第7話 彼女は会いに行く①
11月3日、サブタイトル変更しました。
とりあえず、今後の予定が決まった私は早速王城の外に出て、神殿に向かいました。
年齢性別不詳の神官セシルさんから『祝福』を受け、カーティス様に『祈り』を捧げて、最大HPと最大MPの1UPとスキルポイントGET!
こつこつと溜めます。
昨日と違ってレベル2になったことですし、カットバニィ程度なら1人でも余裕で倒せるだろうと判断した私は、そのまま街の外に出ました。
……そして、単独行動を後悔しました。
2戦して討伐20匹達成したので帰ろうと思った時、BOSSらしいのが出て来たのですよ。
ぎざぎざした剣みたいな角の生えた黒い毛並みのカットバニィ(ソードバニィ)が襲ってきました。不意打ちで。
強制BOSS戦は1対1でしたけど、何度も死ぬかと思いましたよ。
突進攻撃を避けたルーシェリカさんの代わりに、木がへし折れたり、地面がえぐれたりしたので。向こうも素早くて、なかなか攻撃が当たりませんでしたし。
戦闘後、回復薬を飲もうとしようとしたらステータス確認が出来たのですが、マジでギリギリでした。
のこりHP3って!!
レベル3に上がりましたけど、こんなギリギリはもう嫌です。
今後、絶対に1人ではモンスター討伐しに行かないと決意しました。
あと1つ発見が。
通常のカットバニィで闇魔法がどんなものか、実際に発動させて実験してみたところ、異常状態付与だけでなく魔力ダメージが追加発生する事に気付きました。
命中したと思ったら、カットバニィが倒れて崩れてアイテムと化していったので。
闇魔法は凶悪だと思います。
根源であるカーティス様は良い御方なのに。
BOSSを倒したその足で逃げるように王都に帰り、私は冒険者ギルドに向かいました。
「――すみません。今、よろしいですか?」
昨日とは来る時間が違うからでしょう。
冒険者ギルド内に居る人間も多く、空いている受付は一つしかありませんでした。
その受付の人間は、昨日アレンさんと一緒に話をしたサラ嬢です。書類から顔を上げた際に、銀縁眼鏡がキラリと光ります。
「はい。どうぞ、シリス様。本日はどのような用件で、当ギルドの方へおいでになられたのでしょう?」
おお。名前を覚えられてますね。
一日に何十人単位で人と接する職業だから、人の顔と名前を即座に覚えられるように鍛えられているのでしょうか?
「――こちらで引き受けた討伐クエストを達成したので、報告に」
「……シリス様は昨日カットバニィ討伐を引き受けておられましたね。もう、規定値を到達なされたのですか?」
「はい。これが証拠品です」
そう言って、ルーシェリカさんは背負い袋から『カットバニィの爪』を取り出して、サラ嬢の手元に差し出しました。
サラ嬢は驚いたように目を見張りましたが、虫メガネのようなモノを引き出しから取り出すと、1つ1つ丁寧に観察していきます。
あの虫メガネって、鑑定出来るマジックアイテムの類でしょうか?
「…………確かに、バニィの爪が20個ですね。討伐依頼達成、ありがとうございます。未だに異常繁殖の原因が不明なのですが、何か、討伐中に変わった点などございませんでしたか?」
「1匹ですけど、ソードバニィと遭遇しました」
「――ソードバニィですって!?」
サラ嬢の顔色が変わりました。
ルーシェリカさんはギラリと光る『ソードバニィの角』を取り出し、証拠品として提示。
サラ嬢は虫メガネで早速観察すると、難しい顔で唸ります。
「これは……確かに、ソードバニィが存在したようですね。おかしい。王都周辺に生息していないはずなのに、何かが原因で移動してきたということ?」
ぶつぶつと何かを呟いているサラ嬢。
ルーシェリカさんと一緒に、私は困惑しながらサラ嬢が戻ってくるのを待ちました。
「あの?」
「――はっ! し、失礼しました。有力な情報提供ありがとうございます」
どうやら、BOSSの情報は重要だったようです。
サラ嬢は『ソードバニィの角』を返してくれました。
「情報提供と早期依頼数到達のため、今回の報酬はその分増額させていただきますね。報酬の方は事前のお約束通り、当ギルドを介してあの御方の名前で寄付を行います」
パンパンパン!!
破裂音と共に、花火のようなド派手なエフェクトが目の前に浮かび上がりました。
『討伐クエスト達成!!
民衆支持率が10上昇しました。
なお、クエストのランクが上位であるほど、達成時の支持率は上昇します。
ルーシェリカは新たな称号を得ました。
証拠品として、カットバニィの爪20個を失いました』
目がちかちかする中、天の声が響き渡ります。
……創造神、無駄に凝っていますね。私の世界のゲームに詳しいのでしょうか?
