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お願い! 避けて!!

 ちょっとした騒動はあったけど二戦目が始まろうとしている。


 ブルド大国側の選手はドワーフらしく背の低い女性だ。赤いショートヘアが特徴的で目をひく。胸は薄く幼児体型ということもあって、体型を隠すフリルがついたワンピース型の黒い水着を着ていた。僕の方を見ると手の甲を見せてウィンクをしてきたのは、勝者のキスを期待しているからだろう。


 その手を叩いたのは競泳用の水着を身につけているヘイリーさんだ。


「調子に乗るな」


 ドワーフの手を叩いて顔を近づける。


「国に帰れ」

「奴隷のくせに私の邪魔をするなんて生意気だね」


 焼き印は隠しているのになんで知っているんだろう。


「あら驚いた顔をしているね? 水着で隠しても噂は止められない。大国の情報網を侮らないで」


 船で来たブルド大国の騎士たちは、この島に上陸していない。使者できたユーリテスさんや選手の二人だって自由に行動させなかったので、噂を知る機会なんてなかったはず。それでも知っているってことは……もしかしてだけど、スパイがいるってこと!?


 この場にいるとは思わないけど、少数の信者がブルド大国とつながっているのであれば、情報を流すことだってできただろう。冒険者として活動していたヘイリーさんの実力は敵に漏れていると思っていても良いだろう。


「あんたって、すばしっこいだけで力はないだろ? 叩き潰してやるよ。奴隷らしく地を這い、生きるといい」


 馬鹿にされたんだから怒っても不思議じゃないのに、ヘイリーさんは見下すような笑みを浮かべただけで何も言わなかった。


「あら。怖くて文句の一つすらないの?」


 これも無視すると、くるっと背を向けて距離を取り、ドワーフの女性を見る。


「私はヘイリー。お前は?」

「ドシーナ」

「ドワーフらしい鈍くさそうな名前」


 フッと嗤うとドシーナが切れちゃった。


 多分、特大の地雷を踏んだんだと思う。


 スキルを使ったのか瞳が光ると、跳躍した。オーラをまとった拳を振り上げている。あれは当たったらマズイと誰が見てもわかった。


 審判のミシェルさんが止めようとして動いているけど間に合わない。


「お願い! 避けて!!」


 とっさにスキルブースターを使った。強い気持ちが込められていたのか、キスをしなくてもスキル進化まで効果を発揮したと感覚でわかった。


 ヘイリーさんの瞳が光る。彼女が使えるのは動体視力強化だけど、今は近未来の予知だ。これからの行動を数パターン予想して最適な答えを出してくれるはず。


「奴隷ごときが生意気なんだよ! 死ねぇ!」


 怒りによって、ビーチレスリングでの勝負は忘れてしまっているようだ。ヘイリーさんは後ろに跳躍すると、オーラをまとった拳がビーチに突き刺さり、砂が舞い上がる。小さなクレーターができていて、その威力を物語っていた。


 近くにいたミシェルさんは吹き飛ばされて地面を転がり、目を回してしまい、気絶しているようにも見える。しばらくは動けないだろう。


「試合は?」

「審判が寝てるんだから一時中断だよ。今は――殺し合いの時間だっ!!」


 ドシーナさんの四肢にオーラが発生した。


 殺意高すぎでしょ!


「早く止めないと……」

「ちょっと待って。これは様子見の方が良いよ」

「レベッタさん! どうして!?」

「大乱戦になるかもしれない」


 今は決闘っぽく見えているけど他の人が参戦すれば、ビーチレスリングの試合のことを忘れて次々と参戦してくるかもしれない。


 そうなったら誰かが死ぬ可能性もあるだろう。ようやく僕も危険性に気づけた。


 選手同士のトラブルで終わらせた方が都合は良いのだ。


「じゃあ! せいめてミシェルさんだけでも!」

「気に入らない女だけど、イオ君のお願いだからね。今回だけ特別だよ」


 誘拐したことを根に持ているようで、仕方ないといった感じで駆け出していった。すぐにここまで運んできてくれるだろう。


 正面を見て戦っている二人に戻すと、ドシーナさんが一方敵に攻撃している姿が目に入った。素人では目で追えないほど一撃が早いんだけど、ヘイリーさんはそのすべてを回避している。スキルの力だけじゃなく、日々の訓練によって身につけた技術があってこそできる芸当だ。


 攻撃を続けているためドシーナさんの息は上がってきた。それでも攻撃を止めずに動き続けていると、汗が目に入って片目をつぶってしまう。


 それすらも事前にわかっていたヘイリーさんは、後ろに飛びながら砂を蹴って無事だった方の目も潰してしまった。


 チャンスだ! と思ったんだけど、なぜか横に飛んだ。その直後、ドシーナさんが拳を前に出すとオーラが砂浜を削りながら伸びて、近くにあった大きな岩に当たると貫き、砕いてしまった。なんて威力なんだ……。AかSランクスキルレベルの強さだぞ。さすが大国の騎士団だ。人材が豊富すぎるでしょ。


 けど僕たちだって負けてはない。ブースト効果によって未来予知までできているヘイリーさんは無傷だ。オーラを放って大きく消耗しているドシーナさんに駆け寄ると膝蹴りを顔面に当てた。


 けど、ダメージはあまり与えられなかったようだ。


 近づく足音を察知していたのか、後ろに飛んで威力を軽減させたようで大きなケガは負っていない。


「どうして生きている!?」


 不意を突いた必殺の一撃を回避しただけじゃなく反撃までされたため、目をこすりながらドシーナさんは驚いていた。


「お前にないものを私が持っているから」

「なんだ……それは……」

「愛のパワー」


 戦闘中だというのに眠たそうな目をしたヘイリーさんは、僕の方を向いてピースしている。さらに開いたり閉じたりする余裕まであるようだ。


 あながち間違ってないから、僕は何とも言えない気持ちになってしまった。


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