92.交渉キター
「あの、いい話があるんですけど…」
学内で怪しい教材の販売をしていた奴を参考にした訳ではないけど、
完全に同じ感じだろうな。
「なんだ、急いでいるんだ早く言え。」
伯爵。さっきからお付きの人を待たせているのはアンタですよ。
「秘密の話なんですけど、ちょっとだけ良いですか?」
「思わせぶりだな。
小賢しいお前がそこまで言うのだから聞いてやってもいい。
時間がない、控室で着替えるがそこまでついてこい。」
ダイニングルームに隣接する控室では伯爵に人払いをしてもらった。
お付きの人が絶望の視線を向けてきたけど、ちょっとだけだから許してね。
「お前の魔法に関する事か?人に知らせない方がいいと忠告してやっただろう。」
「確かに魔法にもかかわりますが、金に関する事です。
二つあります。」
「金?良さそうな話だな、言ってみろ。」
「その前に約束して下さい。
この話はモイモイのエルフ達と私の権利に関わります。
ちゃんと代償を払って頂きたいのです。」
「話が読めんな。具体的に内容を言ってみろ。
筋が通った話なら代償は当然払う。」
フルオロ伯爵には訳のわからない権力闘争に勝手に巻き込まれた経緯はあるけど
他に頼れそうな人はいないし、何となく信用できそうだ。
「金の大鍋があります。モイモイのエルフ達の財産ですが
私に売却を委託されています。伯爵に買っていただきたいのです。」
「モイモイに?金は全て手放したはずだが?」
「煮込み料理に使っていたので引き渡すのを忘れたそうです。」
「モイモイらしい話だ。大きさはどれ位だ?」
「私では抱えきれない程の大きさ、重さです。」
「それは…。見つかったら騒ぎになるな。滅多な所へは出せない。
来歴等は隠さないと。 で幾ら払えと?」
「具体的な金額はお任せしますが正当な値段で買い取って下さい。
そのお金を昼間見た両替商にモイモイ名義で預けて下さい。」
「子供のクセにしっかりした事を言うな。何故そうしたい。」
「エルフ達はお金の事は知っていますが、使おうとしません。
今はそれで良いのかも知れませんが、それでも必要な物は買っています。
先の事はわかりません。備えておくべきです。」
「本当に小賢しい子供だな。わかった、鍋の重さを測って記録し
正当な価格で買ってやる。その金を伯爵家出入りの両替商に預ける。
それでいいな?」
「よろしくお願いします。それでもう一つの方なのですが…。」
「なんだ、言いにくそうだな。遠慮するようなタマじゃないだろ、
早く言え。」
俺は伯爵にどう思われてるんだろうか。
まあいいや、そう思われてるなら気楽だ。考えた事を要求してやろう。
「まだ実態はありませんが、金山がある確実な情報があります。
これを金貨1300枚、私の母と祖父母の借金と相殺して欲しいのです。」
俺が金山を事業としてやって。儲けるのは難しいと思うんだ。
管理とか経営とかやった事ないし、元手もいるし。
「金山の情報?そんな物十日に一回は売り込んでくる奴がいるぞ。
根拠はあるんだろうな。」
「金鉱石と砂金が少しあります。採れた場所は言えませんが。」
「お前がバルツから出た事が無かったのは知っているから
砂金が採れる川なんて絞れてしまうぞ。その辺は子供だな。」
しまった、まずったか!
「だが面白い。金鉱石と砂金、買ってやろう。
金貨1300枚は無理だが利息と督促を止めてやる。
それでどうだ?」
えーと。借りパクできるという事でしょうか?
「お前が俺についている間だ。
本当に金山があったらお前をバルツの領主にしてやる
借金はその収入から返せ。」
結構厳しいというか、
働くのがマリアさんから俺に変わっただけじゃね?
俺の親父のハゲ男爵が戻れなけりゃ、マリアさんどうなるんだろう。
「さすがに黙ったか。世の中厳しいという事だ。
俺だって無尽蔵に金は出せない。」
ここで俺の頭を撫でるとかがんで顔を近づけてきた。
「お前を見てると危なっかしくてしょうがない。
いいか、今みたいな話、他所では絶対するな。
金かねや力があるって事は狙われる事だ。」
「それは理解しているつもりです。」
「わかってないさ。お前は大魔法使いで何でもできると思っているかもしれんが
世の中の連中は騙し討ちにしてくる。気をつける事だ。」
「そんな事は思ってないつもりですが。…気をつけます。」
「そうしてくれ。で、その金の鍋と鉱石はどこにあるんだ?」
「どこか小部屋を貸していただければ、そこで取り出します。」
「全く、とんでもない魔法だな。
いいか、絶対人に教えるなよ。回復魔法だけでも
使えると使えないじゃ大違いなのに、荷物を自在に出し入れできる?
軍隊は物を上手く運んだ方が勝つようになっているんだ。
お前一人で戦況が動くぞ。どんな騒ぎになるか想像もつかん」
伯爵は俺から離れると控室の壁をいじりだした。
壁の一部が隠し扉になっているようだった。
「ここは俺しか知らん部屋だ。ここでいいだろう。
鍋はずっとそこに置いてあった事にする。」
伯爵に隠し部屋に押し込まれた俺は亜空間倉庫に出入りし
金の鍋と砂金と金鉱石の入った箱を取り出した。
その後そっと隠し扉を開けると…伯爵が衣装変更していた。
「掃除は終わったか?済んだらさっきの部屋に戻りなさい。」
伯爵が芝居ががった調子で言うと廻りにいたお付きの人も
納得…しているのか?という感じだった。
とりあえず、元の部屋に戻ろうとする俺の耳に金の鍋を磨いて夕食会に
出すよう指示を出す伯爵の声が響いた。
本当に忙しい人だ。




