79.虎の威、キター
石畳の上を馬車が走る。異世界物では優雅に描かれる事が多いけど
ノーサスで木枠に鉄の補強をしただけの車輪だから振動は凶悪だ。
正直、歩いた方が楽、走った方が早いと思う。
ギルドでダーナが「私は家があるけど貧しくて孤児院に入れられてね、
インガが面倒をみてくれたの、だから…。」
長い、この子が自分語りすると絶対長くなる気がする。
後で聞くからと必死になだめ、
「朝一番で刑場に行った。」事がわかった。
役所からギルドまで乗ってきた馬車をそのまま使ってもいいとのことで
町はずれの治安の悪い所にあるらしい刑場に向かう。
役所の人とダーナがどうしても一緒に行くというので同乗したせいもあり
激狭、振動が辛い。早く着かないかなと思っていたら馬車が止まった。
到着?と思ったら御者さんが誰かと言い争っている。
「道を空けろ、役所の馬車だぞ。」
「こんな狭い道を馬車で来やがって。今日罪人が来るとは聞いてねぇぞ」
「罪人ではない、刑場に行くだけだ。」
「刑場?今日はもう儲けたから明日来な。」
「何を訳のわからん事を言っている、早く通さんと監獄に送るぞ。」
役所の人が馬車から降りて大声を出した。
「何だよお役人様がエラそうに。折角の酒が不味くなる!
お前達が勝手に来たんだからお願いします、通して下さいと
手をついて頼むのが筋だろが。」
どうやら酒をのんでるらしい。朝っぱらからロクでもない。
「何故邪魔されるんだ?」
朝っぱらから酒臭いエルフが聞いてきた。
ネッチャのイライラも伝わってくる、俺知らね。
エルフ達から預かっている革袋いっぱいの魔石だけど、
モイモイを出る時には空だったのに道中で出会った
魔物を倒していただけで、あんな風にはち切れそうになったんだ。
邪魔した奴だけだよ、中には進路の邪魔だというだけで
蔓と一緒に切られた哀れなのもいたけど。
前にいるゴロツキ、十数人いるけど森の魔物に比べたら
ザコもザコだもん。
カバの胴体にライオンの足、ワニの尾の奴と
3m位の熊で背中に棘の生えた甲羅のある魔物の群れは
そこそこ強かったかな?
他の魔物はネッチャだけで倒してたけど
その時だけはバッチャも加勢していたな。
大きな魔石がいっぱいとれたけど先を急ぐから
全部は回収しなかった。勿体ないお化けが出る。
そんな話はどうでも良いんだ。
早く行きたいのに待たされてキレたらしい
ネッチャが馬車から降りてしまった。
「ドク、ワタシタチススム、ユルス」
片言の人語でゴロツキに呼び掛けている。
「ファ、さっきのエルフ?のはずないか、髪が伸びてるもんな
なんだ、仲間のこれを取り返しにきたのか。」
ゴロツキの親玉らしいのが何か言っているけど、
「バッチャ14人だ4人足りない。歌にならないね」
「ふっ、3分位か?殺すなよ。町で殺すとフルオロの顔を潰す」
「そんなに時間はいらないと思う。」
ゴロツキさん達、エルフ語わからなくてヨカッタネ。
そのままネッチャは素手ですたすたと歩いて行った。
「危ないよ!」一応警告はしておこう。
「ほら、子供が心配してるぞ。もう遅いけどな」
危ないのも、遅いのもお前達だけどな。
相手も殺す気までは無かったらしい、棒は持っていても
武器は抜いていない。
最初の棒の一撃を躱したネッチャはあっという間にその棒を奪うと
振り回し…2分かかったかな?全員叩きのめした。
倒れていた親玉が自分の剣に手を伸ばした時には
ネッチャの短剣が相手の喉元にあった。
「ヌク、クビ、キル」息一つ切れていないネッチャが言うと
ゴロツキ達は完全に戦意喪失したみたいだ。
「さすがはモイモイの戦士、凄まじい。」
唖然としていたお役人がポツリと言う。
ゴロツキと野次馬が息をのむのがわかった。
「そういう大事な事は早く言って下さいよ!命ばかりは、
命ばかりはお助けを!あっ、これ差し上げます、だから命ばかりは…」
親玉が大根にしては色が濃い植物を差し出している。
「あっ、それインガ達が探すって言ってた奴!」
馬車の中から見ていたダーナが叫んだ。
「い、いや、違うんですよ。拾った、そう拾ったんですよ。
決して弱っちいエルフ達をボコって取り上げた訳じゃないですよ。」
バカ発見。ネッチャに尋問を任せておくと時間かかりそうだし
俺がやろう。虎の威の効果も確かめたいし。
「どこで拾ったの?それより弱っちいエルフってどこに居るの?」
俺が声をかけると親玉はキョロキョロしながら何か考えているようだ。
誤魔化されないぞ。
「早く答えて、バッチャが待ってるんだ。」
「えっ、今何と。バッチャって聞こえたんだけど…あの、まさか…」
「そう、モイモイのバッチャ」
親玉、泡吹いて倒れるかと思った。あわあわ言ってる。
逃げようとしていたゴロツキ達は腰が抜けたようだ。
効果、ありすぎた。
馬車の中のダーナが顔面蒼白、馬車の御者さんは固まっている。
今後は使い方考えよ。
時間がもったいないのでゴロツキさん達にキリキリ働いてもらおう。
さっさと現場に連れて行くように、嫌だ?逃げられるとでも思う?
馬車は加勢を呼ぶために行かせ、バッチャ、ネッチャとダーナ、俺
役目上どうしても来るというお役人さんでゴロツキに案内させて
刑場まで徒歩で行く事になった。




