第十話 最終回
修学旅行三日目。
今日は京都タワーに行った。
その後、帰ろうとした矢先、私は重大なことに気が付く。
「リュックが無い……!」
「ええー!? 川崎さん、そんなもの失くしたの!?」
真鍋美波は、ありえないものを失くしたことに驚いた。
「まあまあ、私なんてランドセル忘れたまま登校したことあるよ!」
「黙っとれ、望月ぃ!! 違うの、無くしたんじゃないの!」
私はリュックを皆の傍に置いてから、トイレに行ったことを話す。
だが、問題は誰一人私の「トイレ行ってくるから荷物見といて」という言葉を、京都タワー展望台から見える景色に気をとられて、聞いていなかったことである。大丈夫か、この集団。
「パクられたの?」
和気ふぶきが不安そうな顔をして首を傾げた。
「ええー! あと二十分で、集合だよ!」
「私、受付に落し物が届いていないか、訊いてくる!」
真鍋美波は気を利かせて、そう言ってくれた。
「じゃあ、あたしは先生呼びに行ってくるね」
凪野未来がのんびりと去っていく。でももうちょっと急げ!
残りのメンツ、私と望月と和気と塚本で手分けして展望台や女子トイレなどを手当たり次第に探したけれど、リュックは見つからなかった。
「落し物も届いてないって……」
真鍋は申し訳なさそうに言った。
「どうしよう……」
私は焦っていたし、自分のバカさ加減にちょっと落ち込んだ。
だが。
「川崎!」
聴いていて、心がときめくあの声。
目の前には、私のリュックを持っている翔平くんがいた。
「これ、お前のだよな?」
そこにはマジックで罵詈雑言が書かれている私のリュックがあった。
「どうしよう、汚したって親に怒られるぅう!」
「そういう問題じゃないでしょう」
私の言葉に呆れた塚本の声。
「どういうこと?」
やっと来てくれた担任の先生に、私は仕方なく今までのことを全て話した。
「今まで全然気づかなかった……」
申し訳なさそうに教師は項垂れた。
「まあまあ、女子ってそういうことに頭働かせるの上手いですからねー」
私は慰めるが、望月がなぜか呆れたような視線を向けてくる。
「川崎さんって本当に鋼の心臓よねー」
「とりあえず、このリュック、どこにあったの?」
先生の質問には翔平くんが答える。
「男子トイレ……」
「え?」
みんなが固まる中、私はつい笑ってしまった。
「ぶふぉ! あいつら、男子トイレの中に入ったの! ウケるー!」
みんなの呆れた視線の中、私はお腹を抱えて笑っていたのだった。
***
京都を発ち、新幹線とバスで、学校に到着する。本当はもう解散だけど、みんなはまだ残って喋っていた。
「川崎ー」
翔平くんに呼ばれて、私は翔平くんの席に向かう。
しばらく楽しくお喋りしていると、なんだか焦げ臭くなって周りが騒がしくなった。
「川崎さんのリュックが燃えている!」
振り返ると私のリュックが燃えていた。
「おおー、燃えてる燃えてる! 写真写真!」
私はスマホのカメラを用意する。
「今はそんな場合じゃないだろ!」
翔平くんや周囲のクラスメイト達が、必死で消火活動をした。幸い、火はすぐに消し止められた。
火が止まってすぐ、翔平くんは太田を振り返る。
「お前! いくらなんでもひどすぎるぞ!」
「はあ? あたしがやったって証拠は?」
「バカじゃなければ誰がやったってわかるだろ! 逆にお前じゃないって証拠は!?」
「ぐっ」
太田は息をつまらせる。
「ていうか、もとはといえば、川崎美春がビッチだから悪いんじゃん!」
太田の言葉に、私はちょっと傷ついた。
「なにそれ……」
私は今まで、男子に媚を売ったつもりなんてない。勝手に惚れているだけだとかは言うつもりはないけれど。
「太田、あんたもモテたいなら男子と喋ればいいじゃん! ジャンプ買ったり、共通の話題の作り方は色々あるでしょ!」
「はあ!? 別にそこまでして男子によく思われたくないし!」
「別にそれならそれでいいの! とにかく、私のことは放っておいて!」
そしてすぐに私は教室を飛び出した。
「待てよ!」
翔平くんが追いかけてくる。
人気のない裏庭まで来たときに翔平くんに手首を掴まれて、私は立ち止まる。
「太田にビッチって言われたことが傷ついたのか?」
「うん」
「安心しろよ、太田のあれはやりすぎだ。クラス、いいや学年中の皆がお前の味方だぞ」
「……うん」
私の声は涙ぐんでいたのかもしれない。
でも翔平くんが優しく抱きしめてくれたので、そんなことどうでもよかった。
「これ、ハッピーエンドかな?」
「苛めは多分終わる。なんの問題もなくなる。でもハッピーエンドじゃない」
「なんで?」
「俺達、まだ付き合ったばっかじゃん。これからまた色々あるよ。だから、ハッピーだけど、エンドじゃない」
「俺達の青春はこれからも続く……ってことか。B級だね」
「いいじゃん。好きだろ? B級」
「そんなこと一度も言ってねーし」
「兄貴より俺をとった時点で、平凡のB級が好きなんだよ」
私たちはくだらない話を続けた。とにかく話を終わらせたくなかった。
ずっとこのままぎゅっとしていて欲しかった。
あったかい。
面倒臭いことはどうでもいい。
とにかく今は、この温もりを感じていることにしよう。
前作はヒロインとヒーローが握手以上のことをしていないのですが、今回はめっちゃがっつりハグをしていますねww
前作は恋愛の仕方がおかしくて書いていてある種辛かったので、今回は普通の子と恋愛させようと思って書きました。
しかし、ヒロインが「普通の男子」を求めすぎていてヤバいですね。
イケメン三人を振って苛められるとか……恐ろしい。
次回は P.A.WORKSみたいなキャラクターが可愛くて、三角関係がある小説を書きたいと思っています。
ただ、更新しなきゃって焦っちゃうタイプなので、とりあえず小説がまとまってから、UPしようと思います。
どんだけ先の話だ……!
ここまで付き合ってくださってありがとうございました!
前作、前々作を上回る駄文ですみませんでした!