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自己紹介しただけです

 ミシェルさんを放置してユニコーンと戯れていると視線を感じた。御者台を見ると、ショートカットの女性が座っている。革鎧を着ていてシスターではなさそうだ。騎士にしては装備が貧素なので、あまり立場は高くなさそう。鉄の首輪を付けていて非常に無骨だ。ポンチャン教に所属している一般兵……うーん。もしかしたら奴隷なのかな。


「この子たち可愛いですね。名前あるんですか?」

「…………」


 返事がない。どうしたんだろう。聞こえなかったのかな。


「ごめんなさい。自己紹介がまだでしたね。僕の名前はイオディプスです。あなたは?」

「…………」


 反応はなかった。

 おかしい。

 手を前に振ってみるけど、まばたきすらしてないのだ。


 ユニコーンから離れて御者台に乗ってみる。それでも彼女は動かない。呼吸はしているので生きてはいるみたいだけど。


 人差し指で頬をつんと押してみた。


 少し沈んだけど離せばすぐに戻る。見た目通りわかい肌だ。張りがある。


 なんて遊んでいたら、眼球をギョロリと動かして僕を見た。


「ひぃッ!」


 恐怖を覚えて思わず御者台から転げ落ちて、ユニコーンの背に落ちる。


 助けてくれたみたい。ありがとう。


「男、男が、私を触った……? しかも童貞様っ! 夢? 現実? ううん、どっちでもいい、今の感触を忘れないようにしないと……」


 ぶつぶつと言っていて怖い。


 近寄るのは止めよう。


 ユニコーンから降りると助けてくれたお礼として顔を触ってから、静かに離れて馬車に乗り込む。


 椅子はフカフカとしていてクッション性が高く、王族のものと遜色ない。高級品だろう。


「あら、先に入っていたんですね」


 祈り終わったミシェルさんが入ってきた。


「御者のミミリーが錯乱していたのですが、イオディプス様は何かされたのでしょうか?」

「自己紹介しただけです」


 頬をつついたなんて言ったら、私もなんてお願いされてしまうかもと思って、とっさに嘘をついた。


 この世界に来て危機管理能力が大きく上がったぞ! 成長している実感を覚える。


「なるほど、そう言うことにしておきます」


 含みのある言い方だけど笑顔だったけど、深くは聞いてこなかった。


 壁についている筒みたいなものに、ミシェルさんは口を近づける。


「出発してください。行き先は小麦倉庫で」


 馬車がゆっくりと走り出した。


 御者席にいた女性はおかしくなっていたけど、大丈夫かな?


「私のスキルで落ち着かせたので大丈夫ですよ」

「そう、なんですね」


 心を読まれたようなタイミングで言われて、戸惑いながらも何とか返事ができた。


 聖女とまで呼ばれるミシェルさんのスキルが気になる。言い方からして回復系なんだと思うけど、聞いても良いのだろうか。


「ふふふ」


 悩んでいたら突然、笑われてしまった。


「どうされました?」

「私のスキルが気になるんですね」

「どうしてそれを!?」

「顔に出てました。素直で可愛い」


 手のひらでコロコロと転がされている。


 嫌な気分ではないけど恥ずかしかった。


「イオディプス様に隠し事なんてしませんので聞いていただいても良いんですよ」

「よければ教えて下さい」


 普通はマナー違反になるんだけど、本人が許可しているので教えて欲しいと聞いてみた。


「もちろんです。私のスキルは状態回復、生物に限定して元の状態に戻す効果はありますが大きな変化は不可能で、かすり傷を治す、錯乱した人を元に戻すぐらいしかできません」


 スキルブースターと組み合わせれば、とんでもない効果を発揮しそうだ。


「私のスキルだけじゃ誰かを守ることなんてできないので、聖女と呼ばれても申し訳ない気持ちになっちゃうんです」


 力なく言うとミシェルさんは黙ってしまう。


 スキルに対して強いコンプレックスを抱いているみたい。


 目に見える才能みたいなものなんだから、こういった悩みは多くの人が抱えているはず。


 むしろ男が手に入らない問題より、大きいんじゃないかな。


「僕はミシェルさんのことをよく知りませんが、聖女らしい振る舞いをされていると思いますよ」


 誘拐したのだってポンチャン教の教えを守るため、ということであれば彼女たちにとっては正当な理由となるので、聖女としては正しい行いだったのかもしれない。


 シスターたちをよくまとめているし、僕に接する態度も優しい。肌が透ける服を着ていても暴走しないし、強い自制心があるのもポイントが高かった。


「他の男性と違って優しいんですね」

「それはちょっと違います。他の男が冷たいだけで、僕は普通ですよ」


 この世界の男は優遇されている上に性欲が弱いらしく、女性に対して興味がない。嫌悪感を持っていると言っても良い。ダイチやデブガエルのツエルが良い例だ。


 逆に女性は性欲が強く暴走しがちなので、頭では男側の対応も理解はできる。けど僕は普通に性欲はあるし、女性は大好きだ。特に年上には弱いので世界中の男が無視している素敵な女性たちを幸せにしてあげたいと思う。


 最優先はレベッタさんたちだけどね。


 急にいなくなって心配してないかな。せめて無事なことを伝えられればいいんだけど。


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