アグラエルさん?
オークの群れを倒した後、帰ることも検討したけど探索を続けることになった。
決め手は「もう一回、キスするチャンスがあるかも」と、ヘイリーさんがボソッと言ったことにある。普段の生活で皆と会うことは多いけど、濃厚接触する機会はほとんどない。
監視の目がない、何でもできる状態は珍しいのである。
スキルブースターさえ使えば、この辺の魔物は相手にならず安全性が高いということもあって、真面目なルアンナさんでさえ欲望に従ってしまった。
そんな経緯もあり、僕はメスゴブリンを筆頭に、メスオーク、メスウルフなどと昼過ぎまで戦い続けた。
* * *
昼食は泉の近くで取ることにした。
日本みたいに手の込んだお弁当なんてなく、干し肉やドライフルーツがメインだ。夜は野菜も入れてスープとか作るみたいなんだけど、昼食はお腹さえ満たせればいいという考えみたい。
日本の食生活に慣れている僕としては、毎回ものたりないなって思っちゃうけど、それは贅沢なんだろう。
お腹は満たされたけど、午前中に動き回ったこともあって体は疲れている。
睡魔が襲ってきて座りながら寝そうになっていたら、膝枕をしてくれた。顔を見るとアグラエルさんだった。
「ね、寝心地は悪くないか?」
恥ずかしいよりも、緊張しているように見える。
一緒に生活して僕には慣れてくれたと思ったんだけど、こうやって接触するのは、まだダメみたいなんだ。もっと仲良くなれば変わってくるのかな?
「すごく気持ちがいいです。良い匂いもしますし」
「ば、ばか! なんてことを言うんだ!」
顔を背けながら、ドラゴンの尻尾で僕の足をペチペチと叩き出した。
力は入ってないので痛くない。照れているだけなんだ。
この世界の女性は肉食系ばかりなので、こういった反応は珍しい。かわいいな。
そう思ったら自然と手が伸びてアグラエルさんの頬を触っていた。
「イ、イオ君!?」
「すべすべですね」
「これ以上さわると自制心が……」
「ごめんなさい」
そうだよね。アグラエルさんだって、この世界の女性なんだ。隙あれば襲いたくなるのは当然だ。
頬から手を離して起き上がろうとすると、止められてしまった。
「も、も、も、もうちょっとこのまま……」
お腹がいっぱいで眠くて体がダルいので、アグラエルさんの気持ちを受け入れた。
膝枕は継続だ。
仰向けのまま視界に映る胸を凝視していると、股間に誰かの頭が乗った。視線を下に向けるとメヌさんだった。うつ伏せになっていて臭いを嗅いでいる。しかも手を僕のお尻に回して揉みしだいていた。
相変わらずのセクハラ癖だ。顔をグリグリと、ほどよい強さで押しつけてくるので、ムクムクと大きくなりそうである。
メヌさんにどいてもらおうと思ったら、左脇にレベッタさん、右脇にはヘイリーさんの頭が乗った。
「イオ君成分補充ーーーーっ!」
「私も補充」
身動きが取れなくなっちゃった。こうなったら、彼女たちが満足するまで解放してくれない。
唯一の希望である騎士の皆さんは、羨ましそうな目をしながら周囲を警戒している。護衛の仕事をしているみたい。職業意識が高い!
「みんなズルい。私も、もっと……」
恥ずかしがっていたアグラエルさんの手が伸びて、僕の服の中に入ってきた。胸を触っている。
いやいや。ズルいとかじゃないと思うんですけど!
「アグラエルさん?」
「私はダメ……なのか……?」
なんて言われたら、僕は何も言えない。
「優しくしてくださいね」
「将来の夫なんだ。もちろんだとも」
んん? 聞き間違いかな?
突っ込んだら負けだと思ったのでスルーしておこう。
いつかは皆と結ばれる日も来るとは思うけど、それは今じゃない。世界が自分を受け入れてくれて、立場が安定してからだ。
特にブルド大国の問題を解決しないといけないしね。
「アグラエルさん」
「どうした?」
「ブルド大国について知っていることあります?」
来訪が決まっているけど、僕は大きい国ってこと以外何も知らない。
今さらだけど情報を集めようと思ったのだ。
「少しだけな。貴族は男を侍らせることをステータスとしている。だからなのか、少ない男を手に入れるべく、他国の侵略をしているのだ」
ナイテア王国は男を中心にハーレムを築くことが多い。というか、それがこの世界では普通だ。女性が多すぎるんだから当然だよね。
でも、ブルド大国は逆らしい。逆ハーレムを作ることが正義で権力の象徴としているのであれば、SSランクのスキルを覚えている僕は最高の獲物だろう。
今の話を聞いただけでも行きたくはなくなったけど、約束は守らないと……。
「そういうこともあってブルド大国だけ、男性が多めなんだ。だから男性優遇施策も少ないし、あっても他国に比べて質は低い。イオ君が住むにはふわさしくない場所だ」
「大丈夫ですよ。僕が帰る場所は、みんながいるナイテア王国ですから」
勘違いして不安になって欲しくないので、ここだけはちゃんと言っておいた。
第二の故郷は僕を拾って、良くしてくれたのはナイテア王国だけ。他の国に行ってみたいと思うけど、最後に住む場所は決まっているのだ。
そのことを伝えたら、アグラエルさんだけじゃなく警備をしている騎士たちまで、涙をポロポロこぼしていた。
みんなが喜んでくれるのであれば、僕にとってこれ以上の喜びはないよ。