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エピローグ

 黒伏家が所有する広大なキャベツ畑。

 強烈な日差しが照り付ける中、麦わら帽子をかぶった黒伏畳三は、野菜移植機を使いながら黙々と苗を植えている。

 畑の中にはポールがいくつか立っている。

 ポール上部に付いたひもは、他のポールに向かって伸び、ポール同士をつなげている。

 ポール間に張られた紐からは、いくつもの紐がぶら下がっており、ぶら下がった紐には、光学ディスクが括り付けられている。恐らく、鳥よけだろう。

 数ある光学ディスクの中に、『49アドベンチャーズ』があった。

 これは、畳三のおいが興味本位で買ったものだ。

 買ったはいいが、最後までプレイしきれずに投げ出してしまった。

 売っても大した値段にならないから、鳥よけにでも、という事で、甥が家に来た時にもらった。

 甥からもらった『49アドベンチャーズ』は、太陽の光を受けて、眩しく輝いた。



 黒伏家の畑からそう遠くない所に、墓地がある。

 沢山並んでいる墓の内、一つを前にして、若い女性が立っている。

 女性は白いハットをかぶり、半袖ワンピースを着ている。

 女性は下総愛菜子。両手に花束を抱えている。

 下総は花束を墓前に供えると、両手を合わせ、目をつむり、頭を下げた。

 ――安らかに眠ってください、須分くん。

 合掌を終えた後、人の気配がしたので、横の方に向くと、五十歳前後の男女がいた。男の方は桶とひしゃくを持っている。

 須分夫妻である。

 下総と須分夫妻は、目が合うと互いにお辞儀した。



『お前に、いちいち教えてたら、キリがねーんだよ! 他をあたれ! この学習能力ゼロのド阿呆が!』

 法廷に鞭岡の声が響き渡った。

 と言っても、鞭岡自身が発した声ではない。

 重坂がICレコーダーに録音したものである。

 当の鞭岡本人は、職場での態度が嘘であるかのように大人しくしている。まるで借りてきた猫のようである。

 鞭岡は職場での、それも多くの人目にさらされている場所で、須分考太や重坂達に叱責した事及び暴言を吐いた事を認め、更には請負として対応すべきスタッフ達に直接指示した事も認めた。

 だが……

「ディレクターでもある椎尾格樹が立てたスケジュールは、極めてタイトで無理があるものでした。ですから、それに追われていましたので、後輩には厳しく接していました。丁寧に接する時間が無かったのです。それと、請負への直接指示についてですが、これは短期間で納得のいくものに仕上げる必要があったためです。詳細を直接指示せざるを得なかったのです。これ程までにスケジュールは厳しすぎるものでした。これだけは、ご理解ください」

 あくまでも、原因は格樹が立ち上げたプロジェクト及びそのスケジュールのせいである、というスタンスは変えないようである。


 法廷に響き渡ったのは、鞭岡の声だけではなかった。

『深夜残業は続き、徹夜すらある。おまけに鞭岡君から毎日叱責を受ける。厳しいと思うかもしれないけれども、だからといって、ここを辞めようと考えない方がいい。なぜなら、他社はもっと厳しいから。『三百六十五日二十四時間、死ぬまで働け』と考えているような企業がざらだぞ。だから、ここで頑張り続ける方がいい。真面目に頑張っていればクビにはしないから』

 椎尾門太社長の声も響き渡った。これも重坂が録音したものである。

 裁判長は「この発言について、どう考えていらっしゃいますか」と社長に尋ねた。

「小生は須分君に働き続けて欲しかった。厳しいからと言って、会社を辞めないで欲しかった。他社に行かないで欲しかった。鞭岡君に鍛えられる事により成長し、ゆくゆくは鞭岡君のようにリーダーになり、会社を支えて欲しかった。結果として、この発言が須分君を追い詰める原因の一つになってしまったのかもしれませんが、小生は、そのつもりで言ったのでは決してありません」

 社長に須分考太を追い詰める意思は無かった。

 しかし、過重労働を強いていた事や、鞭岡の須分達に対するパワハラについて何もしなかった事は、認めている。

 認めざるを得なかった。



 過ちを犯したD社、N社、T社、C社、K社。

 これらの会社には何らかの制裁が下った。

 残業代の支払い、業務改善命令、和解金……

 新作の開発に失敗した上、裁判等の出費がかさんだD社の経営状況は悪化し、大手に吸収合併される事になった。

 社員の大半は、そこに移った。

 だが、鞭岡将磨と椎尾親子の姿は、そこには無かった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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