Act 3. Zero seconds experience 10-1
‐Everyone knows, anyone not knows.‐
Chpt10 龍。麒麟。海馬。そして、海賊旗(Jolly Roger)
☆Sept1 海賊旗
エリコがあざけるように、
「ふん、どーしたのよ、あんたら、センチメンタルになってさー。笑わせるわねー。
未来を見なさいよー、未来をー。ねえ、ANKA」
「いいじゃない、エリコ。そういうときもあるわ、それよりさー」
そういいながら、ANKAは、指さし、
「これ、わたしのよういした馬車を見てくれない? まー、馬車っていっていーのか、びみょうなンだけどねー」
その言葉にうながされ、停まっている乗りものを見たあたしたちは、あぜんとした。な、なんなの? こんなのあり?
ANKAが説明する。
「むかしの車を参考にしたわ。
1900年代のクラッシック・カーをね。
ただ、あの当時の車は、オープンカーに折りたたみ式の幌がついているような感じものが多かったけど、さすがに、ここじゃ寒いから、しっかり箱にしたわ。
それと、ほんらいなら、ボンネットがあってエンジンのおさまる車体のまえの部分を馭者席にしたわ。
バルコニーみたいなんで、わたしは、バルコニーってよぶことにしたの」
「あ、あのー、ぜんぜん、わかんないんだけど、どんな車を参考にしたの?」
でも、ほんとにふしぎなのは、そこじゃなかった・・・・
「たとえば、」
ANKAは、いう、
「1910年型チャドウィックChadwickとか、1909年型ホワイトWhiteやロジェLozierやフォードFordやビュイックBuickとか、1907年型トーマスThomasとか」
きいたこともないなまえの車ばかり。いや、でも、そこじゃなくって・・・・
「1905年型ピアレスPeerlessとか、それから、1901年型メルセデスMercedesとか・・・・参考にしたのよ」
ちっとも、わからんけど、あのー、そうじゃなくって・・・・
「フェンダー(車輪の泥よけ)と、サイド・ステップがつながっていて、はばがかなりひろいでしょう? 歩けるようになっていて、デッキとよぶことにしてるわ。
歩く人がおっこちないように、柵もつけてあるでしょ。
フェンダーは車輪に沿って大きく山なりもり上がっているから、歩いてもいいように、ステップをつけてあるわ」
たしかに、手すりもついていて、船のデッキに見えなくもない。
たしかに、船みたいだ、てゆーか・・・・・・・
車体が泛いて・・・・、いや、沈んでいる!
どこにって? 路に! そう、石だたみに!
車体の4分の1が沈んでいる。うまってるんじゃない、沈んでいる。どういうことなのか、さいしょのうちは、わかんなかった。
よく見ると、石で舗装された路がそこだけ液体みたいになっている! なんじゃ、こりゃ~!
ともかく、海に泛かんでいる船みたいな感じだった。
ほんらいなら、車の影ができるはずの部分の、路の石が液体のようになっている!
車輪が蒸気船の外輪みたいに見えた。
液体状になっている路面を漕ぎ出しそうに見えるし、じっさい、そうであることがうごき出してからわかった。
けど、さらに、おどろかせるのは、この船みたいな車をひっぱるいろんな動物だ。
見たこともない生きものだった。
「なんなの、あれ、う、馬じゃないよね、つーか、先頭のは・・・・・・・龍?」
イースが、
「先頭につながれているのは、翼のある龍だ。
應龍っていうのさ。
東洋ふうの龍って、翼がないのが多いんだけど、こういう龍もいるんだよ」
そう教えてくれたあとに、エリコがまたしゃしゃり出る。
「應龍については、龍のなかでも位が低いものという説もあれば、龍の最高位だ、っていう説もあるのよ。
べつの説では、龍と鷲との混血、ともいうし」
ふーん。ときどき、もの識りになるよな、こいつ。
「そのうしろは、なーに?」
ミーシャがきいた。1匹の應龍のあとには、2匹の(2頭っていうべきなのかしら?)龍のような、馬のような、ふしぎな生き物が。
イースが、
「麒麟だ。はじめて見たな。
動物園とかにいるキリンじゃないよ。伝説上の聖獣さ。
龍と牛とのハーフだともいわれてる。むかしの中国では、麒麟が世にあらわれることが瑞兆(幸運のしるし)だとされていた。
そして、そのうしろにいる4頭は、海馬だ」
青黒くぬれたように、つやつやとぬめり光る生き物で、上半身が馬、下半身が魚だった。その4頭は、まるで甃が海であるかのように、半身をちゃぷちゃぷと沈め、ときおり尾びれをはね上げさせている。
ちょうど、この海馬のまわりから馬車(っていえるのか?)の車体の周辺のところまで、路面が液体状になっていた・・・・・・
「さいしょは、ふつうに龍馬にしようかとおもっていたんだけどね、それじゃおもしろくないんで」
「龍馬?」
龍馬というのは、たてがみが流旗のように長くて、ふつうのサラブレッドよりもひとまわり大きく、飛ぶように何千キロも走りつづけることができるすごい馬のことだと、イースが教えてくれた。
車体には、海賊旗(Jolly Roger)がかかげられている。
ANKAが満足げにいった。
「お遊びよ。
名づけてジョリー。
ぜんたいに航海をイメージしているの。海馬と車のまわりを液状化させて、海をわたるみたいに漕いですすめるよう、設定してもらったのよ。
先頭の應龍は、独立して活動できるから、偵察なんかにもつかえるし、いざとなれば、空からの攻撃も可能なのよ。まあ、切り離せば、麒麟も、海馬も、みんな個別に活動できるんだけど」
イースがきく、
「でも、この動物たちを操作する馭者が必要じゃないか?」
ANKAが笑って、
「なんのためにアバターをつくったとおもうの?
