第22話 アイスソード
少し前まで明るかったアイスが意気消沈してしまっている。
人気が少なく落ち着ける高台まで連れてきて、カデュウはアイスに向き合った。
「……どうしたの、アイス? なんだか元気無いよ」
その黒髪の少女は、元気無くうつむいている。
「私は、やっぱり駄目なのかもしれません」
「うん。……僕でよかったら、話してみて」
その目を見つめながら、にこりと、カデュウは柔らかく微笑む。
「私は、――人を斬るのが、好きなんです」
アイスの、独白が始まった。
「お爺様には、斬れると思ったものを斬れ、と教えられてきました」
「毎日、毎日。何かを斬っていました。人も、人でないものも」
「お父様には、大切なものは斬ってはいけないと、教えられてきたのですが……」
「ある日、……兄を斬ってしまったんです」
「――斬れると、思ったから」
「動かなくなった兄を見て、自分のした事にはじめて後悔しました」
「でも、わからないんです」
「もう、何を斬っていいのか、何を斬ってはいけないのか、わからないんです」
「私は壊れてるんですよ。ダメな子なんです。さっきも、カデュウを……」
「――大丈夫」
泣きそうになっているアイスを、抱きしめる。
優しく、ふんわりと。
「ここまで一緒に旅をして、アイスはちゃんと僕に確認してくれたよ」
「はい……。自分では……斬っちゃダメなものがわからないからです」
「感覚でわからなくても、覚えていけばいいんだよ。ね?」
制御するのは本人である必要はないのだ。
わからなければ聞けばいいのだ。
癖があろうとも、才能があればそれを生かす環境を用意すればいい。
「それだと、カデュウに、判断を委ねますよ? ……依存、しちゃいますよ?」
艶やかな黒髪の少女は、潤んだ瞳でカデュウの目を見つめる。
「うん、いいよ。そこまで気に病むんだから、アイスは凄く良い子なんだよ」
「……抱きしめながらそんな事言われると、恥ずかしいけど、嬉しいですね」
少し、目元から涙をこぼしていたが、やっと笑顔を見せてくれた。
「やっぱり、アイスは笑顔の方が似合ってるね」
「……この至近距離で、そんな事してると。……告白されちゃいますよ」
悪戯っぽく笑うアイスの表情は新鮮だった。
カデュウは自分のしでかした事に気付き、慌てて言い繕う。
「いや、その。そういうんじゃないから。僕は女の子らしいから、お友達感覚だよ?」
「ふふ、都合の良い時には女の子になるんですね?」
「使えるものは使っていく効率主義だからね」
ゆっくり、アイスの身体から離れ、少し火照った頬を冷やす。
予想外のトラブルだったけれど、うまく落ち着いた事にほっと一息をついた。
「あは。これでカデュウがいないと、生きていけない子になっちゃいましたね」
「……なんか、責任取らなきゃいけないような響きはちょっと」
「じゃ、お菓子買って下さい。美味しいの食べたいです」
「あはは。もちろんいいよ」
足取りも軽く街中へと2人は歩き出した。
休日はまだ始まったばかり、気を取り直して楽しむのだ。




