表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

164/189

お願いとは?

 ちょっとした騒動はあったけど、パーティーは中断されなかった。


 テロレロ侯爵が去ると次々と貴族の女性が挨拶に来る。


「私は隣に領地を持つプルード子爵です。以後、お見知りおきを」


 なんて言われても、名前は覚えきれない。


 後でスノーさんに確認しようと思いつつ、僕も自己紹介をしておいた。


 挨拶をするときに気づいたんだけど、数人の女性は男を連れている。全員、綺麗に着飾っているんだけど、首輪を付けられていた。しかも貴族家の紋章までついているらしく、まるで所有権を主張されたペットのようだ。


 テロレロ侯爵を見たときも思ったけど、貴重な男性をそうやって管理するのがブルド大国のやり方らしい。


 本当にこの国で目を覚まさなくて良かったよ。


 食事の方もナイテアとは違って、香辛料をふんだんに使ったものが多い。また内陸地だというのに魚料理も出ていて、国力の違いを感じる。


 お酒だって珍しいものが多い。ナイテアはエールか果実酒、ワインだけなんだけど、ここにはウィスキーなどもあった。種類が豊富だ。


 あえて僕に見せつけているのかな……?


 確かにすごいと思うけど、日本で見たことがあるから驚きはしなかった。


 食事をしながらジュースを飲んでいると、パーティー会場に楽器を持った人たちが入ってきた。


 笛や太鼓、バイオリンみたいなもので音楽を奏でてくれる。


 そして貴族達はダンスを始めたのだ。


 貴族の女性たちは首輪を付けた男か、もしくは弾奏をした女性と一緒に会場の中心で踊っている。


「イオディプス君は参加されますか?」

「無理です! 僕は踊れません!」


 冒険者生活をしていたので戦いはできるけど、貴族のマナーは最低限しか知らない。


 特にダンスは苦手意識もあって後回しにしていたので、練習なんて1回か2回ぐらいだった。


 もし参加しなきゃ行けなくなったら、絶対に足を踏む自信がある。


「それでしたら、こちらを胸のポケットに入れておいてください」


 渡されたのは小さな黄色い花だ。


「これはなんですか?」

「ダンスを踊りませんと伝えるための花です。これをつけていれば誘ってくる方はいないですよ」


 数少ない男だから、嫌なことをさせないために拒否権があるのかな。


 優遇されているようで悪い気もするけど、今回はありがたく使わせてもらおう。


 スノーさんに言われたとおり、黄色い花を見えるようにして胸ポケットへ入れた。


 その瞬間、会場からため息が漏れた。


 僕と踊れる可能性がゼロになって、みんなをガッカリさせてしまったようだ。


 これで無難にパーティーを乗り越えられると思っていたんだけど、ちょっとだけ甘かったみたいだ。カツカツカツとヒールの音を立てながら、テロレロ侯爵が近づいてくる。


 すごく嫌な予感がする。


 この場にいる誰よりも立場が上であるため、止める人はいない。


 僕の前に来ると膝をついてしまった。


「やあ。私と一曲躍ってくれないかしら?」


 えーっと、胸ポケットに黄色い花があれば、踊らないって意思表示になるんだよね。


 どういうこと!?


 疑問の視線をスノーさんへ向ける。


「テロレロ侯爵は胸のポケットが見えなかったようですね」

「見えているわ。その上でダンスをお誘いしているの」


 言い訳できる状況を作ったというのに、テロレロ侯爵自らが潰してしまった。


 断られたら面子は丸つぶれだろう。後世に語り継がれるほどの失態になりそう。


「僕はダンスが苦手でパートナーの足を踏むことで有名なんです」

「イオディプス君であれば、足を踏まれることすら名誉になるわ」


 だから私と踊れ。


 言葉にしなくても、気持ちってのは伝わってくる。


 スノーさんを見たら困った顔をしているだけ。どうやら助けは期待できないようだ。


 護衛に来ているルアンナさんたちも、暴力的なトラブルではないため動けないでいる。全員が注目しているので、下手にアドバイスなんてのもできないんだろう。


 断ればテロレロ侯爵の反感を買い、受け入れたら僕が恥をかくだけ。


 悩んでも答えは決まっていた。


「本当に足を踏んでしまいますよ。怒りません?」

「もちろんですわ」

「でしたら、ダンスのお誘いを受けます」


 手を差し出されたので軽く握ると、テロレロ侯爵は立ち上がった。


 僕を引き寄せて腰に手を回すと密着した。


「音楽をっ!」


 雄大な曲が流れた。ややスローテンポだ。


「さ、行こう」


 テロレロ侯爵の動きに付いていくと、踊りながら会場の中心に来た。


 周りには踊っている貴族の方々がいる。女性同士が多いけど、一部は男女のペアもいる。


 大国だから人口も多く、必然と男性も他国と比べて手に入りやすいのだろう。


「あっとっと……」


 ダンスに集中していなかったので、足を踏みそうになってしまった。姿勢も崩してしまったけど、テロレロ侯爵がフォローをしてくれて何とか持ち直す。


 その大小として密着度が増してしまった。


 胸の山が潰れるほど距離が近い。服の上からでも体温が伝わってきて、ドキドキする。


「グロリアーナ女王陛下とお会いしたとき、1つお願いをされるはずだ。君はそれを受け入れた方がいい」


 耳元で意味深なことを囁かれた。


 気になってしまい、無視はできない。


「お願いとは?」

「反乱の目を潰す協力依頼だ。彼女は危機的な状況にあるから、強気の交渉をしても問題はないぞ」

「どういうこと……」


 追加で聞こうと思ったけど、体が離れてくるっと回されてしまった。


 また密着する。


「ユーリテス派閥はそれだけ大きくなっているってことだ。あとはスノーに聞きなさい」


 それっきりテロレロ侯爵は黙ってしまった。


 何度か足を踏みそうになったけど、的確にフォローしてくれて未遂で終わる。本当にダンスは上手なんだ。さすが貴族だな、なんて感心していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宣伝
8e83c4k0m4w6j1uz35u7mek5e1km_ca_2fw_3h0_biiu.jpg
AmazonKindleにて電子書籍版が好評販売中です!
電子書籍販売サイトはこちら

矛盾点の修正やエピソードの追加、特典SSなどあるので、読んでいただけると大変励みになります!
※KindleUnlimitedユーザーなら無料で読めます!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