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第61話 魔村長の食料計画

 農家の方は、山菜採りのエウロ婆さんの夫、パラド爺さんを筆頭に、転移陣の場所にあった村の住民の若い人たちが協力してくれる事になった。

 先祖代々の土地ではあるが、襲われた際に何も対処が出来ないという事で、若い層を中心にこちらの開拓計画に送り出してくれた。


 元々住んでいたアインガング村からは、開拓村の農地が安定するまでは、村で作っている食材を提供してもらう事になっている。

 代金を払うつもりだったが、村の方から若い者たちに農地を譲ってもらえるので、これ以上頂くわけにはいかないと断られたのだ。


「驚いたでぇ、魔村長さんや。ここいらの土地は凄く肥えてるわ。気候や温度にもよるがね、これなら大概のものは良く育つんじゃねえかえ」


 農地となりそうな場所をチェックしていたパラド爺さんが、ニコニコ顔でカデュウに報告をする。

 かなり高齢の人だが、若者よりもきびきびした動きが出来る元気な老人だ。

 少し前まで、農兵として戦地に行っていたらしい。


 しかし、なんでも育つ、となると逆にどうしようか悩ましくなる……。


「まずは必要なところは、自給自足出来た方がいいでしょうね。小麦など」

「肥沃ってこた逆に言うと、痩せた土地でも育つようなのは、どこでもできっから、勿体ねえ気はすんな。ジャガイモとかトマトとかライ麦とかな」

「うーん、それでも、トマトとジャガイモは欲しいところですね……パスタ的に」


 そう、パスタ的に考えて。


「ワインのブドウは痩せてる方がええからよ、ワイン醸造はやめとくんがええな」

「どの道、酒を作るとしても余裕が出来てからですね」

「ま、何にせよ種がねえからよ。作りてえもんがあったら種を仕入れんとなぁ。とりあえずは小麦中心に持って来とる種を撒いちまってええかね?」


 種が無くては育てるもなにもない。

 特徴的なものは買い付けてこないといけないだろう。


「そうですね、まずは食料供給の安定が先決です。それでお願いします」




「色々やる事は多いけど、こうしてみんなで開拓するのって楽しいな」


 しばらく奔走し準備し、資金を調達し人材を集めた成果が、ようやく花開いた。

 とても感慨深いものがカデュウの胸に込み上げてくる。

 苦労も多いけれど、自分の街を作れるのだ。やりがいと楽しみばかりであった。


「よお、爺さん。元気してっか? 早いとこ食べもん作ってくれよ」

「なんじゃ、ゾンダか。暇なら畑耕せぇ。こっちゃ手が足りんのじゃ」


 などと、意外なところで意外な交流があったり。


「じゃ、私達は狩りの勝負でもしよっか」

「そうね、肉を持ってくるのがとりあえず手っ取り早いでしょ」


 などと、ユディとクロスが勝負を始めたり。


「あまり狩りすぎてもいかん。我は木の実など食べれる植物を探してこよう」

「ベンゼンさん、狼人(ライカンスロープ)なのに肉じゃなくて草食べるんすか?」

「野菜も美味いものだぞ、フルト。好き嫌いは良くない」


 などと、意外な食生活を知ったり。


 まだまだスタートしたばかりとはいえ、不平不満は一切見られない。

 意外にも傭兵団の皆さんも、開拓サバイバルを楽しんでいるようであった。


「カデュウちゃん、俺らこっち探索してくるわ。メルガルトに伝えといてくれ」

「了解しました。オーラヴさん、お気をつけて!」

「ぐはは! また美味い料理よろしくな」


 そう言い残しシードワーフのオーラヴが、他の団員と共に森に入っていった。

 喜んでもらえて嬉しいなぁ。魔村長の仕事ではないのだけど。

 シードワーフとは北海諸島とも呼ばれるノルドランド地方に暮らす、海に適応したドワーフ族だ。

 ドワーフならではの技巧が生かされ、造船技術や航海技術などに優れている。




「カデュウ、海を発見しましたよ! もしかしたら、お魚さんが釣れるんじゃないでしょうか!」


 考え続け頭が疲弊してきた頃に、アイスが子犬のように飛びついてきた。

 痛い。

 腰の剣の柄が叩きつけられた、予期せぬ腹部への攻撃だ……。


「うぐっ。……そ、それは大事な情報だね、よく見つけてくれたよ。お魚さんがいると楽になるね」


 農業が軌道に乗るまでは、山菜の収穫や漁業などが重要な食糧源となるのだ。

 食事内容のバリエーションという点でも、海があるというのは大きい。

 それに、将来的に船をつかって海洋交易も視野に入るのだ。


「よし、それじゃあ調査に行ってみようか。今、城の周辺に戻っている人は誰がいるかな……」

「……ここにいる」


 いつの間にか、静かに横の椅子に座っていたイスマから挙手でのアピールが入った。無言だから気付かなかった。

 そういえばイスマに仕事を割り振っていなかった、さぞ暇だったろう。

 一度考えてみたあげく、任せられそうな仕事が思いつかなかったのだが。

 困った時の運搬役だろうか……、でもあまり荷物持てそうにない……。


「……ひま」


 はい、すみません。忙しくて忘れていました。


「じゃあ、イスマも一緒に行こうね。さあ、調査に行くよー」

「……忘れられないように、一緒にいこー」


 ちょっと根にもってる……。

 汗を流しつつも、頭をなでなでして誤魔化しにかかるカデュウであった。


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