻した騎士たちが止まるとは思えない。


 助けるために動くか、他の領地を占拠して立てこもるかもしれないよ。どうして断言できるんだろう。


「こちらにイオディプスがいるからだ。彼女たちはお前を求めているのだから、ユーリテス以外は我が特別に許すと言えば、剣を捨てるだろう。スキルブースターだって使用するチャンスを与えるつもりだ」


 そんな都合良く行くのかなと思ったけど、スノーさんに教えてもらった反乱の理由を思いだした。


 彼女たちはスキルブースターをもう一度体験したい、独占は許さないという気持ちで反乱したんだよね。


 地球の常識じゃありえないこともこの世界だと通用するのかもしれない。


「本当に許されるのですか? そんな前例を作ってしまえば、騎士団に余計な溝ができるかもしれません」


 反乱した者とそうでない者。この二者が同一の組織に戻るってのは無理な話だ。テロレロ侯爵の指摘はごもっともだと思った。


「安心しろ。お前の懸念は理解している。処刑はしないだけで重罪人は僻地には送る。同じ扱いはしない」

「さすがグロリアーナ女王殿下。先のことまで考えておられますね」

「うむ」


 二人が問題ないと判断したのであれば、僕は口を挟まなくてもいいだろう。


 話がまとまったので軽くお茶を飲んでお菓子を食べると、その日は屋敷から出ることなく過ごすこととなる。


 翌日になっても同様だ。


 どうやら、味方の出兵準備に時間が必要らしい。

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