傲慢ですね
昼休憩が終わってからも魔物とは戦い続け、一ヶ月が経過した。
今日も張り切って外へ行こうと思ったんだけど、家を出ると玄関先に馬車が止まっていた。ナイテア王国の紋章が入っているので、王家が使う馬車なのは間違いない。
馬車の周囲にはルアンナさんを筆頭に護衛の騎士が十名以上いて、燕尾服を着た男装の女性がドアの前に立っている。
僕の姿を見ると、深く頭を下げた。
「お待ちしておりました。ブルド大国の特使が王都に来ているため、面談をお願いできないでしょうか」
「急ですね……」
友達じゃないんだから、普通は先触れを出して日程を調整する。今いるからすぐに来て、なんて失礼なこと、国家間ではしないはずなのに。
「かの国では、そういった外交政策を取ることが多いのです」
「傲慢ですね」
上下関係をはっきりと伝えるために、あえてやっているんだ。ナイテア王国は大国に従うのが当然、そういった考えが透けてみる。
お互いを尊重しない思想は嫌いだ。
全人類平等とまでは言わないけど、最低限の礼節は持つべきである。特に属国でもないのだから、対等な国として扱って欲しい、というのは贅沢なのだろうか。
どんどんブルド大国の印象が悪くなる。
スキルブースターの特性を知っていたら、僕が嫌いになるようなことは悪手だと考えるはずなのにね。もしかしたらスキルの詳細は把握していないのだろうか?
うーん。そんなことは無いと思うんだよね。ポンチャン教の聖地で、鬼族でありブルド大国の騎士団長ユーリテスさんにスキルブースターを使ったんだから。
「国力の差はいかんとしがたく……大変心苦しいのですが、特使が滞在中の間は、ご不便をおかけすると思います」
「僕は大丈夫ですから。気にしないでください」
ブルド大国が悪いのに、ナイテア王国の人が謝る必要はない。
男装の女性には顔を上げてもらった。
「服は着替えた方が良いですか?」
魔物を狩る予定だったので、革鎧に片手剣といった冒険者スタイルだ。特使と会うには相応しくない。
相手が礼節を描いているからといって、僕も同様のことをするつもりはない。必要であれば礼服に着替えるつもりだった。
「スカーテ王女殿下のお屋敷からイオディプス様の服をお持ちしました。馬車の中でお着替えください」
「わかりました」
後ろを向いて、静かに見守ってくれていたレベッタさんたちを見る。
一緒に住んでいるので、みんなも冒険者スタイルだった。
「聞いていたと思いますが、ブルド大国の特使が来たので会いに行ってきます」
「私の旦那様、大丈夫? 一緒に行こうか?」
「ありがとうございます。今回は僕一人で頑張りますから」
心配性のアグラエルさんが同席すると言ってくれたけど、国家間の交渉に冒険者でしかない彼女たちは連れて行けない。
僕が強くお願いすれば実現はできるだろうけど、レベッタさんたちは居心地が悪くなるだろうし、後で何が起こるか分からない。
傲慢な大国が相手なのだから、慎重に行動するべきだと考えているのだ。
「怖くなったら逃げて良いんだからね」
「そうします」
また心配してくれている。笑顔を浮かべながらドラゴンの尻尾を優しく撫でる。
「ひゃっ!」
「嫌でした?」
「ううん」
変な声を上げたので気になって聞いてみたけど、特に問題はなかったようだ。
名残惜しいけど他の人を待たせているので、四人の頬に別れのキスをしてから馬車に乗り込む。防具を脱いでもらった服に着替えると、護衛としてルアンナさんと、魔物退治で仲良くなった『俊足』スキル持ちのエリンさんと、『索敵』スキル系統持ちのリテートさんが乗ってきた。
知り合いが近くにいるので心強い。
男装の女性は御者だったらしく、馬を操作して走らせる。
僕を守るために作られた特区を出ると、百人ぐらいの兵が集まっていた。
馬車ももう一つあって、王家の紋章が描かれている。
「あそこにはスカーテ王女が乗っております」
疑問に思っているとルアンナさんが教えてくれた。
「一緒に乗らないんですか?」
「今回は別々になると言っておりました」
大国の特使との交渉があるんだろうし、事前準備が忙しいのかな。
王都に着けば挨拶はできるだろうから、無理に同席してもらう必要もないだろう。
「ここから何日で王都につくんですか?」
「一日ぐらいですね。夜は近くの村に泊まるので野宿にはなりませんよ。安心してください」
初めて遠出するだけじゃなく、村でお泊まりもするのか。
ずっとスカーテ王女が住んでいる街から出たことがなかったから、どんな人たちとの出会いがあるのか楽しみでもあるし、同時に不安でもある。
僕はこれからどうなってしまうのだろうか。
ブルド大国は観光だけで終わるかな?
きっと何かは企んでいるだろうけど、僕は立ち向かう覚悟がある。
恩があるナイテア王国のためにも、自分の有用性とスキルブースター持ちを敵に回したくないと思わせ、圧力をかけにくくしたい。少なくとも今回みたいに傲慢な態度は取れないよう、ジャブは打っておきたいよね。
よし、頑張るぞ!