それにしても、新しい称号が気になります。
ジェラールに会いに行った後でチェックしましょう。
他に気になることが出てくるかもしれませんし。
冒険者ギルドを後にした私は、<青い鳥>で今日手に入れた『バニィの肉』を売却すると王城へ戻りました。
さくさく王城内の自室に戻り、メイド服に再び着替えるルーシェリカさん。
着替え終わって彼女が停止したので、ドアに向かい、空中に浮かんでいる選択肢から『誰かに会いに行く』を選んでみたところ、昨日とは選択肢が変化していました。
ようは、『職場に行く』を除いて全部『(名前)を探す』に変わっただけですけど。
選択するのは『ジェラールを探す』です。
ジェラールを探して当てもなく歩いていると、何故か背後を気にしながら顔を引き攣らせた男性が走り抜けて行きました。
何でしょう、あの男の人。
まるで、誰かから逃げているような。
「――おや? ルーシェリカ。最近、よく会いますね」
逃げていった男性をじっと見ているルーシェリカさんに、そう声がかけられました。
思わず振り向いた先の建物の影から歩いてきたのは、涼やかな目元をした青年です。ルーシェリカさんと目が合うと、その金色の目を細めて微笑みました。
ふわふわのウェーブがかかった長い黒髪を肩の上で一つに束ね、身体の前の方に流しています。
RPGの魔法使いが着るような地味な色の長衣の上に白衣を羽織り、右手にバスケットを持っていました。
昨日はバスケットの代わりに大荷物を持っていましたけど、同一人物です。
「――こんにちは。ジェラール先生」
そう。
彼が薬師のジェラールなのです。
ジェラールは美形の範疇に入りますが、至って受ける印象は穏やか。
エドガー様のように迫力があり過ぎたり、ミハイル王子のように無駄に顔がキラキラしていないので、ルーシェリカさんを介してではなく、私個人で話しかける場合だったとしても接しやすかったと思いますよ。
現実の私、パーマかけても数日で消える形状記憶合金かと思うほど頑固な超ストレートだったので、彼のようなふわふわした髪って憧れるんですよね。
きつい癖っ毛の友人いわく、私のような髪の方がストパーに高いお金かけなくて済む分、羨ましい、ストパーかけないなら長く伸ばして重さで広がらないようにするしかないんだ――という熱い主張を聞き、憧れのふわふわロングにも苦労があるのだと理解しましたけど。
「いやいや、ちょうどよかった。ちょっとコレ、飲んでみてください」
ジェラールはバスケットを開けると、コルクで封をしたガラス瓶を取り出しました。
ガラス瓶の大きさは350mlのペットボトルくらい。
その半分より少し多い程度、薄めた抹茶のような謎の液体が入っていて、区別するためでしょうか?
瓶の口部分に白いリボンが巻かれています。
「コレ、ボクが作った栄養剤の新薬なんですけどね。動物実験が終わって、さあ今度は人間で――と、いうことになったんですけど。何故か先程逃げられてしまって、実験体になってくれるヒトを探していたんですよ」
どうやら、さっき大慌てで走っていた男性は、ジェラールから逃げていたようです。
「……栄養剤、ですか?」
「はい。そうですよ。色々なものを混ぜてありますけど、人体に害が及ぶようなモノは原材料で使っていません」
にっこりと笑顔で言い切るジェラール。
その笑顔から、嫌だって言わないでしょう? と、いう無言の圧力のようなモノを感じます。
次の瞬間、ぱっと空中に文字が浮かび上がりました。
謎の薬を思い切って飲んでみる
謎の薬を受け取って、この場は何とかごまかす
謎の薬を断固拒否する
新薬の実験体ですか……
原材料がぶっ飛んでいないのなら、もの凄い味が変とか?
ジェラールって、髪色的に平民出身のようですし、さすがにこんな人通りのある場所で毒物は飲ませないでしょう。犯人は明らかです。
ルーシェリカさん、上級使用人ですからね。第2王女であるご主人様相手に問題起こしたいとは思わないでしょうし。
う~ん…………動物実験が終わっているのなら、大丈夫でしょう。
『思い切って飲んでみる』で!
「――分かりました。飲みます」
「そうですか。いつも、ありがとうございます。早速、飲んでみてください。感想を聞きたいので」
「はい」
ルーシェリカさんはジェラールから謎の薬を受け取ると、コルクを開け、くいっと呷る様にして一気に飲み干しました。
清楚系美少女な外見の割に、なんて男前な飲みっぷりでしょう。
薬の味は抹茶のような見た目の割に、すっきりとしています。
果汁入り野菜ジュースみたいに、ほんのり甘くて飲みやすくて美味しい。
咽喉越しも良く、薬という感じではありません。
ピローン! と、お馴染みの効果音と共に、天の声が響き渡ります。
『ルーシェリカは謎の薬を飲んだ。
MPが20回復した!!』
「……どうですか?」
バスケットの中にでも入れていたのでしょうか?
