また待ち伏せ
長距離ジャンプを終えた流彗星号の目の前にはティフォン星系の外周部にある小惑星帯が広がっていた。
この場所は海賊たちにとって格好の襲撃場所でもある。小惑星帯には当然の様に海賊たちが設置した監視装置があり通りかかる船を感知できるようにしていた。
その監視装置にジャンプ直後の流彗星号は捕捉されたのである。この情報は即座に海賊たちのもとに届けられた。
「ボス、監視装置に獲物が掛かったようですぜ。」
ひげ面でいかつい顔の男、海賊団のボスであるグランが視線で獲物の種類と場所を催促する。
「獲物は……ブラジオン級の輸送艦、場所は暗黒空間方面の小惑星帯の入り口付近です。獲物はそのまま小惑星帯に侵入した模様。ボス、こいつらこの間の奴らじゃ……?」
「……おそらくこの間の奴らだろうな。」
グランは丸太ほどもある腕を組み考える。この間はいいようにやられたが、そうは問屋が卸さない。前回の借りはきっちり熨斗を付けて返さなくてはならないのだ。それにこの星域を我々以外が簡単に通すことは許されていない。
しかし、あの船の操縦者はかなりの腕前であり、戦闘経験が豊富であることが容易に想像できた。普通にやっていたらこの間の様に翻弄される恐れがある。
「……よし!野郎ども、スーツを使え。スーツで近づいて船を乗っ取ってしまえ。」
「ボス……スーツですか?ですがあれは本国からの物ですので足が付きませんか?」
「大丈夫だ、問題ない。奴らにはここで全て消えてもらう。なら我々が何者なのか、足の付きようもないだろう。」
そう言ってグランは椅子に深く腰を据えると静かに笑った。
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流彗星号は長距離ジャンプ後の点検を行っていた。
ジャンプドライブで連続ジャンプは可能である。しかし、二連続ジャンプの場合の事故の確率は五十%、三連続に至っては九十九%事故が起こるとされている。その為、点検なしに続けてジャンプを行う事は無謀と言われていた。
操縦系の点検をしながらサバーブは連宋に進捗状況を尋ねた。
「連宋、ドライブの点検はどこまで進んでいる?」
「ジャンプドライブ本体の点検は終わったよ。ドライブ自体安定しているね、後はドライブに繋がる動力チューブの点検だけだね。」
「よし、俺の方は今終わったぞ。いやー、疲れた、疲れた。」
火器管制系の点検を終えたリランドが自分の座席に座り大きく伸びをする。リランドは疲れたと言っているが実際の点検は機械が精査しておりリランド自身は機械が報告するデーターを目視で確認するだけなのだが彼にとってデスクワークは疲れるものらしい。
とは言え、連宋やサバーブが手を離せない時は船外の監視は彼の役目だ。
「ん?サバーブ、この船に接近する連中がいるぞ。」
リランドが操作するパネルに流彗星号に接近する小さな点が十個映っていた。
「数は八。距離は五千キロ、あと一時間でここへ来る。大きさから見て強化防護服だな。サバーブ、どこか小惑星の影に入ることが出来るか?」
操縦系の点検中のサバーブは手を止め答える。
「そうだな……駆動系の点検をする必要があるし点検をしながら小惑星の影に入ることは可能だ。どこの小惑星が良い?」
サバーブの言葉を聞いたリランドは大きく頷き一つの小惑星を指差した。
「それならあの小惑星の影に……その後、元に位置に戻ってくれ。連宋、お前の強化防護服の協力も必要だ。出れるか?」
「点検の結果待ちだからしばらく時間はある。ついでにジャミングもしておこうか?」
「助かる。」
席を立ち船倉へ向かうリランドと連宋にミカエルが声をかける。
「リランド君たちは一体何をする気なのだ?」
「何、待ってくれたお礼をしようと思ってね。」
そう言ってリランドは獰猛な笑みを浮かべ船倉へ向かって行った。




