ぶぉぉぉぉっっっ!!
「許可は出た。全員でヤるぞ」
ん? なんか、皆のまとっている空気が変わったぞ?
護衛しているはずのリテートさん、エリンさんが僕の両腕を取り押さえた。
「どうしたの……?」
戸惑う僕の頬をレベッタさんがガシッと挟んだ。
瑞々しい唇が近づき……重なる。
「ん~~ちゅ♥」
舌が入り込んで僕の口内を侵略していく。
これでスキルブースターを使えってことか! 進化させるほどの力が必要ってことらしい。
お互いの舌を絡め、十分な接触をしてから口を離す。つーっと細い糸のような粘液ができたので、腕で拭おうとしたけど動かなかった。そういえば二人の騎士に取り押さえられていたんだっけ。
これだけじゃ終わらず、他の人たちも各自、数分ぐらいキスをしていった。
スキルブースターは発動させたままだったので、みんなスキルは進化していることだろう。
「パワー充電完了! これよりオーク討伐に移行する!」
ルアンナさんが剣を抜いた。
剣術スキルを持っていたから、今は剣聖といったものになっているのかな?
「おおお!!!」
護衛の騎士たちが呼応するように叫んだ。
隠密活動中なのに良いの!?
いや、ダメでしょ!
その証拠にオークたちが僕らを発見してしまった。奇襲なんて不可能だ。スキルブースターで進化しているといっても、全員とキスしなければ倒せない相手でしょ? 大丈夫なのかな……。
心配している僕を置いて、ルアンナさんが一人でオークの集団に突撃した。剣を振るうとメスオークの一匹の首がポンと飛ぶ。
左右から棍棒と剣が振り下ろされたけど、再び剣を振るうだけでオークの武器を両断、その後、体までも斬ってしまった。
瞬く間に3匹ものメスオークが倒れ、ハーレムを形成していたオスオークが怒りの雄叫びを上げた。
「ぶぉぉぉぉっっっ!!」
オスオークの前身が光って威圧感が増す。
魔物の一部はスキルを使うと聞いていたけど、まさか出くわすとは思わなかった!
それでも仲間は動かない。レベッタさんのパーティも警戒しているけど様子見だ。
「助けに行かないんですか!?」
「ルアンナ隊長なら大丈夫ですよ」
いつの間にか、僕を抱きしめているエリンさんが答えてくれた。
「どういうことですか?」
「剣術スキル持ちのルアンナ隊長ならオークに後れを取りません。今はさらにパワーアップしているので、片目をつぶっていても勝てるでしょう」
「それって僕とキスした意味ない――」
「意味はあります!」
「そ、そうですか……」
食い気味に否定されてしまったので、何も言えなくなった。
キスするチャンスを強引に作ったわけじゃない。うん。僕の勘違いだ。そう思うことにした。
戦場を見ると、目を離した隙にメスオークは全滅していた。残っているオスオークは全身から血を流していて死にかけている。それでも股間にある長い棒は、反り立っていた。
「なんで興奮しているの?」
「ゴブリンやオークは人間を好むんです。きっとルアンナ隊長を犯して、孕ませたいとでも思っているんでしょう」
僕の独り言に反応されるのはいいんだけど、女性から耳元で卑猥なワードを聞いてしまい反応に困ってしまう。
モゾモゾと足を動かして、ポジションを調整しておいた。
「愛の力で塵となりなさい」
刀身が光った剣を、ルアンナさんが振り下ろした。
地面に深い傷を作りながら、光の斬撃が飛んでオスオークを縦に両断する。さらに奥にあった木々まで切り倒してしまった。
なんて威力だ。これがスキル進化後のルアンナさんの本気……っ!
あっという間に全滅させてしまった。
やっぱり皆にキスをする必要なかったよね!?
「レベッタとリテートは周囲の警戒、エリンは引き続きイオディスプ君の護衛、他は魔石の回収をお願いする」
指示が出ると一斉に動き出した。スキルブースターの効果は残っているので、本当にやばい敵じゃなければ遅れは取らないだろう。
「大丈夫だったか?」
刀身に付いた血を飛ばし、剣を鞘に収めつつルアンナさんが僕の前に来てくれた。
「それは僕のセリフです。お怪我はありませんか?」
「イオディスプ君のおかげでね」
ウィンクをされた。綺麗な人がすると様になる。王子様みたいだなんて思ってしまった。
「戦闘を頑張った騎士には、ご褒美があるものだ」
顔が近づいてくる。
「そうなんですか?」
「そうなんだよ」
目がギラギラとしていて、僕を獲物の様に見ている。
騎士だから自制心があると思っていたんだけど、キスをした後じゃ抑えが効かないのかな。もしそうなら最悪の場合、裸でヤリあってしまうかもしれない。
そんな姿、見せられないよ!
ルアンナさんが望むものを聞いたら危険だと、本能が押してくれた。
「では報奨として、褒美のキスを与えます」
僕を抱きしめているエリンさんから抜け出すと、ルアンナさんの頬に唇をつけた。汗で少ししょっぱかったけど、気にならないどころか、興奮を覚えてしまった。
また新しい扉が開かれたようだ。
この世界に来てから、いろんな経験をしている。
特に女性関連については、想像しなかったレベルで。
なんだか、それが恥ずかしくても嬉しかった。
ちなみに魔石の回収が終わったあとは、残りの皆にもキスをすることになった。報奨って全員にしなきゃいけないんだっけ……?