Act 3. Zero seconds experience 10-3
‐Everyone knows, anyone not knows.‐
Chpt10 龍。麒麟。海馬。そして、海賊旗(Jolly Roger)
☆Sept3 どうして!?
重装甲の騎士たちがせまって来ていた。
「ANKA、たいへん。これ、なに?」
エリコとミーシャがあたしのほうをむく。カーテンをめくって、ANKAが出て来た。
「どうしたのよ」
「見て」
外で鐘の音をきいたイースも入ってきて、
「どうしたんだろう。きこえるかい? いったい、あの鐘の音は」
ANKAが顔をしかめ、
「なんだろう。アカデミアの最強戦闘士、重装機甲騎兵だ。
まるで、なにかを追っているかのように疾駈している」
そのときだ。
底ひびきする大声がとどろく。
「待て、そこのふらち者、待つんだ。
待たんと、悲鳴を上げるひまもなく、殺すぞ!」
5人とも顔を見あわせた。エリコがヒステリーぎみに、
「どういうこと? ふらちって、わたしたちのことをいってるの?」
イースが冷静にいう、
「ともかく停めよう。ぼくらに、なにもあやまちはないはずだ」
ANKAもうなずき、
「そうだね。きっと、なにか誤解だ。わたしが出るよ」
「ぼくもいく」
停めた。
あたしたちは、窓から外を見る。
ANKAとイースが外を歩く。
非情な鋼鉄製の装甲を身にまとって、大きな楯に腕をとおし、まっ黒な長い槍を、あたしたちにむかって突き立てている、からだの大きい12騎の騎兵隊。
息が湯気になり、けわしい形相でこっちをにらんでいるのが、鉄の兜や頬あてごしにもわかる。
なんでよー? こわいよー。
ANKAがたずねる、
「いったい、どうしたんですか。なぜ、わたしたちをよび止めたのですか?」
1騎がすすみでる。
「とうぜんだ。しらばっくれるな、ふらち者!
さあ、返すんだ」
イースが問う、
「なにをでしょうか?」
大音声をひびきわたらせ、
「決まっておろうが!
きさまらが文書館から盗んで持ち出した『kOO』だ!」
えぇーーーっ! そんなばかな! ひどいぬれぎぬだわ!
ANKAは、さらに1歩すすみ、
「わたしたちは、そんなことはしていません」
「いや、少し、待っ・・・・・」
イースがそういいかけたとき、重装機甲騎兵たちがいっせいに大剣を鞘からぬいて、斬りかかってきた。あたし、ジョリーを飛び出した。
「ぅわあ!」
ANKAがころがってよける。眼に止まらぬはやさでイースが攻撃をかわしながら、大剣をぬく。
剣の長さは彼女の背丈を超え、刀身のはばのいちばんひろいところが彼女の腰のはばくらいなのに、すばやくぬく神技。
イースは、剣の平たい腹のところでたたき、6、7人の甲冑を破損させた。
ふつうの兵士なら、これで昏倒したにちがいない・・・・・・・
強靭な兵たちは、すぐに起き上がった。
「しかたない」
イースは、そういうと、こんどは、刃をむけてぶあつい鉄鋼の鎧ごと腕や脚に深手を負わせはじめる。
かろやかに重力を無視して、地に足をつけることなく、枝から枝へ飛ぶ鳥のように、つぎつぎ斬り裂く。アカデミア最強の精鋭である重装機甲騎兵がなすすべもなく、止まっているかのように見えた。
いったい、イースよりも強い人間っているんだろうか。
でも、あのメタルハートに殺されたことがあるっていっていたけど・・・・・
重装機甲騎兵たちは、たおれて意識を失い、うごけなくなる。
「力が入りすぎたな。手ごわい相手だったから、かげんができなかった。
しゃべることができるやつをのこしておきたかったが」
そういいながらも、イースは、平静だった。
ようやく立ち上がったANKAは、
「なぜだ。
説明をきこうともしなかった。あきらかにおかしい」
エリコとミーシャも出て来る。
「どういうことなのよ!」
エリコは、ヒステリーぎみだった。
「わからない・・・・」
ANKAがつぶやくようにこたえたとき、イースが、
「いや、わからなくもないかもしれない。
これを見てくれ」
トランク・ケースをあけた。
ジョリーの後部、あたしたちの荷物の入った皮革ケースだ。
「ぼくが荷物を入れるとき、この箱をふしぎにおもったんだ」
イースがとり出したのは、桐の箱だった。毛筆の箱書きがある。いつのまに!? ふしぎにおもってとうぜんだ。あたしたちのうちでこんな箱をつかう人は、だれもいない。
「そうだとおもった。あけてみよう」
あけた。なかにあったもの、それは、皮革装丁本の『kOO』だった! ありえねーっ!
