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私はイオディプス君の気持ちを優先します

 全員の視線がソフィア女王に集まった。


「関税のお話は魅力的ですが、私はイオディプス君の気持ちを優先します。ナイテア王国のことは気にせず、お話を進めてください」


 まるっと投げられてしまった。女王なら国益を第一に考えて、もっと良い条件を引き出そうと動くって思ったんだけど、僕の考えは間違っていたのかな。


 どうしよう。思うがままに動いていいのかな。


 悩んでいると、テーブルの下からそっと手を握られた。スカーテ王女だ。


「本当に、私どものことは気にしないでください」


 この言葉で、本当に自分勝手に振る舞っていいんだとわかった。


 国同士が話し合う場だというのに、僕個人の意見で決まるなんて今でも信じられないけど、SSランクスキル持ちの男は、そのぐらいの価値があるんだろう。


 まだ実感はないけど、国すらも動かせる男なんだね。


「先ほど提示してくれた条件の他、ナイテア王国の安全を保証する条約を結んでください」

「どのような内容をイメージされていますか?」

「他国がナイテア王国を攻めようとした場合、軍を派遣して協力して撃退するといった内容です」


 イメージしたのは日本とアメリカの関係だ。主権を維持したまま大国の庇護下に入れるのであれば、得られるものは多い。僕がいるからって安易に攻めてくるような国はなくなるだろう。


 ナイテア王国へ永住するに当たり、安心と安全は欠かせないからね。


「イオディプス君がナイテア王国に住んでいる間、という条件付きで良ければ問題ありません」

「はい。それで大丈夫です。詳細はソフィア女王陛下と詰めてもらえますか」

「もちろんです。連れてきた文官を置いていきますので、イオディプス君は私と一緒に我が国へ行きましょう」

「まだ要望はあります。ブルド大国の滞在期間は最大で半年にしてください」

「いいでしょう。許容範囲です」


 会談は終わりだと言わんばかりに、スノーさんは立ち上がった。


 ソフィア女王は止めない。


「お風呂ぐらいは入れませんか?」

「……早めにお願いしますね」


 今回の交渉で一番悩んだ顔をされたけど、許可を出してくれてほっとした。


 女性がいるから、常に清潔にしておきたかったんだよね。


「ありがとうございます」


 お礼を言ってから部屋を出て、ルアンナさんに案内されて入浴場へ入る。


 鼻息を荒くして、一緒に入ろうとした侍女っぽい人を脱衣所から追い出し、綺麗さっぱり汗を流す。


 浴槽に浸かりながら今後のことを考えてみたけど、なんで急いでいるのかはわからないままだった。


 まさか滞在中に戦争へ巻き込むなんて思ってないよね?


 僕のスキルブースター狙いであれば、あながち間違いではないかもしれない。


 * * *


 馬車に乗ってナイテア王国を出発した。

 同乗する人はいない。


 護衛として付いてきてくれたルアンナさんたち数名の騎士とも顔をあわせてはいない。それこそ、宿に泊まるときすら別だった。


 完全に孤立させられている。


 会いたいと要望を言っても、防衛の観点から許可できないと、スノーさんに拒否されている。ルアンナさんと一緒に逃げるのを懸念しているみたい。絶対、するはずないのにね。


 そんな理由もあって移動中はたった一人だ。寂しさを感じながらも、暇を持て余している。


「ブルド大国って、どんな場所なんですか?」


 何度目かわからないけど、小さな窓を開けて御者の人に話しかけてみた。


「…………」


 返事はない。僕と交流するのを禁止されているんだろうな。


 ナイテア王国からブルド大国へ移住させたいのであれば、明らかに悪手だよね。もっと僕の心を惹きつけるような、そういった対応をしたほうがよいはず。


 スノーさんの独断だとは思えないので、女王もしくは、その周辺の貴族から指示が出ていると思うんだけど、狙いは何だろうなぁ。


 聞いても御者の人は知らないと思うので、諦めて小さな窓を閉める。


 外を見ると景色は変わっていた。


 高い山脈の麓にまで来ていて、僕たちはこの先を登って国境を越えていく。魔物が多いので近くに村はなく、山中で夜を過ごす計画だ。


 危険な道のりだけど、テルルエ王国を迂回できる最短ルートなので選ばれたらしい。


 馬車は山道に入ったようで傾き、整備されてないみたいで上下に振動を始めた。


 クッションのおかげでお尻は無事だけど、少し気持ち悪くなってきた。


 横になるけど吐き気は止まらない。


 限界が近いのでベルを鳴らすと、御者さんが馬車を止めてくれた。


 新鮮な空気が欲しい。


 ドアを開けると冷たい空気が入ってきて、少しだけ楽になった気がする。スノーさんが近づいてきたので、安心すると力が抜けて馬車から落ちそうになる。


「大丈夫ですか!?」


 駆けつけたスノーさんが抱きしめてくれた。


 柔らかく、良い匂いがする。冷たい人のように見えて、心根は優しいのかな。


「ごめんなさい。気持ち悪くて……」

「そういうことですか。少し休憩にしましょう」


 周囲にテキパキと指示を出して、スノーさんは簡易ベッドを設置してくれたので、僕は乗せられた。


 周囲の女性達は心配そうに見ている。その中にルアンナさん、リテートさん、エリンさんもいた。久々に顔が見れて嬉しいけど、情けない姿を見せちゃったな。


 乗り物酔いだけど、一時間経っても良くならなかったので、結局ここで夜を明かすことになったみたい。


 みんな天幕を作って、焚き火を作り始めた。

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