第8話 彼女は会いに行く②
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拙作を読んで下さった全てのみなさん、ありがとうございます。 朔夜
私は人物図鑑を棚に戻すと『状態を確認する』を選びました。
パッと、私の目の前にステータス情報が浮かび上がります。
二日目・夕方・自室
ルーシェリカ・シリス(17)
レベル3
称号 ナタリー王女付きメイド長
ばにぃ・きらー
HP 53/85
MP 32/32
状態・健康
属性・闇
所持金 25682ギラー
戦闘スキル 短剣A(MAX)
鞭A(MAX)
格闘C
闇魔法C
急所攻撃S(MAX)
連続攻撃C
緊急離脱C
投擲D
一般スキル メイドA
薬学知識C
スキルポイント 残り44P
装備 投げナイフ/皮の鞭
上級メイド服
所持品 爆薬(液体)/鋼糸/毒薬(効果・麻痺)
回復薬(小)5
解毒剤5
背負い袋(大)
素材アイテム バニィの毛皮7
ソードバニィの角1
ソードバニィの毛皮1
贈り物アイテム なし
特殊アイテム 謎の仮面
宝くじ5
うわぁ……名前からして色モノな感じがヒシヒシと。
いちいち平仮名であることが、ますます嫌な感じを滲ませています。
とりあえず、内容を確認してみましょう。
『ばにぃ・きらー。
バニィ系最弱カットバニーを一定数倒したと証明出来る者に贈られる称号。
バニィ系モンスターに対して攻撃力1・5倍UP。
上位称号に<バニィ・キラー>と<バニィスレイヤー>がある』
い、意外にマトモです。
よかった……完全なる色モノじゃなくて。本当によかった……
少し気になるのがステータスのことです。
『回復薬(小)』で50回復したのは分かっていましたし、ジェラール特製の謎の薬おかげで闇魔法2回発動させて減った分のMPは全快しましたが、状態が完全じゃありません。
普通に夜休んだ場合、どれくらい回復するのでしょうか?
一晩寝るだけで完全回復するのならば、まったく問題無いのですけど。
実は、『今日はもう休む』の存在が少し気にかかります。
この選択肢って、日数経過を速めるだけのものとは思えないんですよね。
回復薬は一応魔法薬の分類に入っていることもあって、アレだけ早く効果が出たっぽいですから。
ダメージの度合いが酷い場合、回復しきるまでの静養期間がいるので選択肢としてあるような気がしてならないのです。
もっとも。
明日確認してみて全快状態じゃなかったら『回復薬(小)』を飲むか、1日戦闘に出なければいい話ですから深刻な問題というわけではありません。
「今、夕方ってことは1日は3ターンで間違いないかな。昨日は昼からで4回で帰って、今日は2回戦って戻った時は多分昼だから……戦闘に出た場合、1ターンが2分割されてる?」
これまでの時間経過を考えると、王都の外で戦闘に1日を費やす場合は最大6回戦えるということに。
まぁ。カットバニィは異常繁殖していましたから、単に私の考え過ぎかもしれませんが。
私にゲーム風味な日々を送らせたいらしい創造神が、そういう法則にしている可能性って結構ありそうな気がします。
「夜までどうしよう……またジェラールを探すか、それとも他の人間を当たってみるか……」
しばらく私は考え込み、扉の方へ向かいました。
貴族支持率上昇のためには、いろんな種類の人間と付き合いが在った方が良さそうですよね。
最終的にそう考えた私は、扉の前に浮かび上がった選択肢から『誰かに会いに行く』を選び、『ロゼを探す』に決めました。
ロゼは同窓もとい、同じ孤児院出身の幼馴染です。
しかも、同性。
ルーシェリカさんとの人間関係はジェラールよりも長く、深いでしょう。
現に、昨日の遭遇イベントでの会話内容が1番仲が良さそうな様子だったので、彼女を選びました。
彼女に期待出来るのはルーシェリカさんを介し、軍部――騎士団の人間に対する御主人様ことナタリー王女の評判を高めること。そして、モンスター討伐への同行です。
騎士見習いなのですから、前衛的スキル持ちなのは間違いありません。
……この世界が現実と分かっていても、私の思考にゲーム的な判断が離れないのは、朝さんざん考え込んでた時から自覚していますし、すぐに切り替え出来ないと諦めました。
どうしたって、ルーシェリカさんというフィルターごしなので、ゲームをしているような感覚が抜け切れていないのですよ。
ソードバニィ戦は本格的に生命の危機だったこともあって、違いましたけどね。
元の世界に帰りたいという切迫感と、ルーシェリカさんに良い未来を上げたいという気持ちはとても強いので、明らかにおかしいな判断はしないと思うのですが。
私が考え込んでいるうちに、ルーシェリカさんはさっさと部屋を出て廊下を進んで行きます。
第2王女の住まいである区域から出て、中庭を通り過ぎました。
北に向かっていることからして、昨日遭遇イベントで向かった兵舎を目指しているもよう。
一個師団は楽に収納出来そうな、レンガ造りの大きな兵舎が見えてきた時、ルーシェリカさんは兵舎の隣にある体育館を思わせる円形の屋根の建物へと方向転換しました。
これは……位置的に鍛練所でしょうか?