「なんでよ、なんで、これがここにあるの? ありえないでしょっ! これ、ちょーやばいよっ!」
エリコがさけぶ。
さすがのANKAも愕然としてる。
「わたしが荷物入れたときにはなかったわ。どうして・・・・・」
ANKAがいった。
「わたしもよーっ!」
すかさずエリコがいう。ミーシャもいった。あたしだって同じく見ていない。
イースがいった、
「では、見たのは、ぼくだけなんだ」
あたし、青ざめた。だって・・・・
「でもさ・・・、文書館で最後にさわったの、あたしだよね?」
エリコがいきなりあたしをにらみ、
「あんた、なにしたの?」
「ざけんなよ、あたしじゃないよ」
イースがあいだに入り、
「わかってる。
ユリイカじゃありえない」
ANKAもうなずき、
「そうよ。しんぱいないわ、ユリイカ、わたしたち、信じあわなくちゃ。
だれかが荷物を入れるときそばにいなかった?」
「だれもわたしたちのあいだに入りこまなかったよー」
ミーシャがいったので、あたしも、
「たしかにそーだよ、あたしも知ってる・・・・・・」
って、あたしもいった。ANKAも眉根を寄せ、
「たしかに理不尽だ。
こんなことができるのは」
「運営サイドよ、管理者(Administrator)!」
エリコが声を上げた。
「いや、管理者は、人じゃなくて、プログラムで動く中枢システムだ。
こんかいのことはどう考えても人為的だ。バーチャル・システムのプログラムをいじったのであれば、運営者(作者とそのなかま)だろう」
イースがそういい、「いずれにせよ、シーレオーノ行で、きみたちにつきまとったバリユースの行動も、ウィルス・チェック以外の意味におもえてくる」
ANKA、
「でも、なんで・・・・」
あたし、
「ってか、これから、どーしたらいいの、それ考えよー」
エリコ、
「そーだよ、ユリイカのいうとおりだよ。
『現実以外の真実はない。そしてつねに選択をせまる。(聖者イヰの伝記:クレモントス・グレゴルゴン著)』ってゆーじゃん」
イースが反論し、
「いや、どうしてこうなったかもわからずに、つぎになにをするかは、決められないよ」
ANKAがうなずく、
「そうだよね。これが、いったい、なにを意味するのか・・・・」
ミーシャがいった、
「返さなくていいの?」
ANKAは、はっとした。しかし、また考えこみ、
「ミーシャのいっていることが、いちばんシンプルで強い正論だわ。
でも、わたしたちは、なんの弁明もゆるされず、処刑される」
イースが、
「どうしてこうなったかわからず、考えるいとまもない・・・・
ANKA、こういうばあい、ストレートな正論でいくべきだよ。
クレームを出すんだ」
「そうよ!」 エリコが急に活気づく。「そうすべきだわ。わたしも、ずっとおもっていたのよ。
でも、どこへいったらいいの。いったん、ログアウトするとかいわないでよ」
イースが冷静に、
「むろん、管理局(Administration)だ。
各大陸に、いくつか設置されている。
それが敵だとしても、まずは、そこへいくしかない」
ANKAは、もうケータイで検索していた。そして、いう、
「とおくない。
アカデミアの領域内にあるわ。いってみるべきね」
あたしもなんか興奮してきて、
「よーし! いこうよ。
あたしたち、わるくないんだっていおうよ」
