94.外伝 王孫殿下の憂鬱
ティアス王子はドゥンケルハイト王の直孫で、父親は第一王子、母親はリヒト帝国の大貴族の出身、しかも一人息子という、運命が型枠で固められているとしか思えない環境で育った。
11歳という年齢なりに考えることはあったが、周囲の期待に応えて「王孫殿下」と呼ばれていた。
良くも悪くも難がない、それが周囲の彼への評価だった。
何が何だか分からない。
彼はマンチェス辺境伯邸の大広間を見渡した。
こういう晩餐会に参加したことはあるが、今日は自分がホストだというのだ。
外国の要人、知らないエルフ二人をもてなす? どうやって?
彼はやりたくないと拒否した。
そんなことより父上、母上、国王陛下はどうなったのか。
そう言って抵抗したのだが、フルオロ伯爵に懇願されてここに座っている。
結局、座っているだけで良いということになった。
王城はどうなってしまったのだろう。
あの日は国王陛下が父上に譲位されることを、主な貴族に伝える予定だった。
叔父上の軍勢が王城に入ってきたのは、儀式の準備ができた頃だった。
最初は父上と叔父上の言い争いだけだったのが、一部の者が剣を抜いて争いはじめ、ついには炎魔法を使う者が出た。
室内で炎魔法を使ってはいけないと、子供の自分ですら教わっているのに。
王城のタペストリーやカーテンが激しく燃えだし、天井を炎が覆っていた。
燃える広間から逃れた父上は扉の前で剣を抜き、彼に逃げるように命じた。
その後は良く覚えていない。
二階の窓から、庭にいた護衛の騎士たちの上に投げ落とされたのだ。
担がれ引きずられ、気が付いたら船に乗せられていた。
船には思ったより大勢の者が乗っていたが、炎上する王城の国王陛下や、父上、母上がどうなったか答えてくれる者は誰もいなかった。
それはこの町に入ってからも同じだ。
王都から多くの者が逃れてきたが、父上と母上の消息がわからない。
父上が皆を逃がすために騎士たちを集めていたという話を聞いたが、
その者は加勢もせず逃げてきたという不忠者だ。
信用できるわけがない。
先程から話しかけられているようだが、誰もが消息の話を避ける。
こんな会合に出ても何の意味もないではないか。
マンチェスの食べ物は旨いと聞いていたが、どの料理も味がしなかった。
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王孫殿下の態度は問題があったが、誰も咎めはしなかった。
11歳の王子が父母と引き離されたのだから仕方ないだろうと。
もちろん、皆値踏みはしている。この殿下はどの程度の実力なのかを。
国王陛下、第一王子殿下はいまだに消息不明だ。
クーデターを起こしたマクシミリアン宰相は身柄を拘束しようとしたが、
手違いで王城が炎上。
戦闘を中止して救助にあたったが大勢が焼死した模様。
この情報はまだ確定していないが、皆同じ結論に達していた。
そのせいだろうか。
この晩餐会の中心人物は、あからさまにフルオロ伯爵だった。
私的な昼食会のホストから晩餐会のゲストに衣装替えをした彼は、
精力的に人々に話しかけ、場を盛り上げていた。