見て、ジャジュよ」
どこからともなく1人のかしこそうな褐色の髪の少年があらわれて、バルコニー(馭者席)に坐り、手綱をにぎる。
「彼が龍をあやつって、聖なる獣たちを統率するわ」
眼がきらきらしてる。あたし、おもわず、
「へー、イケメンじゃん」
エリコがまたまたしゃしゃり出て、
「あーら、わたしのエチカも見てよ」
すると、金髪で日焼けした、碧い眼の、背の高い筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の少年があらわれる。剣を腰に佩いていて、革の鎧の上にマントをはおっていた。
あたし、
「ふんいき、グラディエーター(古代ローマの剣闘士)っぽいねー」
「そーよ、そーゆーコンセプトだもん。
っつーけどさー、あんた、グラディエーターってネーミングの由来、知ってんの?
古代ローマのコロシアム(円戯場)なんかで闘う剣闘士たちがローマ軍団の武器だったグラディウスって剣をつかってたから、そぉよばれてんだよ。
ちなみに、グラディウスは刃わたり70センチくらいの両刃の剣で、さきがするどくとんがってる、とか知ってんの?」
「知らん。きょうみもない」
ほんとは、そうでもなかったんだけど。意外に歴史好きなあたし。
ミーシャもさわぎ出し、
「えー。わたしのユユくんも見てー」
すごい細身で、美少年なんだけど、ぜんぜん役立ちそうもない、繊細そうな緑の瞳、白皙のきめこまやかな肌、マスカラつけて金いろの長い髪をした、ビジュアル系の少年が出て来た。まぢっすか?
ぢゃ、イースは?
「迦楼羅っていうんだ。
なんでもこなせる器用なやつさ。寡黙だしね。
つきあいやすいよ」
おだやかそうだけど、眼がするどくて、表情のない、やせて冷たそうな感じの少年だった。
つきあいやすいって、そりゃあ、イースだけだぉ・・・・・・・
「ユリイカのは、どぉよ?」
あんのじょう、エリコがきいてきた。
「あたしのは、彼よ」
あたし、非錄斗を指さした。
白っぽいさらさらした髪に、うすい蒼い双眸、チュニックとズボン、頬あてのように、青い龍の刺青が頬に彫ってあって、眼の下に5ポイントのサイズで細緻な梵字のタトゥーを入れている。金泥いろで。
その梵字を七宝(金、銀、瑪瑙、赤珠、瑠璃、玻璃、蝦蛄の7つの宝石に由来するらしー。金・銀・瑪瑙以外は、どぉゆーもんだか、昨日まで知んなかった・・・ハハハ)を鏤めて飾ってみた。
どこか翳のある少年ふうにしあげて、なんか、いーじゃん。って自画自讃だぉ。
コウキくんなんざ、眼じゃねーぜー、って、まだ依存粘着してるじぶん、情けなくね?
「なんかさ、暗くねーか?」
ケチつけんじゃねーよ、エリコ。
で、あたしは、もちろん、シカト。
「さあ、さあ」
ANKAがみんなをうながし、
「まだ説明したいことがあるから、荷物をうしろのトランクにつんで。そして、なかに入って」
車体のうしろにまわった。
後部に大きな革製のトランク・ケースが固定されてあり、荷物を入れる。最後にイースが荷物を入れた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない・・・・・」
イースは、トランク・ケースをしめた。
「あ、見て、きれいね。金いろぴかぴかのランプがつるしてあるー。すごいよー」
見上げてミーシャがいう。イースも気をとりなおしたようにうなずき、
「美しいね。漆塗りみたいにつやがある」
ANKAがステップに片足をのせながら、ふりむいて、
「あ、そう、そう、軽量自家発電機があって、パソコン使用可だから」
あたし、おどろいた。
「ネットつながるの?」
「ここをどこだとおもってる?
あ、そうそう、ユリイカ、冷暖房つきだからさ、携帯用カイロもトランクにしまっていいよ」
門の外では、たくさんの人たちが出立しようとしていた。
すでに隊列をととのえて、道を下っていく人たちもいる。たぶん、もう見えないくらい、とおくへいっている人たちもいるんだろう。
まだアカデミアのなかで寝ぼけまなこのまま、旅じたくさえ終えてない人たちもいるんだろうし・・・・・なんて考えてみる。
留年(いや、学年じゃないから、留年とはいわないよな?)して、アカデミアにまだ数日(数週間か?)のこる者だっているだろうし、あたしたちよりあとに来た人たちは、ふつーに寮で、まだ寝ているだろうし・・・・。
「ね~、あれ見て、ジンよ」
ミーシャがいう。
あたしは、ミーシャの指さしたほうを見た。
ほんとだ。