さあ、出発よ、ってふんいきになったところで、エリコが、
「ちょっと待って」
といって、意識を失ってる重装機甲騎兵のふところから、つぎつぎケータイをとり出し、ふんで粉砕する。
「これでアカデミアへの連絡がおくれるわ。ねー、あんたたち、もっとさー、したたかになろーよ」
そーゆーとこ、ほんと、しっかりしてるよなー。
管理局の位置をナビで確認し、出発した。
吹雪はあいかわらずだ。ディスプレイを見ながら、
「右の道をいって」
あたしは、ケータイで外にいるイースとジャジュとにつたえる。
「あやしい影は見えないか」
イースがそうたずねた。
「ないよ、だいじょーぶ・・・・のようにおもわれる・・・・みたい」
いわれると、よけいに緊張する。あたしたちには、リアルに危険があるんだ・・・・・・
ホンキで気をつけなくちゃいけない。いつまたつぎの追手が来るか、わからない。
「アカデミアの追手が来るまで、かなり時間があるはずよ。
おちついてよ、ユリイカ」
ANKAは、そーゆーけど・・・・・
アカデミアをとおく離れても、草木のない、岩ばかりの山岳がつづいていた。
左右をけわしい山にはさまれてる。岩が迫ってくるようなせまい道だ。
ジャジュも應龍も麒麟も海馬も降りつもる雪で白くなっている。それでも、イースは、微動だにしない。迦楼羅もだ。どんな気持ちなんだろか、こんな状況で寒さのきびしい外にいるのって。
「吹雪ひどいね」
そういいながら、ANKAがあたしのわきに来て坐り、
「敵のことは、ともかく、少なくとも道をはずれていないか、しっかり位置確認していて」
「はずれようにも、ほかに道ないじゃん。て、わかったよ、だいじょうぶだよ」
といいつつ、ほんとかな、と自問自答。
そろそろ、交替なんだけど、ミーシャにこの仕事できるのかなー。
っておもってると、おいしそうなにおいが。あれ?
「おやつ、できたよー」
昼飯もまだなんですけど? まぢ、こいつ、やれんのか?
あたしは、ホットケーキをムシャムシャしながら、ディスプレイ見る。
「ユリイカ、食べるのに夢中になりすぎて、監視をおこたらないでね。こんな場所で襲われたらたまらないから。
とくに、上から攻撃されたらね」
あたし、おもわず窓から切り立つ左右の岩壁を見上げた。た、たしかに・・・・・・・
ANKAが笑う、
「さあ、画面になにも映ってなきゃ、心配いらないんだから。青い顔しないで」
でも、じつは、気になっているものがあった。
「ねえ、見て、ANKA、これ。
毛皮で着ぶくれした人たちが雪の穴から出入りしてるみたい。
ほら。
で、この人は、岩の上に登ってる」
「山賊ね。
こんなのは、放置しておこうよ。来たら撃退するまで」
ハイマツか、低い灌木が目立ちはじめてきた。
さらに下ると、ダケカンバ(岳樺)らしきものが雪になかばおおわれて立っている。木が増えてくると、なんとなく安心する?
あ、シラカンバ(白樺)だとおもった瞬間、まわりは森だった。
トウヒ(唐檜)とか、樹皮が暗褐で鱗状のカラマツ(唐松)、トドマツ(椴松)、黒褐でなめらかなややあわいいろのエゾマツ(蝦夷松)とかの針葉樹にかこまれている。
でも、道はまだまだ下り坂だった。
イースが雪をはらいおとしながら、入ってきた。
「ふぅ、こごえたよ。ひどいもんだ。ふうっ。
そろそろ、休憩にしないか。ホットケーキじゃ、おなかもあたたまらないし」