表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/189

割っちゃうか

 ベルさんが呼んでくれた医者に診てもらったけど、どこにも異常はなかった。環境の変化による疲労と判断されてしばらくは安静して欲しいと言われてしまった。外出は禁止になってしまい自由は奪われてしまったけど、城内は自由に歩けるのでレベッタさんたちと会うことはできそうだ。


 ただドアの前には警備をしている兵の女性が二人居るので、ドアから出たらすぐにバレてしまう。散歩すると言ったら同行してくるだろう。


 そんな状況でレベッタさんと話しても迷惑をかけてしまうだけ。向こうの事情も知りたいので一人で会いたい。


 ドアからは出られない。あるとしたら……窓だ。結構大きいので体を通すのは簡単だ。ベランダと言うには、小さい足場みたいなのはあるので、壁を伝って隣の部屋には行けるだろうけど、今回は横に移動しない。実はこの下は空き部屋になっているので、シーツを使って下がった方が勝算は高いはず。危険なのは間違いないけど試す価値はあると思った。


 ベッドに座り込んでシーツと掛け布団を結び、長めなロープにする。ベッドを窓際まで移動してから足に結んで外に出した。ロープのように伸びて下の窓にまで届いている。長さは充分だ。軽く引っ張って結び目がほどけないことも確認している。あと必要なのは、僕の覚悟だけ。


 パチン! と音を立てて頬を叩く。


 ヒリヒリとして痛いけど、気合いは入った気がする。


 窓の枠に足をかけて乗っかると恐怖心が湧き出てくる。僕が居る場所は四階か五階ぐらい。落ちたら死ぬ可能性が高い。少なくとも重傷を負ってしまうだろう。回復系のスキルを使って助かるか、どうか、って感じかな。大人しくしていれば、こんな危険なことをしなくて済むのは間違いない。バカなことをしている自覚はある。けど、僕はレベッタさんたちに会って、言葉を交わし、抱きしめたいのだ。


 この情動を抑えるなんてできない。


 絶対に計画を成功させるんだ。


 決意は固まった。恐怖を押し込めてシーツを握り体を外に出すと、少しずつ下の階に向かって行く。


 海が近いから風は強く、髪が乱れる。体も揺れてしまう。不安定な状態だけど絶対に焦ったらダメ。慎重に動いて下の階の窓枠に足を乗せる。


 このとき、ものすごく強い風が吹いた。シーツが大きく揺れて足が離れる。バランスを崩して落ちそうになったので、慌てて手に力を入れて強く握る。足がブラブラとしてしまったけど、なんとか無事だ。足を動かして勢いを付けてシーツを動かし、再び窓枠に足を乗せる。今度は風に邪魔されず体重をしっかりと乗せることができた。


 シーツを握りながら室内を覗く。物置になっているみたいで椅子やテーブルが乱雑に置かれているだけ。予定通り誰もいない。侵入しようとして窓を押すけど開かなかった。鍵がかかっているみたい。空き部屋なんだから当然だよね……。


 こうなっていた場合の対応を考えてなかった。ピッキングなんて技術は持ってない。他の部屋に行っても、都合良く窓が開いているか分からず、また誰かいたら見つかってしまう。


「割っちゃうか」


 痕跡は残るけど、レベッタさんたちに会ったことさえバレなければ言い訳はできる。最悪の事態は回避できるはずだ。


 できるだけ音を立てないように、力を抜いて何度かガラスを叩く。あまり品質は高くないようで薄かったこともあり、パリンと乾いた音を立てて簡単に割れてしまった。穴に腕を入れて鍵を回すと簡単に開く。


 施錠が単純な仕組みで助かったよ。


 部屋に入って足が床に付くと、ようやく安心出来て力が抜けてしまった。壁により掛かるとズルズルと床に座り込む。魔物と戦った以上の緊張をしていたんだと、今さらながらわかった。帰りはシーツを使って登らなきゃ行けないんだよなぁ。気が重くなってしまうので、その事実は忘れるためにバングルを撫でる。


 誰にも僕だとはバレたくないので、いつもとは違う人をイメージする。


 日本人だと目立ってしまうのでこの世界の人が良いな。かとって全くの別人になってしまうと、レベッタさんに会っても僕だと気づかれないかもしれない。


 一目見ただけで僕かもしれないと思ってもらえるには、共通の知り合いが良いかな。


 体格が大きく違うと違和感がもたれそうだからメヌさんは除外だ。羽や尻尾の動きも再現難しそうなのでドラゴニュートのアグラエルさんもパス。スカーテ王女はミシェルさんが顔を知っているので、見つかったら大変だ。必ず尋問される。


 すると残されたのはテレシアさんか。身長は僕よりもあるけど許容範囲で耳が長い以外は人間と見た目は同じだ。またパーティーにも参加していなかったので、仮にミシェルさんに見られても気づかれる可能性は低い。悪くない人選だね。よく思いついたと自画自賛しながら、彼女の姿を思い浮かべて幻影を作る。


 これで美女のダークエルフ、テレシアさんに見えるはずだ。


 服装はポンチャン教が着ているものにしているので、歩いていても違和感はない。バッチリだ。


 これで部屋から出ても大丈夫だろう。


 立ち上がってドアの前に立つと鍵を開けて小さく開く。廊下を見るけど誰もいない。


 チャンスだと思って部屋から出て素早く閉める。


 話し声が聞こえてきたので、ゴホンと小さく咳をしてから慌てずゆっくりと歩き、近づいてきた信者さんに軽く会釈をして通り過ぎた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宣伝
8e83c4k0m4w6j1uz35u7mek5e1km_ca_2fw_3h0_biiu.jpg
AmazonKindleにて電子書籍版が好評販売中です!
電子書籍販売サイトはこちら

矛盾点の修正やエピソードの追加、特典SSなどあるので、読んでいただけると大変励みになります!
※KindleUnlimitedユーザーなら無料で読めます!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