ルーシェリカさんは迷いのない足取りで進みます。
すると、入口で立っている重そうな全身鎧を着た男性に呼び止められました。
「――そこのメイド、止まれ。鍛練所に何の用だ?」
目の部分だけフェイスガードを上げていますが、それがかえって威圧感を増幅させていて、正直怖いです。
びくつく私をよそに、ルーシェリカさんはにこやかに微笑んで友好的に振舞いました。
「この時間は鍛練所に居るから興味があれば見に来い――と、友人に言われまして。時間が空いたので見学に来たのですけど、いけませんでしたか?」
「そうか……では、少し後に出直すが良い。今、殿下がおいでになられている」
ふむ、『殿下』ですか。
多分、エドガー様でしょうね。ご主人様もミハイル王子も来そうにありませんから。
このお城の規模なら王族専用の鍛練所もありそうですから、兵士や騎士が常に使用していそうなここを使う理由はありません。
エドガー様は武闘派らしいので、視察でもしに来たんでしょう。『少し後』ってことは、そろそろお帰りだということで。
でもロゼに会いに来たはずなのに、他の重要人物とニアピンって……
「分かりました。出直します」
ルーシェリカさんはあっさり引き下がると、来た道を引き返しました。
途中、食堂に寄って籠に入れたサンドウィッチに見える軽食と水筒を受け取って、再び兵舎方面に足を進めます。
ルーシェリカさんは昨日ロゼに差し入れが欲しい――と、言われたことを引き返し中に思い出したもよう。
「――お前は、先程の……入っていいぞ。殿下はお帰りになられた」
「そうですか。では、失礼します」
許可が出たので、ルーシェリカさんはさくさく進みます。
真っ直ぐ前を見ているので、何度かこの鍛練所に入ったことがあるのでしょう。
程なくして、模擬戦のようなことをしている人物が目に入ってきました。
両者ともに入口に居た人間と同じような全身鎧姿で、片方が大剣を、小柄なもう片方は戦鎚のようなモノを手にしています。
勝負がついたばかりなのか、互いに向けて軽い礼をすると、それぞれ反対方向に歩いていくところでした。
ふと視線に気付いたように、戦鎚を持っている方の全身鎧がこちらを見ると、ぶんぶん手を振ります。そして、頭を覆い隠す兜部分を外しました。
兜の下から現れたのは、十代後半と思わしき少女の顔でした。
顎のラインまでの赤い薔薇のような髪とピンク色に上気した肌は、激しい運動による発汗で濡れています。
生き生きとした大きな灰色の眼は、嬉しそうにこちらを見つめていて。
そのまま外した兜を小脇に抱えると、その少女は鎧をガチャガチャ鳴らしながら真っ直ぐに駆け寄ってきました。
「ルー。来てくれたんだ! 何時から居たの?」
「……ロゼ、すごい汗」
ルーシェリカさんは感心したようにそう呟くと、ハンカチを取り出して彼女――ロゼの汗をそっと拭き取りました。
実は魔法がかかっているというオチでなければ、数十キロある全身鎧で動きまわっていたようですから無理もありませんが、文字通り汗が次から次へと滴り落ちています。
観戦も出来るようになっているのでしょう。
近くに備え付けられていたベンチへロゼを誘導して腰かけると、ルーシェリカさんは質問に答えました。
「来たのはついさっきよ。はい、差し入れ」
「うわ、ありがとう!」
ロゼの背後、ブンブンとちぎれそうに振られる尻尾の幻覚が見えました。
それくらい喜んでいる様子がハッキリと見て取れます。
要求したのが自分だってこと、忘れているっぽいですね。
兜をベンチの上に乗せ、戦鎚を腰の帯のホルダーに固定すると嬉しそうに水筒を開け、ごくごくと中身を飲み、はぐはぐと軽食を胃袋内に片付けていくロゼ。
いやー、ホント美味しそうに食べますね。
まだ夕食までそこそこ時間ありそうですけど、ロゼは普通に夕食もちゃんと食べられそうな様子です。
「それで? ルー、本題は何かな?」
あっという間に差し入れを完食して、満足そうな表情を浮かべたまま、ロゼは世間話をしているような普通の声音で尋ねてきました。
「新人の頃はともかく、最近はこっちに来るなんてこと、滅多になかったじゃない。それなのに、こんな短い時間で連続して会うなんてさ。偶然じゃないでしょ?」
どうやらロゼにとって、疑問に思っても仕方がない交友状態だったようです。
ルーシェリカさんはそっと周囲の様子を気にするように、視線を動かしました。
それで人目を気にしていることを察したのでしょう。
ロゼは肩をすくめて見せます。
「――大丈夫。さっきまで王子様が視察に来てたから、みんな良いとこ見せようと張り切っててさ。今日、張り切り過ぎて疲れてほとんど帰っちゃったし、残ってる人間は自分の鍛練しか興味ないような奴等ばっかり。休憩しているのも近くにいないし、聞き耳なんて立てられないよ」
ロゼの言う通り、まばらに鍛練中と思われる人間はいますが、近場にはいません。
それでも気になるのか、ルーシェリカさんは声を小さく落とし、まるで内緒話をしているようにロゼに近づきます。
「貴女の言う通りよ。協力してほしいの」
ハッキリぶっちけましたね。
ルーシェリカさん、誤魔化そうとは思わないのでしょうか?
