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りそまお~理想の開拓スローライフは魔王城から~  作者: 絵羽おもち
第1章 まったり冒険な開拓準備
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第24話 イストリア吟遊店 コーヒー

 店長だと名乗った少女、トーラは明るく元気良く挨拶する。

 カデュウは何かが少し気になってまじまじと観察してみた。

 ……わずかに耳が尖っているような。もしかしてホビックなのだろうか?

 ソトと違って、この少女の場合は判断が難しい。個体差というものかもしれない。


「はじめまして、カデュウと申します。こちらがソト、アイス、イスマとなっております」

「おいおい、品物みたいに紹介するなー?」


 まとめて紹介しないと名前が『……ごろごろ』になっちゃう子とかいますし。


「吟遊店、ってどういうお店なんですか? やっぱり詩人用の?」

「品物自体は、私の趣味で変わったものを仕入れたり、手広くやってますよー。もちろん名前の通り吟遊詩人さん向けの品物も取り扱ってますね」


 胸を張って自慢げなトーラ。

 ソトといい、ホビックはこの手のタイプばかりなのだろうか?


「でも“吟遊”の意味は、このお店自体があちこちを移動する、旅するお店って所からも来てますね。なかなかお洒落さんでしょう。えっへん」

「……つまり、交易商人みたいなものですか?

「はい、似たようなものです。魔道具の類も扱ってるし、珍しい武具もありますよ」


 この規模の露店が旅をしているとは、カデュウも驚いた。

 扱う品から見て、庶民向けというより特徴ある個人向けの露店なのだろう。

 主に冒険者や吟遊詩人などがターゲットのようだ。

 品物をちらっと確認すると、数こそ多くないが確かに上質そうな武具が確認できる。 どれも普通の店には置いてなさそうな逸品の風格があった。

 その中で執事姿の老人が、品の出し入れを行っている。


「なんだか色々置いてある店だな」

「本とか武器とか鎧とか……服もありますよ」

「……このじーさんを買おう」

「申し訳ございません。私は売り物ではないのです」


 イスマがフリーダムな事をいって、執事さんを困らせていた。

 ごめんなさい、とカデュウが即座に謝る。

 何を言い出すのかわかったものではない。


「ツゼルグさえ良ければ、私は売ってもいいんですけど」

「御冗談を。今後ともお嬢様の下で、お仕えいたしますとも」


 トーラの冗談に、ツゼルグと呼ばれた執事さんが真面目な反応を示していた。

 お嬢様と呼ばれていたが、良い所の出なのだろうか。


「それで、カデュウさんでしたか。どのような品物をお探しですか?」

「この3人の服と、魔霊石です。服はともかく、さすがに魔霊石は置いてないですよね」

「ありますよ? うちの品揃えは色々豊かですからね!」


 えっへん、と胸を張るトーラ。ホビックの外見も相まって、小さい子が背伸びしているようで微笑ましい。


「ほほーう。どれどれ見せてもらおうか」

「こちらです、ご案内いたしましょう」


 執事さんに連れられて、ソトが魔霊石を見に行った。


「それじゃ私は服の紹介をしましょうか。こっちですよ」


 案内のトーラに従い、中々複雑な立体露店の中を歩く。

 トーラの止まったあたりに、様々な服がかけられていた。

 どれも一風変わったものばかり、だが生地の艶、手触り、柔らかさ、など素材の質は一級品であった。


「これ……、お高いんじゃないですか?」

「お安くしておきますよ!」

「値段に触れないところが怖いですよ……。おすすめの物はどれでしょう?」

「そうですねー。こちらのお2人さんの服なら……」


「アイスさんにはこちら、チュニック風の袖がピラピラしたやつなんかどうでしょう。イスマさんにはこのルース地方風の金彩入りローブなんかがいいですかね」


「それじゃ僕は他のとこ見てますよ。良いのを見繕ってあげてください」


 外からは女性にしか見えないらしいが、中身は男の子のカデュウである。

 邪魔になってはいけないと、気を利かせて他の品を見て回る事にした。




 武器、防具、服はもちろん、書物、旅用品、楽器、アクセサリー類、などなど。

 実に豊富な種類の品物が並んでいる。

 何気なくカデュウが手に取ったものは、細い鉄の棒で組まれた円錐状の謎のアイテム。なんだろうこれは。


「そちらは野外用のドリッパーですな。コーヒーを淹れる時に使うものです。こちらのネルと一緒に用いるものですぞ」


 いつのまにか先程の執事さんが隣に立っていた。

 ソトの買い物は終わったのだろうか。


 本来、この大陸ではコーヒーを飲む習慣はなかったのだが、南方のカヌスア大陸との交易で入手できるようになって以来、庶民も気軽に飲めるようになっていた。


 産地や品種によって味や香りが異なるので、通好みの高級品では同一産地の豆を集めた銘柄が特別な品として取り扱われている。

 庶民層が飲めるのはもっぱら低品質から中品質のランクの、さらに産地不明の混ぜ物であった。


 カデュウはどちらかというと紅茶の方が好みなのだが、商人としてどちらも嗜むようにはしている。

 先生の教えが、万事への関心が商機に繋がる、というものだったからだ。

 そのおかげで若い割に、豊富な知識量を得る事に繋がっていた。


「野外でコーヒーを淹れる為の道具ですか。……風情がありますね」

「しかし、違うのわかる方には、より良い品となるこちらをおすすめ致します」


 やはり円錐状なのだが、格子状に細い金で編まれた網が張られている。

 先程のものと違って、布を使う必要がないという事だろう。


「こちらの品ならば、ネルでは吸収されてしまう香味や旨味を出す事が出来ます」

「ほほう……。味にこだわるならこちら、という事ですね」

「左様でございます。特別な一点物で少々お値段は張りますが……」


 味にこだわるカデュウの決断は早かった。

 まんまと執事さんにはめられた気もするが。


「……そうだ、ケトルもあります?」

「もちろんですとも。こちらのケトルがお手頃で軽量なものです。旅をされる方には丁度いいでしょうな」

「いいですね。ではそれも一緒に買いますよ」

「ありがとうございます。会計は全てご一緒でよろしいですかな?」

「はい、よろしくお願いします。あ、このパスタケースもお願いします」

「かしこまりました。コーヒー豆の銘柄はいかがしますか?」

「豆も買わせる気ですか? 執事さんもお上手ですね。ではムーハを」


 野営の道具も色々とあるものだ、と感心する。

 ちらりとあちらを覗いたら、ソトが服を選んでいた。

 

「ソトさんは、この黒いマントが良いんじゃないですか。悪っぽくて」

「待て。なぜ悪にしようとする?」

「でもこれ、魔力伝達が良くて効率が大幅に上昇する、素敵な代物なんですよ」

「よーし買った!」


 ……せめて値段を確認してから選んで欲しい。

 マジックアイテムだったら、お高くてちょっと困るのだけど。

 先程、値段も見ずにコーヒー器具を買った事は棚にあげておいた。

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