ジェラールはメモ帳のようなモノと鉛筆を手に、いつの間にか右目に片眼鏡をかけて、笑みをけして真顔になり観察するような眼差しで、こちらを見つめています。
「はい。ええと、美味しいです」
「美味しい?」
ルーシェリカさんも、私と同じような感想を持ったようです。
味覚が似ているのかもしれません。
「吐き気がしたり、頭痛がしたり、お腹の調子がおかしかったりしませんか?」
「いいえ。特に無いです」
「なるほど……ふむ、現時点で副作はなし、と。その代わりに薬の効果発現が思ったより低いような…………ああ。協力、ありがとうございます」
パタンとメモ帳を閉じると、ジェラールは片眼鏡を外して、一緒に白衣のポケットに押し込みました。
バスケットじゃなくて、そっちから出したんですね。
「副作用が出る可能性もありますから、あとで具合が悪くなった場合、治療するのでボクの工房か薬剤院の方まで来てください。昼はともかく、朝と夕方は大抵どちらかにいますから」
「分かりました」
「他にも何人か飲んでもらって副作用が出ないか確認する必要があるので、これでボクは失礼します。それでは、ルーシェリカ。また」
「はい」
笑顔でそう言って去っていくジェラールを見送ると、ルーシェリカさんは歩き出し――自室に到着しました。
今日1日で気になったことのチェック開始。
うっかり忘れていましたが、まず初めに人物図鑑をチェックする事にします。
「……レディ・マクスニールと、あとジェラールも見ておこうかな」
私が見たいと考えたページへと、ルーシェリカさんの細い指が手繰ります。
『ベネット・ジェラルディ・レイニドール=マクスリール(23)
身長 170c/体重 ??k
髪色 銀/瞳の色 蒼
レイニドール王国現王の第1子、第1王女。
母親は、ジェラルディ伯爵家出身の第2王妃リディア。常に微笑んでいて、真顔になることが少ないので分かりにくいが、母親似の迫力ある妖艶な美女。
マクスリール公爵家に降嫁したので、自身の王位継承権はない。
現在未亡人。前マクスリール公爵であった夫の死因は病死。政治的判断で嫁がされたが、亡き夫が生来病弱だったためか子供はいない』
ふむふむ。
完全に現時点で王位継承レースからは外れていますね。
ご主人様の政敵にならない感じでなによりですが、レディ・マクスリール。
エドガー様と同母姉弟でしたか。そういえば、色彩も同じです。
気になる点は、笑顔じゃないと妖艶系迫力美女。
何気に出るとこはドンと出て、引っ込むべきところはキュッと引き締まっているグラマーさんでしたから、可笑しいわけじゃないのですが。
つまりは悪役顔ということでしょうか?
私の考えが合っているとすると、エドガー様も母親似ということですよね。
国王様悪役顔説が崩れていきます。ほっ。
次はジェラールですね。
『ジェラール・ステア・ラル(27)
身長 178c/体重65k
髪の色 黒/瞳の色 金
ラル男爵家当主の末子。ちなみに母親は平民だが、正妻。
母方の伯父が宮廷薬師で幼少期から弟子入り。薬作りの才能があったので、とんとん拍子にそのまま就職した。
新薬や改良薬が完成するたびに、実験体を探して王城内をうろついているため、使用人のみならず貴族からも変人扱いされている。
人当たりが良く、腕もすこぶる良いので何を飲まされるのかと戦々恐々されても、邪険にはされていない。
主人公は新人の頃、高熱でふらついているところをジェラールに捕獲され、タダで治療を受けた(新薬実験にされた)ことがあって感謝しており、時々実験体を引き受けている』
なんだか、今まで見た中で一番詳しいですね。
これって、もしかすると、ルーシェリカさん本人がすでに知っている情報が載るのかもしれません。
今まで人物図鑑で見た3人と違って、個人的な交友ありますしね。
しかし、貴族出身というのは意外でした。
笑顔の圧力はありましたけど、ジェラールは貴族っぽくありませんでしたし、平民であるルーシェリカさん相手でも丁寧でしたから。
彼は男爵家なら平民でも知的職業出身相手の結婚は在るという証明ですので、このレイニードルは下級貴族と平民の結婚は珍しいケースではないのかもしれません。
さ~て。ステータスを見て、新しい称号をチェックしてみましょうか。
戦闘シーンカットで。
肝心のステータスは、載せたら6000字超えそうだったので次話の頭から載せます。