「ナタリー殿下に忠誠を誓えっていうのは、無理。あたしはまだ見習いだけど、騎士よ。本来、騎士は王に仕えるものだもの」
レイニードルの騎士は基本的に国王に仕えるもので、王族に仕えるものではないようですね。
エドガー様(多分)相手に良いとこ見せようと頑張る人間が多かったということは、あくまで建前にすぎないと示しているのか、それとも武人肌で鍛練相手になりうる王子に評価されたいという好戦的な思考なのか。
区別しにくいです。
「忠誠を誓ってほしいなら、そう言うわ。そうじゃなくて、私に協力してほしいの」
「ふ~ん。そう」
ぷらぷらと足を揺らしながら、ロゼは気のない様子で相槌を打ってきます。
ルーシェリカさんの言葉を信じていないのか、それとも話に興味がないのか。
「今、冒険者ギルドの方に出向しているのだけど。協力してほしいのは、そこで私が引き受ける討伐クエストよ」
どうやら詳しいことは言わずに済ませるつもりのようです。
情報が漏れるのなら、最小限に留めたいのでしょう。
カットバニィ討伐の件で第2王女の配下が動いていることくらい、明日辺りには噂として出てくるでしょうから、話しても別段支障がない範囲ということですね。
「? なんで、ルーが? ルーって、一応名目上はメイド長だったよね?」
ごもっともです。
ルーシェリカさんの役職的に、冒険者ギルドから護衛などで使えそうな人材を引き抜きに行くことなら十分あり得ますが、密命を知らない立場からして見ると、メイドがモンスター討伐というのはかなり違和感を感じることでしょう。
「一応じゃなく、名実ともにメイド長よ」
「……だって、王城じゃ、メイドや侍従の半分に護衛も兼任させてるでしょ。ルーの持ってるスキル的に、絶対そっちメインだと思ってたんだけど」
どうやら王城の人間にとって、メイドや侍従に戦闘能力がある人間が居るということは常識だったようです。
もしかして、ミレイ嬢やイリスも戦闘能力があるのでしょうか?
非常に気になりましたが、そんな私をよそに、ルーシェリカさんの話は続きます。
「話を戻すわ。さすがにモンスター討伐に1人で向かうのは、肉体的にも精神的にも辛いのよ。冒険者に同行を頼めるようだけどお金もかかるし、知らない人間と一緒に戦うのって、変にストレスが溜まりそうで……」
ルーシェリカさん、実は人見知りする人だったようですね。
そういえば、アレンさん(ギルド長)が同行している時、必要以外ほとんどしゃべっていませんでした。
ギルド長で元冒険者だから人間性と実力は保証されているとはいえ、初対面の人間です。
密かに緊張しっぱなしだったのでしょう。
「そっか。それなら協力してあげても良いよ」
「本当!?」
うわ。
すごく、嬉しそうな声ですよ。ルーシェリカさん。
ギルド推薦冒険者の同行が必要だと分かっていても、よっぽど気が重かったんですね。
「ただし、あたしも仕事があるから一週間の内、休みの日だけね。ご飯とか傷薬の負担はそっち持ちで。奉仕の日と、休息の日だけでいいのなら手伝ってあげる」
「ありがとう、ロゼ。それで十分よ。確か貴女の休み、水の日と混沌の日だったわね?」
ロゼはこっくりと頷きました。
レイニドールの騎士見習いは週休2日制のようです。
奉仕の日――といっているので、完全な休みというより奉仕活動するといった意味合いっぽい日のようですが。
……ところで、今日は何の日なんでしょうか?
自室にあるカレンダー、忘れずにチェックしましょう。
水の日=水曜日
混沌の日=日曜日です。
ちなみに。
友好度と好感度は事前に付き合いがある人間と無い人間ではMAXの値が違います。
ロゼは重要人物の中で最もMAXが低い――つまり、前から仲が良いキャラ。
主人公は知りませんが、作者が無駄に設定を作ったゲーム上の『金と黒の王国』だとロゼのPTイン条件は、
遭遇イベント発生済み、
討伐クエスト受注済み、
冒険者を雇っていない、
主人公がロゼの初期レベル(レベル5)以下――の、4つです。
レベル6以上だと、自分より強いから大丈夫だとPTインしてくれない、早いうちに会いに行かないと、友好度しか上がらなくなり、彼女のイベントが発生しないという仕様。




