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治療お願いできますか

「愛!? ふざけるなっ!!」


 バカにされたと思ったのか、ドシーナさんの攻撃が再開した。先ほどと同じ展開が繰り返されている。一撃必殺の威力を秘めていることもあって、見学することしかできない僕は緊張しっぱなしだ。


 そんな中、気絶したミシェルさんを抱きかかえたレベッタさんが戻ってきた。


「ヘイリーは上手くやっているみたいだね」


 友人の活躍を見て嬉しそうだ。


 疲れが見えてきたドシーナさんは大ぶりの攻撃をするようになっていて、ヘイリーさんは腹や足、顔に軽い反撃をしていく。力が入ってないので威力はないけど、ダメージは蓄積していることだろう。時間をかければかけるほど、こちらが有利になるのは明白だ。


 会場にいる皆も同じことを思ったのか、戦いを見守っているポンチャン教の信者たちの歓声がすごいことになっていた。


「先に手を出したのが悪い! さっさとやるんだーー!」

「殺せ! 殺せ!」

「海に投げて魔物のエサにしちゃえー!」


 物騒な言葉が飛び交っている。ユーリテスさんは腕を組んで見守っているけど、仲間のあれは……エルフかな。耳の長い女性は焦っているようだ。


「団長! このままじゃドシーナがやばい! 私に参戦の許可をください!」

「ダメだ。参戦したら反則負けになる」

「別に良いじゃないですか! 我々の戦力を使えば何とでもなります!」

「勝てそうであれば放置し、負けそうであればルールを破って力押しする、そういいたいのか?」

「ええ。そうですよ! 所詮、口約束の試合。どんな手を使っても勝てば良いじゃないですか!」


 エルフの言葉を聞いてユーリテスさんは深いため息を吐いた。


 試合に負けたら約束を守らずに襲ってくるんじゃないかと懸念している僕たちにとって、この答えは凄く重要だ。聞き漏らさないように耳を傾ける。


「我々は複数の国を飲み込み、数え切れないほどの民族がいる。それらを統率するには契約が正しく作用しなければならん。率先して破るわけにはいかないのだ。わかるだろ?」


 思想、文化、見た目、さまざまな違いを持つ人たちが一つの国として機能するためには、絶対的な基準というのが必要となる。それは法律だと思っていたんだけど、言われてみれば契約というのもトラブルを防ぐためにも使える。


 お互いの意志を明確にしておけるから暗黙の了解なんてものがなくなって、破った方が一方的に悪いといえるようになる。分かり易い基準だ。


 他種族、多民族を統率しなければいけない立場だと、軽んじられないよね。


「ですがここは我が国ではありません!」

「だが、噂は出回る。一度でも約束を破った相手を信用する人がいると思うか?」

「…………」


 言い返せなくなってエルフの人は無言になった。


 これで終わるなら良かったんだけど、ユーリテスさんは余計なことを付け足してしまう。


「もし破るのであれば、目撃者をすべて消せばいい。そうすれば、守ったことになる」


 皆殺しにするってことだよね……。恐ろしいことを、さも当然のように言ってしまう精神に恐怖を覚えた。


 ブルド大国にとっての最終手段は地域一帯の殲滅か。


 海に囲まれて逃げ場のないこの島は実行しやすい条件が整っている。脅しじゃ終わらない可能性は充分にあるぞ。


「レベッタさん」

「わかってる。イオ君は私が守るから」


 手を握って不安を紛らわせている僕らを見て、ユーリテスさんはにやっと嗤った。


 こっちの声も聞こえているんだろうな。


「逃げるヤツの相手をするのはうんざりだ……これで終わらせてやる!!」


 ドシーナさんが叫ぶと両腕をあげる。拳に集まっているオーラが伸びて、平べったい円形状に広がっていく。


 直径は数十メートル以上ありそうだ。振り下ろせばヘイリーさんだけじゃなく、観客にも被害が出てしまう。


 走って逃げても間に合わない。未来が多少予知できても意味がなさそうだ。


「うぅ……みんな派手に暴れすぎ……って、なにあれ……」


 目覚めたミシェルさんが愕然としていた。


 説明を求めているようで、僕を見る。


「二人ともスキルを使って暴れ回っていました。助けるために僕もスキルブースターを使っていますが……」

「そんなのダメに決まってるじゃないですか! 反則で、失格だから!」

「ですよね……」

「早く皆で止めてください!! そうしないと今回の試合は勝者なしとして、イオディプス様は私がもらい受けます!」


 宣言した瞬間、みんなが動いた。


 レベッタさんは矢を、エルフの女性が植物の蔦で作った槍を放ち、ドシーナさんがのけぞって回避する。ユーリテスさんが足払いをして転倒させると拳に集まっていたオーラは消えた。続けざまにルアンナさんが腕を押さえると、遅れてきたベルさんが腹を思いっきり殴りつけた。


「がはッ」


 口から血が出るほどの損傷をしたみたいだ。


 騒動が収まったのでミシェルさんを連れて近づくと、目は開いたまま焦点のあっていないドシーナさんが転がっていた。胸は動いているので生きているみたいだけど、放置すれば死んでしまいそう。


 みんな手加減しなさすぎでしょ。


 試合中に死者が出たらブルド大国は黙っていない!


「治療お願いできますか」

「イオディプス様のお力を借りられるのでしたら」

「もちろんです!」


 スキルブースターの対象をミシェルさんに切り替え、回復のスキルを使ってもらう。


 外からじゃわかりにくいけど、なんとなく呼吸は落ち着いた気がする。


「二試合目は両者失格の引き分けとなります。いいですね?」


 治療を終えたミシェルさんが宣言して誰も異論をあげない。


 先に手を出したなんて関係なく、ケンカ両成敗になってしまったのだった。


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